羽田新ルートは不動産価値にどの程度の影響を及ぼしているのか?
国交省が実施した調査と同様に地価公示データを用いて、新宿区内の17~22年の「住宅地」のデータを対象に、筆者が独自に調査したところ「羽田新ルート運用開始前(18年)と運用開始以降(20・22年)データを比較すると、地価が全体的に下落している傾向が見える」という結果だった。
※詳細は「羽田新ルート|地価公示データを用いた不動産価値への影響調査(新宿区編)」参照。
本日は、国交省が公開している「不動産取引価格情報」を用いて、新宿区内の17~21年の中古マンション取引データを対象に、筆者が独自に羽田新ルートの影響を調査してみた。
- 調査対象データ
- 飛行経路までの最短距離の計測方法
- 飛行経路までの最短距離と中古マンション単価との関係
- 飛行経路までの最短距離と中古マンション単価変動率との関係
- 中古マンション単価変動率の経年変化(飛行経路までの最短距離別)
- まとめ
調査対象データ
国交省が公開している「不動産取引価格情報」を用いて、新宿区に関して調査する。
具体的には、国交省が運営しているサイト「不動産取引価格情報」に掲載されているデータのうち、新宿区内の17年第1四半期~21年第4四半期の「中古マンション」の取引価格・面積データからm2単価を算出する。対象データは86地区・4,276件(22年6月18日現在。次図)。
※86地区:愛住町、榎町、横寺町、下宮比町、下落合、歌舞伎町、河田町、改代町、岩戸町、喜久井町、原町、戸山、戸塚町、荒木町、高田馬場、左門町、細工町、山吹町、四谷、四谷坂町、四谷三栄町、四谷本塩町、市谷加賀町、市谷甲良町、市谷左内町、市谷砂土原町、市谷山伏町、市谷船河原町、市谷台町、市谷仲之町、市谷田町、市谷本村町、市谷薬王寺町、市谷柳町、若宮町、若松町、若葉、舟町、住吉町、上落合、信濃町、新宿、新小川町、神楽坂、須賀町、水道町、西五軒町、西新宿、西早稲田、西落合、赤城下町、早稲田町、早稲田鶴巻町、早稲田南町、袋町、大久保、大京町、箪笥町、築地町、筑土八幡町、中井、中町、中落合、中里町、天神町、東榎町、東五軒町、内藤町、南榎町、南元町、南山伏町、南町、二十騎町、納戸町、馬場下町、白銀町、百人町、富久町、払方町、片町、弁天町、北山伏町、北新宿、北町、矢来町、余丁町
取引時期は四半期単位で3か月の幅があるので、便宜的に次のように中間の月を取引時期とした。
- 第1四半期(1~3月)⇒2月
- 第2四半期(4~6月⇒5月
- 第3四半期(7~9月⇒8月
- 第4四半期(10~12月⇒11月
飛行経路までの最短距離の計測方法
「不動産取引価格情報」には取引対象の住所は匿名化されていて地区名までしか公開されていない。そこで、取引対象地点は便宜的に地区の概ね中心にあるものとして、飛行経路までの最短距離を計測することとした(次図、品川区荏原地区の例)。
飛行経路までの最短距離については、筆者が作成したGoogleマップ(南風時の到着ルート)を元に計測した。
飛行経路までの最短距離と中古マンション単価との関係
羽田新ルートは新宿内の西側を通過している(次図)。
「飛行経路までの最短距離」と中古マンション単価(各地区の平均値)との関係を次図に示す。
中古マンション単価は概ね50~150万円/m2に分布している、というか下図から分かるのはこの程度。
飛行経路までの最短距離と中古マンション単価変動率との関係
羽田新ルートの影響を分析するために、4,276件(86地区)の中古マンション単価を新宿区の平均単価で補正する。
具体的には、17年第1四半期(1~3月⇒2月)の中古マンション単価データを100としたときの各年月の値(18~21年)を計算し(いずれも地区ごとの平均値で計算する)、さらに新宿区平均単価により補正(=各年の値-17年2月の中古マンション単価データを100としたとき新宿区平均の各年月データ)し、中古マンション単価変動率として算出した。飛行経路までの最短距離と中古マンション単価変動率の関係を次図に示す。
必ずしも「飛行経路までの最短距離」が近いほど中古マンション単価が下落しているわけではないことが分かる(中古マンション単価が下落している地点もあれば上昇している地点もある)。
※図が煩雑にならないように、各年2月のデータを図化した。
中古マンション単価変動率の経年変化(飛行経路までの最短距離別)
飛行経路までの最短距離ごとに中古マンション単価の平均変動率を次図に示す。
飛行経路までの最短距離が200m以下の地点(1地区)の中古マンション単価の平均変動率が羽田新ルート運用開始前後でマイナスに変化しているわけではない。このことから中古マンション単価が羽田新ルートの影響を受けた可能性は見出せない。
まとめ
国交省が実施した調査と同様に地価公示データを用いて、新宿区内の17~22年の「住宅地」のデータを対象に、筆者が独自に調査したところ「羽田新ルート運用開始前(18年)と運用開始以降(20・22年)データを比較すると、地価が全体的に下落している傾向が見える」という結果だった(羽田新ルート|地価公示データを用いた不動産価値への影響調査(新宿区編))。
今回、国交省が公開している「不動産取引価格情報」を用いて、新宿区内の17~21年の中古マンション取引データを対象に、筆者が独自に調査した結果は次の通りである。
- 必ずしも「飛行経路までの最短距離」が近いほど中古マンション単価が下落しているわけではないことが分かる(中古マンション単価が下落している地点もあれば上昇している地点もある)。
- 飛行経路までの最短距離が200m以下の地点(1地区)の中古マンション単価の平均変動率が羽田新ルート運用開始前後でマイナスに変化しているわけではない。このことから中古マンション単価が羽田新ルートの影響を受けた可能性は見出せない。
※上記の結果は、新宿区内で取引された中古マンションの位置が「地区」の概ね中心に建っているとした前提(具体的な住所が公開されていないゆえ)によるものであることに要留意。
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