不動産ブログ「マンション・チラシの定点観測」

首都圏を中心に、マンション選びのためのお役立ち情報を提供しています


築20年超マンション購入検討者必読!『優良中古マンション 不都合な真実』

なぜ、古いマンションの給湯管(銅管)ピンホールによる漏水事故はあまり知られていないのか。

心ならずも漏水事故の当事者となってしまった著者。不都合な真実を社会に広く知らしめるために、関係者らへの精力的な取材を重ねた労作(途中で自らマンション管理組合の理事長にもなっている)。

築20年を超える中古マンションの購入を検討している人には強くおススメしたい1冊。

優良中古マンション 不都合な真実

※投稿22年10月11日(追記22年12月12日)


もくじ

給湯管ピンホールによる漏水事故

マンションの漏水事故。

知らないうちに自分が階下への漏水被害への加害者になっていたら、きっとあたふたするに違いない。

まだ、給湯配管に銅管が使われていた時代の古いマンションでは、銅管が腐食し小さな穴(ピンホール)が開き、階下への漏水事故が発生することがあることはあまり知られていない。

2000年頃からは銅管から架橋ポリエチレン管への転換が進んだので、ピンホールによる漏水問題は解決されている。逆に言うと築20年超の中古マンションの検討をしている人は要注意ということになる。

※現在の新築マンションでは、給水・給湯配管とも架橋ポリエチレン管をさや管に通した「さや管ヘッダーシステム」が採用されている(次図)。

さや管ヘッダーシステム
さや管ヘッダーシステム|架橋ポリエチレン管工業会

本書を出版するに至った著者の動機

心ならずも突然漏水事故の加害者となってしまった著者。その悲惨な経験が世の中に共有されていないことが執筆の動機。

はじめに

(前略)30年かけてようやく住宅ローンを完済、購入当時は買い替えを想定していた我が家は終の棲家となり、その我が家が名実ともに自分のものになった矢先、心ならずも突然漏水事故の加害者となってしまいました。

かつて不動産の仕事に従事していましたし、法律と会計を主要執筆分野と位置づけている筆者にとって、不動産は現在の執筆分野の一つでもあります。にもかかわらず、マンションの漏水事故に関する知識も、マンションをとりまく諸制度や商慣習についても、まったく無知だったことを思い知らされました。

20年近く前から、多くの人が突然漏水事故の加害者となり、悲惨な思いをしてきたにもかかわらず、その経験は世の中に共有されず、新たに加害者となる人はまったく情報がない中で途方に暮れるということが繰り返されてきました。

記者を職業とする筆者に災いが降りかかったのは、いわば天命との思いで本書を執筆しました。マンションの漏水問題が社会問題として、一人でも多くの人に共有されることを願ってやみません。

(P1-2/はじめに)

悪だくみの構図

管理会社と設備工事会社が結託すれば、調査費、加害者宅、被害者宅の工事代すべてにおいて、暴利をむさぼることができるという構図。

加害者の神経を逆なでする示談書の「加害者」欄
(前略)管理組合、加害者、被害者のいずれもが何も言わないと、一連の手続きの登場人物は、管理会社、設備工事会社、保険会社、保険査定会社の4社だけとなり、管理会社と設備工事会社が結託すれば、調査費、加害者宅、被害者宅の工事代すべてにおいて、暴利をむさぼることができるのです。

加害者宅は狼狽えていますし、調査費と被害者宅の工事代金は当事者の負担はゼロなので厳しいチェックは基本、入りません。

唯一の歯止めは保険会社の査定のはずなのですが、業者がうまく見積書をつくれば、見積もりどおりに査定は下りてしまうのです。

(P176/第4章 マンション総合保険の裏側)

保険会社から支払われたお金が管理組合・被害者をスルーして設備工事会社に支払われている(次図)。

悪だくみの構図
伊藤歩 (著)「優良中古マンション 不都合な真実」P168-169図を元にマン点作成

「加害者負担ゼロ」の仕組み

加害者宅の修繕費を調査費と被害者宅の工事費に分けて上乗せし、その額で保険金を請求し、加害者の負担をゼロにするというやり方は、マンション管理会社のフロントマネージャーにとっての業界慣習であるという見立て。

「加害者負担ゼロ」はフロントマネージャーの常識?

(前略)漏水調査、加害者宅の修繕、被害者宅の復旧。この3つの工事をすべて、1社が受注した場合、業者としては3つの工事の代金の合計額を受け取れればよいわけで、3つの工事の代金の内訳がどうかはどうでもよくなります。

そこで、加害者宅の工事代金を、調査費と被害者宅の工事代金に分けて上乗せして見積書をつくり、その見積書が管理会社のフロントマネージャー、管理会社の保険代理店部門を通じて保険会社に渡り、難なく査定が下りてしまうのです。

この、加害者宅の修繕費を調査費と被害者宅の工事費に分けて上乗せし、その額で保険金を請求し、加害者の負担をゼロにするというやり方は、遅くとも2005年頃までに全国のマンションで当たり前に行なわれるようになった、マンション管理会社のフロントマネージャーにとっての業界慣習であることは間違いありません

(P190/第4章 マンション総合保険の裏側)

本書の構成

全5章、274ページ。参考文献付き。

  • 第1章 まさかの漏水事故が起きてしまった
  • 第2章 「水回り設備がダメになる」の謎
  • 第3章 「無保険マンション」「スラム化」を避けるために
  • 第4章 マンション総合保険の裏側
  • 第5章 マンションの資産価値を守る!

優良中古マンション 不都合な真実

【追記】ピンホール事故データに係る公的組織への開示請求結果

※追記22年12月12日

銅製の給湯配管のピンホール発生に起因する漏水事故に係る公的データを入手すべく、UR都市機構、東京都住宅供給公社、国土交通省官庁営繕に開示請求した結果を以下に示す。

UR都市機構:漏水事故データを有してない

独立行政法人等の情報公開制度を利用して、UR都市機構の本社(横浜市)宛に次の文書を郵送した。

銅製の給湯配管のピンホール発生に起因する漏水事故に係る次の情報が分かる文書

  • 漏水事故が発生した建物ごとの、漏水事故発生時期・件数、総戸数および竣工年月日

※対象時期は旧地域公団、旧都市公団およびUR都市機構に係る可能な限り古い時期から2022年9月30日に至るまで。

投函して6日後、URの設備管理部門の担当者から電話が掛かってきた。担当者とのやり取りの結果、以下の内容が確認できた。URではピンホール発生に起因する漏水事故データを有してないというのが結論。

  • 漏水事故に係る細かいデータはない
  • 銅製の給湯配管を計画的に交換することは考えていない
  • 給湯配管のピンホール発生データを取りまとめるインセンティブもない
都住宅供給公社:2か月近く努力したが、データを整理できなかった

公社情報公開制度を利用して、東京都住宅供給公社宛に次の文書を郵送した。

銅製の給湯配管のピンホール発生に起因する漏水事故に係る次の情報が分かる文書

  • 漏水事故が発生した建物ごとの、漏水事故発生時期・件数、総戸数および竣工年月日

※対象時期は平成12年4月1日以降、令和4年9月30日まで

投函して3日後、東京都住宅供給公社の営繕公務係から電話が掛かってきた。次のようにかなり前向きな回答を頂戴した。

ピンホール事故に着目した統計はないので、今回の開示請求をキッカケに情報を整理し、今後の業務に活用したい。
ついては、データを整理するのに時間がかかる。公社情報公開制度では2週間以内(最大で60日)に回答することになっているが、もう少し時間がかかることをご理解いただきたい。

上記の受電7週間後に営繕公務係から、再び電話がかかってきた。営繕公務係にはかなり真摯に対応していただいたのだが、最終的にはピンホール事故データを整理できなかったというのが結論。

  • 工事業者からの報告書を元にピンホール事故データを整理しようと考えたが、報告書に記載されている情報が「不正確」なので、どうしてもうまくまとめられなかった。たとえば、漏水事故のあった報告書を「給湯管」だけで調べようとすると、あまりにも件数が少ないなど。
  • 当方としても、筆者さんからの開示請求を受けて、いい機会なので、ピンホール事故情報をまとめようと2か月間近く努力したが、最終的には断念するに至った。申し訳ない。
国土交通省:(漏水事故データを)集計しているという事実はない

頼みの綱の東京都住宅供給公社からもデータが得られなかったので、ダメもとで、国土交通省の官庁営繕が運営している「公共建築相談窓口」に掲載されている大臣官房官庁営繕部 計画課宛に次のメールを送付してみた。

メールタイトル:「照会|官舎に係る銅製の給湯配管のピンホール発生に起因する漏水事故データ」

公共建築相談窓口様

○○(一国民です)と申します。

研究目的の一環として、給湯配管のピンホール発生に起因する漏水事故の実態を定量的に把握したいのですが、公的なデータが見当たりません。

そこで、官舎に係る銅製の給湯配管のピンホール発生に起因する漏水事故に係る次の情報を開示していただきたく、よろしくお願いいたします。

  • 漏水事故が発生した建物ごとの、漏水事故発生時期・件数、総戸数および竣工年月日

上記メールを送付したのが午後2時半。同日の午後7時に公共建築相談窓口担当者から返信メールが届いた。4時間半という、役所にしては迅速な対応である。ただ、照会データを「集計しているという事実はない」という素っ気ない文章であった。

お問い合わせいただいた件ですが、
部内と官舎の担当者に問い合わせてみましたが、
「・漏水事故が発生した建物ごとの、漏水事故発生時期・件数、総戸数および竣工年月日」を集計している
という事実がありませんでした

お力になれず大変申し訳ありませんが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。

あわせて読みたい

2023年6月1日、このブログ開設から19周年を迎えました (^_^)/
Copyright(C)マンション・チラシの定点観測. All rights reserved.