羽田新ルートの飛行騒音に対して、どの程度の遮音性能を持ったサッシを取り付けていれば、必要とされる室内騒音レベルが確保されるのか?
羽田新ルートに関してこの手の試算例を見たことがない。
なぜなのか。考えられる主な理由は2つ。(1)この手の騒音計算ができる技術者が少ないこと。(2)その少ない技術者が、お上の嫌がるような計算結果を世に出さない(出せない)こと。
高級住宅街も飛行騒音の影響を受ける
羽田新ルートの運用が始まると、南風時(年間4割)15~19時のうち3時間、「A滑走路到着ルート(下図の左側)」は1時間当たり14回(4分17秒ごと)、「C滑走路到着ルート(下図の右側)」は1時間当たり30回(2分ごと)の頻度で上空から騒音が降り注ぐ。
筆者の独自試算によれば、23区内のいわゆる高級住宅街も飛行騒音の影響を受ける。
渋谷区
- 松濤1丁目:約71~73dB
- 広尾4丁目:約71dB
- 代官山町:約74dB
- 安倍総理私邸:約71~73dB
港区
- 南青山4丁目:約72~74dB
- 有栖川宮記念公園周辺:約74dB
- 白金4丁目:約71~72dB
品川区
- 上大崎2丁目:約74~76dB
- 東五反田5丁目:約74dB
- 北品川5丁目:約72~73dB
※詳しくは、「羽田新ルート|飛行騒音の影響(23区高級住宅街)」参照。
飛行騒音に対するサッシの防音効果
飛行騒音80dB・75dB・70dBに対して、どの程度の遮音性能を持ったサッシを取り付けていれば、必要とされる室内騒音レベルが確保されるのか?
★結論★
試算結果を次図に示す(※詳細後述)。
- 飛行騒音が80dBを超えるようなエリアではサッシの遮音等級T-4(二重窓)でないと、穏やかな住環境を確保することは難しそうだ。
- 飛行騒音75dBエリアでは、サッシの遮音等級T-2では足りない。T-3で「やむを得ない場合には許される水準」に届くが、「一般的な性能水準」には届かない。
- 飛行騒音70dBエリアでは、サッシの遮音等級T-3であれば、「一般的な性能水準」に届く。
上図中の「やむなし:45dB」「一般的:40dB」「建築学会推奨:35dB」は、97年建築学会基準「室内騒音に関する適用等級」に拠った(詳細後述)。
※以下に、騒音計算の詳細を示す。関心のない方は読み飛ばしてもかまわない。
室内騒音計算の詳細
上記グラフの元となった試算結果のうち、飛行騒音75dBに対して、サッシT-2等級の場合の室内騒音を計算した詳細を次表に示す(他のケースについても、試算方法は同様)。
⇒上表拡大
なお、計算対象とした居室モデルは、日本建築学会「集合住宅の遮音性能・遮音設計の考え方」P101に同じ(次図)。
飛行騒音データの設定
飛行騒音データは、次の文献に掲載されていたボーイング747(大型機)の着陸時騒音データをもとに、騒音レベルが80dB・75dB・70dBになるよう逆算し、オクターブバンド中心周波数ごとのデータを求めた。
- 日本建築学会編「実務的騒音対策指針応用編」pp61、技報堂出版、1987
サッシの遮音性能データ
サッシの遮音性能データについては、実験室測定データと現場測定データでは違いがあるものの、便法として前者(JIS A 4706(サッシ)の遮音等級)を用いた(次図)。
室内騒音として求められる水準
室内騒音として求められる水準については、次に示す97年建築学会基準を用いた。
- 日本建築学会編「建築物の遮音性能基準と設計指針(第2版)」1997年
具体的には次表の通り。
※本試算には慎重を期しているが、データの精度について保証するものではない。これらの情報をあなたが利用することによって生ずるいかなる損害に対しても一切責任を負うものではない。
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