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データ氾濫時代に必読!『「原因と結果」の経済学』

先日読了した『データ分析の力』に計量経済学の入門書として紹介されていた、中室牧子氏と津川友介氏の共著『「原因と結果」の経済学―――データから真実を見抜く思考法』ダイヤモンド社 (2017/2/17)を読了。


もくじ

データ氾濫時代に必須の教養「因果推論」

因果関係なのか相関関係なのかを正しく見分けるための方法論を「因果推論」と呼ぶ。

日本では因果推論を体系的に学ぶ機会はほとんどない。このためか、テレビや新聞が相関関係にすぎないことを因果関係があるかのように報道しているのをしばしば目にする。企業経営者や政策担当者ですらも、因果関係と相関関係を混同している場面に出くわすことが多い。
(中略)
 19世紀を代表するアメリカの思想家・作家であるラルフーエマーソンはこう言っている。「軽薄な人間は運勢を信じ、強者は因果関係を信じる」。
 「因果推論」は、データ氾濫時代に必須の教養なのである。(P13)

※「因果関係」と「相関関係」を混同してしまっている人には必読の1冊。

1200億円の税金が投じられたメタボ健診

1200億円の税金を投じてメタボ健診をいきなり全国展開するのではなく、ランダム化比較試験を実施し、効果を確認してから全国展開すべきだったという著者の指摘。

海外では健診が長生きにつながるという強いエビデンスは見られていないにもかかわらず、日本では2008年に特定健康診査(いわゆるメタボ健診)・特定保健指導がスタートした。(中略)

巨費を投じて日本で導入されたメタボ健診に効果はあったのだろうか。厚生労働省は、このことを調べるために、約28億円を投じてデータベースを構築した。しかしこのデータベースに不備があり、収集したデータのうち約2割しか検証できないことが発覚し、大きな問題に発展した。

メタボ健診をいきなり全国展開するのではなく、まずは一部の自治体でランダム化比較試験を実施し、効果があることが明らかになってから、残りの自治体にも導入することも考えられたはずだ。規模にもよるが、ランダム化比較試験は総額1200億円のうち、わずか数%の予算を充てれば行うことができただろう。そうすれば、税金をより効果的に使うことができたのではないだろうか。(P66-67)

※都の政策はエビデンスに基づいているのだろうか。
↓ 最近の例

  • 「東京水読本」作成・ポスティング
  • 労働法を解説する若者向けアニメの作成
  • 暑熱対応設備の設置補助

詳しくは、「都の政策(補助金)はエビデンスに基づいているか?」参照。

喫煙の規制強化はレストランやバーの売上に影響を与えない

喫煙規制の厳しいサンタフェ州(介入群)と緩いブエノスアイレス市(対照群)を比較分析した結果、受動喫煙を強いられていた人々の健康状態が改善したことが確認された。さらに喫煙の規制強化はレストランやバーなどの売上に影響を与えないことが明らかになったという。

喫煙者は規制が導入されたとしても、たばこを吸うのをやめなかったのである。それにもかかわらず、厳しい規制を導入したサンタフェ州では心筋梗塞による入院患者がブエノスアイレス市よりも13%も低くなった(図表3‐3)。つまり、たばこを吸っていた当人ではなく、受動喫煙を強いられていた人々の健康状態が改善したと考えられる。
 とはいえ、厳しい規制はサンタフェ州の経済に悪影響を与えなかったのだろうか。規制が導入された当初、サンタフェ州のレストランやバーの経営者は、喫煙者が外食を敬遠することによる売上の減少を懸念した。しかし、規制の厳しい州と緩い州のレストランやバーの売上を比較したその後の研究では、2つの地域の売上に統計的に有意な差がなかったことが示されている。アメリカでも複数の州や都市で同様の規制が導入されているが、過去の研究より、それらの規制はレストランやバーの売上だけではなく、ホテルや施工業界の売上にも影響を与えないことが明らかになっている。(P90)

都が4月20日に公表した「東京都受動喫煙防止条例(仮称)骨子案」によると、「従業員を使用している飲食店においては、原則屋内禁煙」というなんとも中途半端な内容になっている。

本書の構成

全8章、204頁。

  • 第1章 根拠のない通説にだまされないために
    「因果推論」の根底にある考えかた
  • 第2章 メタボ健診を受けていれば長生きできるのか
    因果推論の理想形「ランダム化比較試験」
  • 第3章 男性医師は女性医師より優れているのか
    たまたま起きた実験のような状況を利用する「自然実験」
  • 第4章 認可保育所を増やせば母親は就業するのか
    「トレンド」を取り除く「差の差分析」
  • 第5章 テレビを見せると子どもの学力は下がるのか
    第3の変数を利用する「操作変数法」
  • 第6章 勉強ができる友人と付き合うと学力は上がるのか
    「ジャンプ」に注目する「回帰不連続デザイン」
  • 第7章 偏差値の高い大学に行けば収入は上がるのか
    似た者同士の組み合わせを作る「マッチング法」
  • 第8章 ありもののデータを分析しやすい「回帰分析」

「原因と結果」の経済学

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2023年6月1日、このブログ開設から19周年を迎えました (^_^)/
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