航空保安研究センターが2年続けて落札した「首都圏空港の滑走路処理能力に関する調査」は、第5滑走路(E滑走路)増設可能性調査でも行っているのか?
国交省に開示請求して分かったことは――。
羽田新ルート広報費用、5年間で10.5億円
政府は、山添拓 参議院議員(共産)の質問主意書(羽田空港の新飛行ルート)に対して、羽田新ルートの広告・広報費用に係る過去5年間の年度別執行額を明らかにしている。
過去5年間の執行額合計約10.5億円の内訳は次図とおりだ。
政府答弁によれば、18年度の執行額は「2億5,836万9,696円(税込み)」。筆者独自調査による、国交省が18年度に博報堂と交わした随意契約「羽田空港機能強化に係る情報提供・意見把握検討等業務」の額2億4,840万円とほぼ一致している。
国交省は博報堂だけでなく、三菱総研には情報発信拠点(パネル展示)の維持管理等業務を年間6千万円から7千万円で委託している、というようなことについては、すでにこのブログで紹介した。
航空保安研究センターが「滑走路処理能力調査」2年続けて落札
その後、国交省は羽田新ルートに関連して、どこにどのような業務を発注しているのだろうかと思って調べてみたところ、興味深い件名を発見した。
国交省が公開している「公共調達の適正化に係る情報の公表( 航空行政)」の「令和元年度(12月分まで)」のなかに、一般競争入札案件として、次の件名が掲載されているのである。
「首都圏空港の滑走路処理能力に関する調査」
- 契約期間19年11月18日~20年3月23日
- 契約相手:(一財)航空保安研究センター
- 予定価格:20,740,935円
- 契約額:19,910,000円
国土交通省航空局が行った一般競争入札の結果をひも解くと、同案件は、2社(航空保安研究センター、航空交通管制協会)による競争入札の結果、航空保安研究センターが18,100,000円(落札率87.3%)で落札していることが分かる(次図)
じつは昨年度も、全く同じ件名で同じ2社が応札し、今年度と同様、航空保安研究センターが落札(落札率89.3%)しているのだ。
航空交通管制協会が2年続けて、2千万円ちょうどで札を入れたという大人の事情はさておいて、本題はここから。
「滑走路処理能力調査」関連文書を開示請求
この2年続けて実施されている「首都圏空港の滑走路処理能力に関する調査」(以下、「滑走路処理能力調査」)とは、どのような調査なのか?
ひょっとして、第5滑走路(E滑走路)増設可能性調査でも行っているのか?
国交省の「入札公告」や総務省が運営しているサイト「調達ポータル」には、どのような業務内容なのかが分かる資料が公開されている。ところが、公開期間が短すぎて、本件名の内容を知ることができない。
仕方がないので、情報公開制度を利用して国交省に開示請求すること1か月余り、ようやく本件に係る「入札告示」と「仕様書」を入手することができた(次図)。
「滑走路処理能力調査」の狙い
国交省航空局の発信で19年10月16日に出された入札公告には、「業務内容等について」次のように記されている。
業務内容等とは、下記に掲げる内容とする。
東京国際空港及び成田国際空港における運航実態調査
- 滑走路占有時間の計測
- 高速離脱誘導路の使用状況
第5滑走路(E滑走路)増設とは関係なく、羽田の運航実態調査として、滑走路占有時間を計測する業務であった。
では、滑走路占有時間を計測する羽田の運航実態調査とは何なのか?
仕様書をひも解くと、その調査の狙いが見えてくる。
1 調査目的
(前略)
(中略)や2020年夏ダイヤからの発着容量拡大に伴う新規就航等により、2020年度においては滑走路占有時間の変動が想定されるところであり、その変動要因を正確に分析する必要があることから、環境変化前の2019年度中において滑走路占有時間を含む運航の実態を正確に把握しておく必要ある。(以下略)
簡単にいえば、羽田増便計画の妥当性のエビデンスを得るために、まずは比較の基準となる増便前のデータを押さえておこうということ。
具体的な調査内容は、次の2本柱からなっている。
3 処理能力算定に関係する統計データの計測等
※羽田と成田、それぞれ5日間×2回
- (1)滑走路占有時間の計測
- (2)高速離脱誘導路の運用実態の把握
- (3)離着陸機の競合により他機に影響を及ぼす時間の計測及び整理(東京国際空港のみ)
- (4)滑走路横断に要する時間の計測(東京国際空港のみ)
- (5)進入速度のバラツキの計測
- (6)進入に要する時間の計測
- (7)各滑走路の処理能力の算定
4 深夜早朝時間帯における運用方式の運航状況の実態調査
(筆者注:羽田だけが調査対象)
- (1)適用頻度及び適用時の気象状況
- (2)飛行所要時間の計測
- (3)ハザード(危険因子)の発生状況
まとめ
航空保安研究センターが2年続けて落札した「首都圏空港の滑走路処理能力に関する調査」は、第5滑走路(E滑走路)増設可能性調査でも行っているのか?
そんな疑念から、時間と手間をかけて国交省に開示請求し、「入札告示」と「仕様書」を入手した。これらの文書を読むと、この調査業務は第5滑走路(E滑走路)増設とは関係ないことが確認できた。
この調査業務には、羽田増便計画の妥当性のエビデンスを得るために、処理能力の比較の基準となる増便前の統計データを押さえておくことが含まれていたのである。
20年度にも同様の調査を実施するだろうから、その調査報告書(年度末納期?)を開示請求すれば、羽田新ルート導入の効果の有無を知ることができるかもしれない。ただ、その報告書が入手できるのは1年も先になるが……。
あわせて読みたい