6月6日に発売された、三春充希著『武器としての世論調査』 (ちくま新書) を読了。
データを元に世の中の動きを分析している書籍にはできるだけ目を通すことにしているのだが、これほど選挙情勢を鋭く活写している書籍は他に類がない。参院選挙を前に読まれることを強くおススメしたい1冊。
※マンション選びとは全く関係ない話なので、興味のない方は無視してください。
定例世論調査は11社が行っている
定例世論調査は11社が行っているので、5社にしか言及していない記事には裏があるかも、という話。
複数の世論調査を見る
(前略)都合のいい世論調査だけをことらさらに広めようとするのは、世論と向き合う姿勢とはいいがたいものです。
「ここに示した5社の定例世論調査が同じ傾向にあります」
例えばこのように複数の世論調査を並べた説明を見たら、その裏で6社の定例世論調査が伏せられていることを忘れないでください。内閣支持率と政党支持率はもちろん、その時々の事件にかかわる個別の論点についても、大きなテーマでは多くのところが一斉に調査をかけているはずです。定例世論調査は11社が行っていますから、特定のどこかをあえて外して議論する場合は、できるだけ外した理由の説明をするのが望ましいといえます。
テレビや新聞が自ら実施した世論調査のみを報じるのは良いとして、何かを論じるために雑誌や個人などが特定の世論調査を利用しているのを見たときには、「あえてその調査を持ち出した理由は何なのか」「他社の傾向はどうなのか」と確認をすると安全です。(P63-64/第3章 政策への賛否を読む)
※日本では新聞社や通信社、テレビ局など11社が毎月1回世論調査を実施していることはあまり知られていないのではないか。
あと、調査が偏らないよう、電話世論調査が固定電話だけでなく携帯電話も調査対象になっていることや、平日昼間の時間帯だけでなく土日をまたいでいることや夜9時半から10時ごろまで電話を掛けていることなども。
公明党と幸福実現党の類似性
公明党と幸福実現党が西日本の所得の低い地域に浸透しているという分析。
所得の違い――公明党と幸福実現党
東西や地方という地理的な分布とは違ってしまいますが、公明党について、より激しい偏りを持つ要因を探ったところ、一人あたりの課税対象所得があることがわかりました。
すでに東西、都市と地方という対立軸を見てきましたが、図2-13~14(114頁)は貧富を対立軸としたときの分布で、公明党が西日本の所得の低い地域に浸透していることがうかがえます。
主要政党でこのような傾向を持つのは公明党のみでしたが、同様に宗教を基盤に持つ政党として、幸福実現党に興味深い類似性が浮かび上がりました。図2-15~16はそれを示したものです。図2-15からは幸福実現党が最近の選挙で、西日本の所得の低い自治体に浸透する傾向があることが読み取れます。低所得者ほど支持が厚いのは宗教を基盤とする政党が持つ類似性なのでしょうか?(P111-112/第5章 地域が持つ特色)
※地域的な偏りといば、2016参院選挙では、自民得票率30%超えは都心3区だった。
⇒2016参院選挙結果 都内投票率は西高東低?
出口調査は選挙に行った人だけを対象としている
出口調査の結果から自民党が若年層に支持されていたと見るのは間違いだという指摘。「支持政党なし」や「わからない」とした多くの若年棄権者は出口調査には出てこないからだ。
政党の支持基盤はどの世代にあるのか
(前略)若年層で自民党に投票した割合が高いというこの出口調査は、48回衆院選の時、自民党が若年層でこそ支持されていたのだという誤った議論を作り出してきました。
しかし、出口調査で自民党に投票した若者が多かったということは、自民党の支持基盤が若年層にあることを意味しません。また、若年層の投票率が上がれば自民党に有利になることを何ら意味しません。
繰り返しますが、出口調査は選挙に行った人だけを対象とするものです。しかし普段、選挙に行かないような人が選挙に行こうとするときに情勢は新たな局面を見せるのです。そうしたときには出口調査の年齢別の結果もまた変わることでしょう。政党支持率(図2-33)と出口調査(図2-34)を見る時は、両者の違いを念頭に置くことが必要です。
(P152-153/ 時代に生きる人々)
※2017衆院選の比例東京ブロックでは、「支持政党なし」という党が社民党の2倍以上の票を獲得していた。今回の参院選ではどうなるのか。
⇒2017衆院選 比例東京ブロック投票結果を可視化
本書の構成
3部構成、全9章。全254頁。
I 世論調査
- 第1章 世論調査の勘違い
- 第2章 世論調査を総合して見えてくるもの
- 第3章 政策への賛否を読む
- 第4章 世論調査の限界
II データでとらえる日本の姿
- 第5章 地域が持つ特色
- 第6章 時代に生きる人々
III 選挙と世論
- 第7章 政治参加の一つとしての選挙
- 第8章 選挙はどのように世論を反映するのか
- 第9章 情勢報道の読み方