国交省航空局が航空交通管制協会に委託していた「東京国際空港における同時 RNAV 進入運用の導入後安全性評価に関する調査」(履行期限22年3月25日)に係る報告書と仕様書を開示請求によって入手した。
のり弁満載の同調査報告書(PDF:3MB←ファイルサイズが大きいので注意!)を読み解いてみた。
※以下長文。時間のない方は「もくじ」と「雑感」をお読みいただければと。
国交省に開示請求
航空局が21年7月13日に入札公告を出した「東京国際空港における同時RNAV進入運用の導入後安全性評価に関する調査」の「業務内容」には次のように記されている。
1.(3)業務内容等とは、下記に掲げる内容とする。
- 東京国際空港同時RNAV進入の飛行状況に係る検証
- 東京国際空港同時RNAV進入に係る管制運用、航空機運航等の調査
- 同時RNAV進入運用に係る導入後安全性評価に関する基礎資料作成
「羽田新経路の固定化回避に係る技術的方策検討会」のバックデータになりそうなこの調査の内容を知りたくて、国交省航空局が航空交通管制協会に委託していた「東京国際空港における同時 RNAV 進入運用の導入後安全性評価に関する調査」(履行期限22年3月25日)に係る報告書と仕様書を開示請求することにした。
ちなみに、同調査は航空交通管制協会が21年8月18日、408万円で落札(落札率48.9%)している(次表)。
国交省に22年9月3日、同調査の報告書と仕様書を開示請求したところ、10月11日に「行政文書開示決定通知書」(PDF:1.3MB)が届いた。
同通知書には、一部不開示となる旨が記されていた。
いずれも「おそれがある」ため不開示としているが、過去に開示したことで「おそれが」現実になったことはあるのだろうか。というか、非開示理由の多くは開示情報を最少化するためのこじつけとしか思えない。
極めつけは、「不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれ」があるので開示しないという2つの「参考資料」。「不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれ」がある内容を隠すのではなく、情報を開示し国民に丁寧に説明することが国交省のあるべき姿ではないのか。
不開示とした部分とその理由
- 開示する行政文書(報告書)に含まれる「独立行政法人等の職員に係る所属、氏名及び調査官研究に係る事務」の記述は、法第5条第6ハの「調査研究に係る事務に関し、その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ」に該当するため、当該該情報が記録されている部分を不開示とした。
- 関示する行政文書(報告書)に含まれる「同時RNAV進入運用の飛行状況解析」に使用したデータは、広域マルチラテレーション(WAM)と呼ばれる位置情報処理システムを用いて業務上使用しているデータで、法第5条第6号の「国の機関が行う当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」に該当するため、当該情報が記録されている部分を不開示とした。
- 開示する行政文書(報告書)に含まれる「独立行政法人等による安全性評価に係る検証」の記述は、当該独立行政法人が研究、確立した安全性評価に係る検証手法であり、法第5条第6号の「独立行政法人等が行う当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」に該当するため、当該情報が記録されている部分を不開示とした。
- 開示する行政文書(報告書)に含まれる「同時RNAV進入に係る管制運用調査」の記述は、本来公表されることのない国の機関の内部情報であり、法第5条第5号の「国の機関の内部における審議、検討又は協議に関する情報であって、公にすることにより、率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあるもの」に該当するため、当該情報が記録されている部分を不開示とした。
- 開示する行政文書(報告書)のうち、「同時RNAV進入に係る航空機運航調査」に関する記述は.本来公表されることのない法人の内部情報であり、法第5条第2号ロの「行政機関の要請を受けて、公にしないとの条件で任意に提供されたものであって、法人等又は個人における通例として公にしないこととされているもの」に該当するため、当該情報が記録されている部分を不開示とした。
- 開示する行政文書(報告書)に含まれる「同時RNAV進入時に発生した事例」、「航空保安業務に係る安全情報の報告事例」及び「ヒヤリ・ハット事例」の記述は、本来公表されることのない国の機関及び法人の内部情報であり、法第5条第2号口「行政機関の要請を受けて、公にしないとの条件で任意に提供されたものであって、法人等又は個人における通例として公にしないこととされているもの」に該当するため、当該情報が記録されている部分を不開示とした。
- 開示する行政文書(報告書)に含まれる「東京国際空港における同時RNAV進入運用に係る事前安全性評価結果」及び「東京国際空港における同時RNAV進入運用に係る事前安全性評価ハザードログ」の記述は、公表されることのない前提で国の機関、独立行政法人等及び法人が前広に検討、議論した結果をとりまとめたものであり、法第5条第5号「国の機関及び独立行政法人等の内部又は相互間における審議、検討又は協議に関する情報であって、公にすることにより、率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ及び不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれがあるもの」に該当するため、当該情報が記緑されている部分を不開示とした。
不開示理由がだらだらと記されているので分かりにくい。報告書の章立てと対応させる形でザックリ整理すると、次のようになる。
- 第Ⅱ章のうち、使用データや解析内容は「適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」に該当するので不開示。
- 第Ⅲ章のうち、「1.1 管制運用調査」は「率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあるもの」に該当するので不開示。
また、「1.2 航空機運航調査」と「2 同時RNAV進入運用時に発生した事例」は、公にしないとの条件で任意に提供された情報なので不開示。 - 「参考資料」は、「率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ及び不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれがあるもの」に該当するので不開示。
同通知書が届いた翌朝(10月12日)、「行政文書の開示の実施方法等申出書」をe-Govを使ってオンラインで申請し、220円を電子納付したところ、翌日(10月13日)に公文書がe-Gov経由で届いた。
※22年4月からe-Gov電子申請システム上での開示文書の交付が可能になったため(ファイル容量上限12MB)、開示請求手続きが迅速化された。
のり弁満載の報告書を読み解く
報告書の構成
報告書は全74枚。本文(46枚)と参考資料(28枚)で構成されている。
- 第Ⅰ章 調査の概要
- 1 調査の背景と目的
- 2 調査の項目
- 第Ⅱ章 東京国際空港におけるRNAV進入の飛行状況に係る検証
- 1 同時RNAV進入の飛行状況解析に使用したデータ
- 2 同時RNAV進入の飛行状況解析
- 3 東京国際における同時RNAV進入時の航跡図
- 第Ⅲ章 東京国際空港におけるRNAV進入に係る調査
- 1 管制運用及び航空機運航調査
- 2 同時RNAV進入運用時に発生した事例
- 3 まとめ
- 参考資料
- 東京国際空港における同時RNAV進入運用に係る事前安全性評価結果
- 東京国際空港における同時RNAV進入運用に係る事前安全性評価ハザードログ
のり弁満載(次図)のこの報告書の内容につき、「第Ⅰ章 調査の概要」から「参考資料」まで、以下順にザックリとひも解いていく。
第Ⅰ章 調査の概要
「1 調査の背景と目的」として、ICAOの第11付属書に基づき、安全性評価を行う必要があるとされている。
(前略)同時RNAV進入運用については、現在もICAOの国際基準において、規定化されておらず、ICAOの第11付属書に基づき、安全性評価を行う必要がある。
本調査では、東京国際空港における同時RNAV進入の導入後安全性評価を行うための基礎資料となる、導入後における航空機の飛行状況や運用方法、リスク低減策の有効性の検証等、環境変化を考慮した上での運用状況及び運航実績について調査を行った。 (P1)
「2 調査の項目」として、次の2項目が掲げられている。
- 東京国際空港におけるRNAV進入の飛行状況に係る検証
- 東京国際空港におけるRNAV進入に係る調査
第Ⅱ章 東京国際空港におけるRNAV進入の飛行状況に係る検証
「本報告書では事後評価という位置付けで実際の軌道 に基づく安全性評価を行う」とされているが、「2.4 ■■■」のように見出しが黒塗りされているだけでなく(次図)、肝心の「2.5 まとめ」も完全にのり弁状態なので(次々図)、内容を知ることができない。
(P5)
(P17)
また、「3 東京国際における同時 RNAV 進入時の航跡図」も完全にのり弁状態(次図)。
(P18)
結局、実際の軌道 に基づく安全性評価の評価結果は何も分からず。ここまで完全に黒塗りされてしまうと、実際のRNAV進入の飛行状況に問題があったのではないのかと、疑念を持たれても仕方がないのではないか。
第Ⅲ章 東京国際空港におけるRNAV進入に係る調査
「1 管制運用及び航空機運航調査」の結果として、「15 のリスク低減策が策定された」とされているが、大半が黒塗りなので内容を知ることができない(次図)。
(P24)
また、 「2 同時RNAV進入運用時に発生した事例」として、下記3項目の調査結果が記されているが、公知である2.3 以外は黒塗りで(次図)、内容を知ることができない。
- 2.1 航空保安業務に係る安全情報の報告事例
- 2.2 ヒヤリ・ハット事例(管制機関へのヒアリング)
- 2.3 航空安全情報自発報告制度(VOICES)による報告事例
(P39)
「3 まとめ」の肝心の部分が黒塗りなので(次図)、「同時 RNAV 進入運用について、(略)衝突危険度は目標安全度を大きく下回っており、(略)各リスク低減策が適切に実施されていることが確認できた」と結論だけ言われても、その妥当性を検証できない。
以上、東京国際空港における同時 RNAV 進入運用について、飛行状況のデータ解析結果では技術的誤差による衝突危険度は目標安全度を大きく下回っており、管制運用及び航空機運航調査では各リスク低減策が適切に実施されていることが確認できたことを、本調査のまとめとして報告する。 (P41)
(P41)
参考資料
参考資料には次の2つの文書が掲載されている。
- 東京国際空港における同時RNAV進入運用に係る事前安全性評価結果(国空制第387号、令和元年12月20日制定、令和3年8月31日改正)
- 東京国際空港における同時RNAV進入運用に係る事前安全性評価ハザードログ
まず「東京国際空港における同時RNAV進入運用に係る事前安全性評価結果」について。
「同時RNAV進入は、国際基準が存在しないため、我が国で運用要件を定める必要があった」として、航空局の関係者、一部運航者および研究機関を交え、7回の評価会が実施された。評価手法としては、次のようにリスクアセスメント手法が取り入れられている。
同時RNAV進入方式を導入した場合のハザード(危険因子)を特定し、特定されたハザードによりもたらされるリスクについて、実際に発生した場合の被害の程度と発生する確率の組み合わせによってリスクの見積りを行い、受容できないリスクについては、リスク低減策を検討したものである。
評価会で策定された15のリスク低減策は、残念ながら真っ黒(次図)。
次に、「東京国際空港における同時RNAV進入運用に係る事前安全性評価ハザードログ」について。
こちらも「ハザード(1)」から「ハザード(18)」まで、全面黒塗り(次図)。
リスク低減策も示さず、同時RNAV進入運用に係る事前の安全性評価の結果を開示しないなんて、国交省にとって都合の悪い結果になっていると思われても仕方があるまい。
雑感
非開示理由、開示情報を最少化するためのこじつけ!?
国交省航空局が航空交通管制協会に委託していた「東京国際空港における同時 RNAV 進入運用の導入後安全性評価に関する調査」(履行期限22年3月25日)に係る報告書と仕様書を開示請求によって入手した。
開示決定通知書には、一部不開示となる旨が記されていた。いずれも「おそれがある」ため不開示としているが、過去に開示したことで「おそれが」現実になったことはあるのだろうか。というか、非開示理由の多くが開示情報を最少化するためのこじつけとしか思えない。
極めつけは、「不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれ」があるので開示しないという2つの「参考資料」。「不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれ」がある内容を隠すのではなく、情報を開示し国民に丁寧に説明することが国交省のあるべき姿ではないのか。
のり弁報告書、国交省にとって都合の悪い結果満載!?
全74枚の報告書(うち28枚は資料編)は墨消し部分がとっても多い。
「第Ⅱ章 東京国際空港におけるRNAV進入の飛行状況に係る検証」は「2.4 ■■■」のように見出しが黒塗りされているだけでなく、肝心の「2.5 まとめ」も完全にのり弁状態なので内容を知ることができない。
「第Ⅲ章 東京国際空港におけるRNAV進入に係る調査」もまた、黒塗り部分が多く、内容を知ることができない。「3 まとめ」の肝心の部分が黒塗りなので、「同時 RNAV 進入運用について、(略)衝突危険度は目標安全度を大きく下回っており、(略)各リスク低減策が適切に実施されていることが確認できた」と結論だけ言われても、その妥当性を検証できない。
これだけ黒塗りで隠されていると、国交省にとって都合の悪い結果が満載なんだと思われても仕方があるまい。
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