第201回国会(20年1月20日~6月17日)の衆議院の質問主意書124件(3月18日現在)のなかに、99番目として羽田新ルートに係る次の質問主意書が埋もれている。
初鹿明博 衆議院議員(立憲民主党⇒無所属)が3月5日に提出した質問主意書に対する政府答弁書が公開されたのでひも解いてみた。
読みやすいように、一問一答形式に再構成しておいた。
※時間のない方は、「質疑応答のポイント」と文末の「雑感」をお読みいただければと。
- 問1:新型コロナ感染拡大、羽田空港発着便で減便?
- 答1:累積で1,459便(20年1月19日~3月12日)
- 問2:新型コロナ感染拡大、現行の飛行ルートで対応可能?
- 答2:認可前であるため、お答えすることは困難
- 問3:新飛行ルートの運用開始、見送って
- 答3:新飛行経路の運用を見送ることは考えていない
- 雑感
初鹿明博 衆議院議員(3期、立憲民主党、 東大学部卒、50歳)
羽田空港の国際線を更に増便する為に3月29日より都心上空を飛行する新たなルートでの運用を開始する予定でいます。
この新飛行ルートが明らかになって以降、落下物への懸念や騒音被害が発生する事などから上空を飛行する地域を中心に反対の声が日に日に強まっています。国土交通省は、地域住民に理解を求める為に説明会などを各地で開催してきていますが、効果があったとは言えず、関係する自治体議会でも見直しを求める意見書が採択されるなど、地元の理解を得たとは言い難い状況が続いています。
このような中で、騒音を軽減する対策として、国土交通省が打ち出した3.45度という急角度での着陸方法について、世界の約290の航空会社が加盟する国際航空運送協会(IATA)が国土交通省に対して、通常より急角度になる着陸方法へ懸念を示す事態も生じています
さて、現在、我が国は新型コロナウイルスの感染が拡大しており、トランプ米国大統領も日本からの入国を制限する検討を始めていることを明らかにするなど日本からの入国を制限する国が出始めています。また、羽田発着便の便数を減らす航空会社も出てきており、今後も新型コロナウイルスの感染状況によっては更に減便数が増加することも考えられます。
新飛行ルートの運用開始に合わせて4月以降に新たに便数が増えることになっていますが、減便している数を差し引けば、現行の飛行ルートにおける予定便数を下回ることも考えられます。
現行の飛行ルートにおける予定便数を下回る状況であれば、あえて、このタイミングで反対の声が大きい新飛行ルートでの運用を始めることはやめて、現行の飛行ルートを継続するべきではないかと考えます。
以上踏まえて質問します。
問1:新型コロナ感染拡大、羽田空港発着便で減便?
新型コロナウイルスの感染拡大によって羽田空港発着便で減便になっている便数を明らかにして下さい。
答1:累積で1,459便(20年1月19日~3月12日)
御指摘の「新型コロナウイルスの感染拡大によって」の意味するところが必ずしも明らかではないが、東京国際空港における減便数については、令和2年3月6日までに申請された航空法(昭和27年法律第231号)第107条の3第6項の規定に基づく混雑空港に係る運航計画の変更又は同法第109条第1項若しくは第129条の3第2項の規定に基づく事業計画の変更によれば、同年1月19日から同年3月12日までの累積で1,459便である。
問2:新型コロナ感染拡大、現行の飛行ルートで対応可能?
新型コロナウイルスの感染拡大による減便と新規参入便を加えた4月以降の羽田空港の1日当たりの発着便数は合計で何便になりますか。この便数は現行の飛行ルートで対応可能な便数内になっていますか。
答2:認可前であるため、お答えすることは困難
お尋ねについては、令和2年夏ダイヤの期間である同年3月29日から同年10月24日までの期間における、各航空会社の東京国際空港における運航回数及び発着日時を含む、航空法第107条の3第6項の規定に基づく混雑空港に係る運航計画の変更又は同法第109条第1項若しくは第129条の3第2項の規定に基づく事業計画の変更について、現時点において認可前であるため、お答えすることは困難である。
問3:新飛行ルートの運用開始、見送って
今月29日に新飛行ルートの運用を開始することを見送って、当面の間、現行の飛行ルートを継続することが賢明な判断だと考えますが、政府の所見を伺います。
答3:新飛行経路の運用を見送ることは考えていない
令和2年3月29日からの東京国際空港における新たな飛行経路の運用を見送ることは考えていない。
雑感
質問書(約1千文字)と答弁書(約700文字)は別々の文書なので、上記のように一問一答形式に再構成しないと、内容を的確に把握することはできない。
新型コロナ減便 vs 羽田新ルート増便
初鹿議員が聞きたかったのは、一言でいえば、新型コロナ感染拡大の影響で減便数が増加しているので、3月29日からの羽田新ルート運用開始は見送ったらどうか、ということ。
それに対して、政府は、なんら理由を示すことなく「見送ることは考えていない」と突っぱねた。
54日間(20年1月19日~3月12日)で1,459便の減便は、羽田新ルートの増便分と比較してどの程度のものなのか? このことについて、政府の答弁は「現時点において認可前であるため、お答えすることは困難」だという、お決まりのフレーズ。
不誠実な政府に代わって、新型コロナ減便数と新ルート増便数をザックリ比較してみた(次表)。
政府答弁による減便数1,459便は、1日当たりに換算すると27便。一方、羽田新ルートによる増便数は年間3.9万便だから、1日あたり107便。
新型コロナ減便数は、羽田新ルート増便数の約4分の1。逆に言えば、現状ではまだ、4分の3の便数が羽田新ルートの運用開始に対応できる可能性があるということだ。
ただ、あくまでも現状において、ということであって、政府が1,459便の前提とした調査対象期間は3月12日までだったので、今後減便数が増加していく可能性は高い。
新型コロナ減便「1,459便」に軽微変更は含まれていない!?
あと、政府答弁で気になったのは、1,459便の対象としたのが、「令和2年3月6日までに申請された航空法(昭和27年法律第231号)・・・第129条の3第2項の規定に基づく事業計画の変更によれば」との前提に立っていること。
これらの航空法などの条文をひも解いていくと、第129条の3第2項に、事業計画の変更(つまり減便対象)に、軽微変更は含まれていないことが分かる。
2 外国人国際航空運送事業者は、事業計画を変更しようとするときは、国土交通大臣の認可を受けなければならない。ただし、国土交通省令で定める軽微な事項に係る変更については、この限りでない。
さらに省令で定める軽微変更をひも解いていくと、航空法施行規則第233条の3(事業計画変更の届出)に次のよう、10日未満の臨時的な変更は含まれていないことが分かる。
法第129条の3第2項ただし書の軽微な事項に係る変更は、次のとおりとする。
- 1 路線の起点、寄航地及び終点並びに使用空港等の臨時的な変更(10日以上にわたる場合を除く。)であつて新たな地点及び使用空港等の追加並びに本邦内の地点における発着日時の変更を伴わないもの
- (2~5省略)
まあ、いずれにしても、新型コロナ減便数が羽田新ルート増便数をどんなに上回ったとしても、現政府が羽田新ルートの3月29日運用開始を延期することはないだろう。
あわせて読みたい(初鹿議員の質問主意書)
これまでに初鹿議員が提出した、羽田新ルートに係る質問主意書関連の記事:
※日付は本ブログで記事化した日
- 20年3月18日:着陸角度についてのIATAからの要請
- 20年3月5日:実機飛行確認期間中の落下物
- 19年11月21日:上皇夫妻の御仮寓所「高輪皇族邸」への影響)