元ソロモン・ブラザーズ債券資本市場部長による12年ぶりの新著『投資は米国債が一番!』幻冬舎(2023/5/24)を読了。
「個人向け国債 変動10年」をリスクフリーとありがたがって購入している人には強くおススメしたい。
本書では不動産にも少し触れられていたので、ピックアップしておいた。
※朱書きは、私のメモ。
物価上昇率4%が実感とはかけ離れているのは、「帰属家賃」の存在
物価上昇率4%(前年同月比)が実感とはかけ離れているのは、物価指数の構成比の2割を占める「帰属家賃」の存在であるという指摘。
インフレに勝つにはどうすべきか
(前略)インフレに慣れていない多くの方は、2022年からのインフレによりかなり大きな影響を受けていることでしょう。2023年になりインフレは加速し、インフレの恐ろしさを実感されていることと思います。
2023年1月10日、東京都区部の2022年12月の物価上昇率が前年同月比で4%と発表されました。しかしこの数字、実感とはあまりにも差があります。電気代が前年比26‰、都市ガス代は37%と大幅に上昇。そして生鮮食品を除く食料品は7.5%、生鮮食品も6.5%、携帯電話代も22.1%の上昇。
我々が日常生活で支払っているものの大半がこんなに上昇しているのに、その他を含めて合計するとたった4.0%だと発表されています。実感とはかけ離れています。いったい何故こんなことになるのか。理由はおかしな理屈が隠されているためです。それは物価指数の構成比の2割を占める「帰属家賃」の存在です。
帰属家賃とは何か? そもそも物価指数は、家計が何にいくら使ったかの割合を家計調査から計算し、その割合の合計が100になるよう調整して計算します。構成比は数年ごとに変化させます。でないと例えば携帯電話の普及などが反映できないからです。それだけであれば、持ち家のある方は家賃の上昇率は家計には響きません。しかし物価統計上はみなし家賃を支払っているとされ計算されるのです。それが帰属家賃で、構成比はなんと家計費全休の2割も占めているのです。実際にアパートを借りている人の家賃上昇率は1%にも満たない0.7%ですが、それがエネルギーや食料品の爆発的上昇の足を引っ張り、加重平均合計値がわずか4.0%になってしまうのです。(以下略)
(P58-59/第2章 私が米国債投資をススめる理由)
※23区の消費者物価指数のうち「総合」と「持家の帰属家賃を除く総合」を比較すると、昨年度から乖離が多少拡がっていることが確認できる(次図)。
お金のない若い方こそ、ローンで家を買うべきです
「超長期の低利ローンの返済額が賃料と同じくらいなら、家を買うべきだ。ローンはそれ自体が円リスクのヘッジになるから」という筆者のアドバイス。
お金のない若い方こそ、ローンで家を買うべきです
(前略)彼は日本の財政や年金に不安を感じていましたが、資産があまりないため投資による円リスクのヘッジをあきらめていたのです。その時私から差し上げたアドバイスは、「超長期の低利ローンの返済額が賃料と同じくらいなら、家を買うべきだ。ローンはそれ自体が円リスクのヘッジになるから」
というものでした。日本では死語になっていますが、「インフレでは借金した者勝ち」という格言があります。国全体がインフレになると生活に必要な物価も上がりますが、賃金もある程度スライドして上界します。もちろん年金もある程度増えます。しかしローンの額は増えませんし、固定金利であれば月々の返済額も増えません。ということは、毎月の返済が相対的に楽になるのです。
それが何故円リスクのヘッジになるのでしょうか。
インフレにスライドして円安が昂進すると、ローンも円建てですから実質的に減価するのです。これは貸し手の側から考えるとよくわかります。貸し手にとってローンとは金利をもらえる円建ての資産です。諸物価が高騰するインフレのもとでは、貸し手のローン資産だけ価格の変化がない。つまり相対的に価値を減らしてしまいます。貸し手にとって損ということは、借り手にとっては得になるのです。ただし過去のインフレ時の経験どおり、借り手の賃金が諸物価並みに上昇すればという条件がつきます。
この手段の利点はもう一つ。たとえインフレにならなくとも、支払い家賃分で家が手に入ることです。どちらへ転んでも損はないでしょう。
(P198-199/第5章 「お金のリスク」にご用心)
※新築マンションを購入している若い人は少数派(次図)。
「新築マンション購入時期、どのライフステージが多いのか」より
「資産運用の第一は借金の返済にあり」は誤りです
住宅ローンと米国債との金利差が拡大した時には、住宅ローンは返済せずに米国債で運用することは検討する価値があるという。
「資産運用の第一は借金の返済にあり」は誤りです
(前略) 資産運用のアドバイスを専門にする方々が書いている教科書には、「資産運用の第一歩は借金の返済にあり」とあります。何故ならローン金利は、資産運用の利回りより高いのが普通だからです。でないと預金を集めてローンで貸し出す銀行業は成り立ちません。ローンを抱えている人に、余裕ができたら低利で運用するより高い金利のローンを返済すべしという理屈です。
この理屈は一見もっともな理屈ですが、実情は違います。現在の日本では政府・日銀の低金利政策が行き過ぎの域に達していて、35年ローンの固定金利か2%前後になっています。超低金利だとローンの返済が楽になり、賃料を払うより家を買ってローンを返済するほうに分がある、あるいは同等ということがあるからです。同等なら返済の最後に家が残るほうに分かあります。そして海外に目を向ければ、金利というリターンをしっかりともたらす安全な投資先があります。
さらに大事なことは、先ほど申し上げたように、借金は円安の強力なヘッジになるからです。もっと積極的方法もあります。早期返済の資金が貯まったとします。例えば35年ローンの固定金利が3%を切るようなレベルにある時、返済などせず、米国債の30年債を3.7%(2023年3月末時点の利率)で運用するのです。すると為替の変動は考慮していませんが、毎年0.7%ずつ稼げます。ローン金利が2%であれば1.7%稼げます。実際には為替は変動するので、誰にでもおすすめできる戦略ではありません。しかし金利差が1%、2%と拡大した時には、この手は大いに検討する価値があります。こうした柔軟な発想は、全世界を視野に入れる発想を持たないと出てこないものです。みなさんは是非そうした広い視野で物事を見るようにしてください。世界の基軸通貨はドルですし、世界の投資家はすべてドルを基準に評価をしているのです。(以下略)
(P200-201/第5章 「お金のリスク」にご用心)
※遺産相続や宝くじ当選などで、棚ぼた的に大金を手にしたら、庶民は億ションに手を伸ばすのではなく、身の丈に合ったマンションを購入し、残りは米国ゼロクーポン債を買ったほうがいい、というスムログ読者に回答した5年前の記事。
本書の構成
6章構成。全215頁。
- 第1章 国に任せても、あなたのお金は守れません
- 第2章 私が米国債投資をススめる理由
- 第3章 ストレスフリー投資=米国債投資のススメ
- 第4章 米国債で自分年金を作る方法
- 第5章 「お金のリスク」にご用心
- 終章 平成とはどんな時代だったか
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