シカゴ大学公共政策大学院ハリススクール助教授の伊藤 公一朗 著『データ分析の力 因果関係に迫る思考法』光文社新書(2017/4/18)を読了。
「RCT(ランダム化比較試験)」や「集積分析」、「パネル・データ分析」など、ビッグデータを読み解くための最新のデータ分析手法が具体例とともに、文系人間にも分かりやすく解説されている。
フェイク分析に騙されないための、おススメの1冊。
各分析手法の詳細については本書を読んでいただくとして、以下2点さわりだけ触れておこう。
世の中は怪しいデータ分析結果で溢れている
「マンションの高層階に住む女性の不妊率が高い」ことの要因分析が不十分な事例として掲げられている。
世の中は怪しいデータ分析結果で溢れている
(前略)ニュースや新聞を見てみると相関関係と因果関係を混同させた怪しい分析結果は世の中にあふれて溢れています。さらに問題なのは、怪しい分析結果に基づく単なる相関関係が「あたかも因果関係のように」主張され、気をつけないと読者も頭の中で因果関係だと理解してしまっていることが多いという点です。
以下の例は、実際に著者が見かけたことのある新聞記事の抜粋です。
(中略)
「マンションの高層階に住む女性の不妊率が高いことがデータから示された。よって、子供を産みたい女性がマンションの高層階に住むのは危険である」
→マンションの高層階に住む女性と低層階に住む女性では、所得・年齢・職業など様々な別の要因が違う可能性があり、高層階に住むことが本当の要因なのかは明らかではない。(P40-41)
「高層階は流産リスクが高い」という某氏の分析結果の問題点については、このブログでも過去に指摘している(都市伝説?ヨーロッパのタワマン禁止・タワマンの流産リスク)。
アメリカ連邦政府内で進む「エビデンスに基づく政策形成」
アメリカでは、エビデンスに基づく政策を重視していく方向は、党派を超えた政治的な流れになっているという。
アメリカ連邦政府内で進む「エビデンスに基づく政策形成」
(前略)アメリカでは数年前から、オバマ前大統領がエビデンス(証拠)に基づく政策形成(evidence‐based policymaking)を提唱して、政府における政策形成のあり方を変えようとしています。
(中略)
この変革をさらに進めるために、2016年にオバマ政権下で新しい法律が制定されまし
た。この法律は「エビデンスに基づく政策のための評議会設置法(Evidence‐Based Policymaking Commission Act of 2016)」と呼ばれます。この法律はオバマ前大統領の独断で成立したものではなく、民主党と共和党の共同法案として成立したものです。つまりエビデンスに基づく政策を重視していく方向は、党派を超えた政治的な流れになっているのです。(P204-205)
エビデンスに基づく政策のための評議会の主要な使命は次の2つだという。
(P207)
- RCT(ランダム化比較試験)などの厳密な科学的手法により政策が評価され、政策効果の因果関係がデータ分析により解明される仕組みを作る
- 政府が持つ詳細な行政データを研究者に利用させ分析させる体制を整える
日本では、厳密な科学的手法により、政策効果の因果関係が明確になっているのだろうか?
都税のムダ遣いと思われる事案につき、今年の当職のツートから3つピックアップしておこう。
都の政策(補助金)はエビデンスに基づいているか?
1.「東京水読本」作成・ポスティング
都水道局が作成した「東京水読本(区部版)」が拙宅ポストに入っていた。ちらっと見て、ゴミ箱に直行。
印刷業者とポスティング業者にカネは流れるが、税金と資源の無駄ではないか。
2.労働法を解説する若者向けアニメの作成
就職前後の若者が学びやすいように労働法を解説したアニメ。
費用対効果はいかに……。
都税のムダ…
— マン点 (@1manken) 2018年3月1日
都作成のアニメをわざわざ視聴するような若者は問題ない
アニメを視聴しないような若者が問題なのでは
↓
アニメ「新入社員 萌の Time is Money」を配信|東京都 : https://t.co/pmWFkHCTvF
3.暑熱対応設備の設置補助
人の感じる暑さを緩和する対策として、暑熱対応設備の設置に対する補助制度。
夏は暑いものだ。都税が潤沢にあるからムダ遣いが生じているのではないか。
無駄遣い…
— マン点 (@1manken) 2018年4月5日
↓
補助率:対象経費の2分の1(上限5百万円)
予算額:4千万円
クールスポット創出支援事業を実施|東京都 : https://t.co/QU6Dt1xhbG
本書の構成
全8章、284頁。
- 第1章 なぜデータから因果関係を導くのは難しいのか
- 第2章 現実の世界で「実際に実験をしてしまう」
――ランダム化比較試験(RCT)- 第3章 「境界線」を賢く使うRDデザイン
- 第4章 「階段状の変化」を賢く使う集積分析
- 第5章 「複数期間のデータ」を生かすパネル・データ分析
- 第6章 実践編:データ分析をビジネスや政策形成に生かすためには?
- 第7章 上級編:データ分析の不完全性や限界を知る
- 第8章 さらに学びたい方のために:参考図書の紹介