マンションの大規模修繕工事は何年周期が適切なのか。工事費用はどのくらいかかるのか。相場や目安を知りたいが、どうすれば分かるのか。
じつは、国交省が2021年に実施した下記の調査報告書「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」が大いに参考になる。
概要版はあっさりし過ぎだし、詳細版は情報過多。ホントに必要な情報を中心に可視化してみた。
実態調査の対象・時期など
調査対象・時期・方法などは次の通り。
アンケート回答時点(2021年7月~10月)から直近3年間に受注したマンション大規模修繕工事の例878件とされている。
- 調査対象:アンケート回答時点から直近3年間に受注したマンション大規模修繕工事の設計コンサルタント業務や施工の受注実績を有する企業
- 実施期間:2021年7月~10月
- 調査範囲:
- マンション計画修繕施工協会会員社:159社
- マンション管理業協会会員社:357社
- その他設計コンサルタント業務を行う企業:298社
- 調査規模・回収状況:200社(回収率24.6%)、工事サンプル878件
大規模修繕工事「修繕周期」「工事金額」の目安
詳細版は64枚。次の7つの項目で整理されている。
- マンション大規模修繕工事に関する実態調査について
- マンション大規模修繕工事について
- 大規模修繕工事の設計コンサルタント業務について
- マンションの戸数規模・大規模修繕工事回数別の集計
- 長期優良住宅認定を受けたマンションにおける大規模修繕工事
- 超高層マンションにおける大規模修繕工事と施工業者の取組状況
- 大規模修繕工事の発注先の選定方法
「2.マンション大規模修繕工事について」「4.マンションの戸数規模・大規模修繕工事回数別の集計」のなかから、マンションの大規模修繕工事費用の目安になりそうなデータを可視化していく。
なお、長期優良住宅認定を受けたマンションと超高層マンションについては、サンプル数が少ないことから(それぞれ5.0%、5.5%)、可視化の対象外とした。
修繕周期:1回目14年、2回目以降13年
報告書の「マンション大規模修繕工事の回数と修繕周期」(次図)は、情報過多。
そこで、修繕周期につき、回数ごとの「下位25%値」「中央値」「上位25%値」 を可視化した(次図)。
ザックリ言えば、修繕周期は、1回目が14年、2回目以降は13年が多数派。
「⑤マンション大規模修繕工事の回数と修繕周期」P11を元に作成
床面積あたり工事金額:延面積1万m2、1回目1.1億円、2回目1.3億円
※以下に示す金額には、消費税相当額は含まれていない。
報告書の「大規模修繕工事回数と床面積(m2)あたり工事金額」(次図)は、情報過多。
そこで、床面積あたり工事金額につき、回数ごとの「下位25%値」「中央値」「上位25%値」 を可視化した(次図)。
例えば、延床面積10,000m2のマンションだと、1回目が1.1億円、2回目以降は1.2~1.3億円ということになる。
「④大規模修繕工事回数と床面積(m2)あたり工事金額」P15を元に作成
(参考)戸あたり工事金額:1回目110万円、2回目106万円
※以下のデータは専有面積の大小に関わらない金額なので、参考扱いとした。
報告書の「大規模修繕工事回数と戸あたり工事金額」(次図)は、情報過多。
そこで、戸あたり工事金額につき、回数ごとの「下位25%値」「中央値」「上位25%値」 を可視化した(次図)。
戸あたり工事金額は、1回目が110万円、2回目が106万円、3回目が97万円ということになる。
「③大規模修繕工事回数と戸あたり工事金額」P14を元に作成
本来は2回目、3回目と回が進むにつれて、マンションの劣化も進むので工事費は増加するはずだ。でも、実際にはそのようなっていないのは、積立金不足が影響しているのかもしれない。
物価高騰をどの程度見込む必要があるのか
実態調査報告書に掲載されたデータは2年前(21年7月~10月)のもの。近年は物価高騰が激しいことから、これから大規模修繕工事を計画するためには物価上昇分を見込む必要がある。
そこで、建設物価調査会が公開している「建築費指数(2015年基準)」をもとに物価補正することにする。
※同指数は、新築工事が対象なので、厳密には大規模修繕工事の指数とは異なるが、他に適切なデータが見当たらないことから活用することにした。
2015年基準の東京の集合住宅(RC造)の建築費指数を次図・次表に示す。
建築費指数は、ロシアによるウクライナ侵攻(22年2月24日)以前の20年12月あたりから急激に上昇したが、最近は落ち着いてきている。
工事原価の建築費指数は、マンション大規模修繕工事に関する実態調査が実施された2021年が107.1、2023年1月~3月の平均値が121.1。
よって、上述したマンションの大規模修繕工事費用の目安に1.13倍(=121.1÷107.1)した値が最近の相場ということになる。
あわせて読みたい