国土交通省は7月15日、本年12月2日以降、羽新ルート南風運用で着陸する時にパイロットが参考にする進入角指示灯の角度をこれまでの3度から3.25度に変更する旨の文書を発出。
これはどういうことを意味しているのか整理しておいた。
※投稿21年8月2日(追記21年12月18日)
羽田新ルート、進入角指示灯の角度を3度から3.25度に変更
「国土交通省は12月から都心上空から南に着陸する時にパイロットが参考にする進入角指示灯の角度をこれまでの3度から3.25度に変更すると決めた」という元JAL機長・航空評論家の杉江弘氏のツイートが流れてきた。
国土交通省は12月から都心上空から南に着陸する時にパイロットが参考にする進入角指示灯の角度をこれまでの3度から3.25度に変更すると決めた。これは最後の段階で急降下させないようにしたものだ。根本的な解決は3.45度のRNAV進入を中止する事で、矛盾が色々出てくるものだ
国土交通省が改めることを表明した進入角指示灯。好天時に使うRNAV進入の3.45度に合わせて同じ角度にするのが本来であるが3.25度にした。つまりパイロットに進入角を修正させる事を要求した事になる。国土交通省自ら3.45度が急角度過ぎて危険と判断した事を表明したのと同じである。
羽田新ルートの到着ルートに関してなかなか重要な情報が含まれているのだが、門外漢には理解しにくい。具体的にはどういうことなのか、素人なりにひも解いてみよう。
降下角について
まずは、羽田新ルートの到着ルートの降下角のおさらいから。
2段階降下方式の導入
羽田新ルートの到着ルートは、「騒音低減の観点」から降下角3.45度に引き上げられたものの、安全面などの観点から2段階進入方式(3.45度超で進入後、3度で着陸する)も認められるようになった。
そもそも降下角を3.45度に引き上げたのは、騒音軽減は方便で、「横田空域」を避けるためだった疑惑が指摘されているのだが(羽田新ルート|危険な降下角引き上げ)。
国交省「2020年度の騒音分析」(P4)21年7月20日(2MB)より
昨夏、降下角の実績
実際に昨年の夏、外気温が上昇し進入角は3.45度を超えで進入し、渋谷駅上空あたりから3.45度に入り、大井町駅の手前あたりからより緩やかな3.0度に切り替えた航跡が何機も観測された(次図)。
パイロットが経験した不安全飛行
パイロットが経験した不安全飛行を報告する航空安全情報自発報告制度(VOICES)には、羽田新ルートに係るリスク再評価の必要性や安全運航に寄与する滑走路運用の声が記録されている。
そのような現場パイロットからの悲痛な声を受けて、国土交通省は12月から都心上空から南に着陸する時にパイロットが参考にする進入角指示灯の角度をこれまでの3度から3.25度に変更すると決めたのではないのか。
降下角3度から3.25度への変更とは
では、降下角3度から3.25度への変更の具体的な内容を確認してみよう。
じつは国交省が運用しているサイト「AIS JAPAN」(無料登録要)で公開されているAIC(Aeronautical Information Circular 航空情報サーキュラー)のなかに、21年7月15日付配信文書として「東京国際空港における設定角 3.25° の PAPI の運用について」が公開されている(次図)。
同文書によれば、今年の12月2日から、羽田新ルートの好天時において、降下角3.25度のPAPI(進入角指示灯)の運用が開始されることになっている(PAPI - Wikipedia)。
降下角3.25度用のPAPI(進入角指示灯)が新たに設置され、「単一滑走路における複数PAPI設置は、我が国においては東京国際空港のみであることから、その運用手法等を広く周知するため」今回の文書が発出された。
東京国際空港における設定角 3.25° の PAPI の運用について
令和3年12月2日0000JSTより東京国際空港RWY16R/RWY16Lにおいて設定角3.25°のPAPI(以下「3.25°PAPI」という。)の運用が開始される。
1. 背景及び概要
東京国際空港において南風好天時に使用するRNAVRWY16R/RWY16L進入に対応するPAPIが設置される。
単一滑走路における複数PAPI設置は、我が国においては東京国際空港のみであることから、その運用手法等を広く周知するため事前に航空情報サーキュラーを発行するものである。
3.25°PAPI の概要は以下のとおり
RWY Designator Angle DIST FM THR MEHT 16L 3.25°/LEFT 378m 65ft 16R 3.25°/LEFT 397m 397m
2. RWY16R/RWY16LにおけるPAPIの運用
- (1) RNAV(GNSS)RWY16R及びRNAV(GNSS)RWY16L運用時のみ3.25°PAPIが点灯し設定角3.0°のPAPI(以下「3.0°PAPI」という。)が消灯する。
(ATTACHMENT-1参照)- (2) 3.25°PAPIのオンコースは、3.0°から3.5°となる。
(ATTACHMENT-2参照)- (3) 3.0°PAPIと3.25°PAPIの同時点灯は行わない。
- (4) PAPIの切替えは、原則として、航空機が滑走路進入端から5NMの地点に到達するまでに行われる。
- ※(5)(6)省略
羽田新ルート到着ルート好天時運用では、3.25°進入角指示灯が点灯し、そうでない場合は3.0°進入角指示灯が点灯することになる(次図)。
添付図1に筆者ピンク加筆
3.0度から3.5度の範囲が羽田新ルート到着ルートのオンコース(適正進入角度)ということになる(次図)。
添付図2に筆者ピンク加筆
まとめ
国土交通省は7月15日、本年12月2日以降、羽新ルート南風運用で着陸する時にパイロットが参考にする進入角指示灯の角度をこれまでの3度から3.25度に変更する旨の文書を発出。
降下角3.25度用のPAPI(進入角指示灯)が新たに設置され、「単一滑走路における複数PAPI設置は、我が国においては東京国際空港のみであることから、その運用手法等を広く周知するため」今回の文書が発出されたのである。
羽田新ルートの到着ルートは、「騒音低減の観点」から降下角3.45度に引き上げられたものの、安全面などの観点から2段階進入方式(3.45度超で進入後、3度で着陸する)も認められるようになっていた。そもそも降下角を3.45度に引き上げたのは、騒音軽減は方便で、「横田空域」を避けるためだった疑惑が指摘されているのだが……。
今回の措置は、着陸の最終段階で急降下させないようにしたもの。根本的な解決策は降下角3.45度の進入を中止すること。「国土交通省自ら3.45度が急角度過ぎて危険と判断した事を表明したのと同じである」と元JAL機長・航空評論家の杉江弘氏は指摘している。
(↓ 再掲)
【追記】羽田のPAPIに関するIFALPA安全情報
※追記21年12月18日
ALPA Japan(日本乗員組合連絡会議)は12月17日、同一滑走路における2基目のPAPI設置に係る運用上の注意点を記したIFALPA(国際定期航空操縦士協会連合会)のSafety Bulletin(安全情報)の邦訳を発表。
A4判5枚にわたって、次の5項目が記されている。
- 背景
- 羽田空港 RWY16R/L における 2021 年 12 月 2 日以降の PAPI 運用
- 3.25°の PAPI が利用できない場合の手順
- ALPA Japan からの質問に対する航空局の回答
- 運航する上での注意点(Safety Bulletin <20SAB01>に記載した内容)
特に気になったのは、5項目目の「運航する上での注意点」。20年1月20日に発行された「羽田空港における新しい進入方式 」(Safety Bulletin <20SAB01>)の再掲である。羽田新ルートを運航するうえの8つの注意点が掲げられている。
素人でも比較的理解しやすい3項目を列挙しておこう。
- 低高度を含む進入中に不安定になる可能性、及び着陸やり直しの心構えについて打ち合わせてください。
- PAPI の表示を合わせたいという誘惑に駆られて「突っ込む」ことは避けてください。この操作は GPWS 警報を発出する可能性、更に航空機を不安定な状態にする可能性があります。
- RNAV 進入からのやり直しや ILS 進入を要求した時に待機する可能性を考慮し、追加燃料搭載について考慮してください。
羽田新ルートの着陸操作の難しさを示唆している……。
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