マルサ(国税局査察部)を超える最強部隊と呼ばれる国税局資料調査課(りょうちょう)に勤めていたことのある佐藤氏の著書『富裕層のバレない脱税』を読了。
一定の金融リテラシーを持つ人にとっては読みごたえがあるのでは。
目次を見ただけでも読んでみたくならないか?
- 序 章 なぜ人は脱税するのか?
- 第一章 税金から逃れる「庶民」たち
1 なぜ水商売や飲食店に脱税が多いのか?──現金商売
2 「坊主丸儲け」は本当か?──宗教法人
3 うちの社長はなぜ脱税したのか?──中小企業- 第二章 「富裕層」のバレない脱税
1 なぜ小金持ちはずる賢いのか?──個人投資家
2 金に糸目をつけないウルトラCでカネを逃がす──富裕層
3 法の抜け穴を悪用する輩──ループホールvs.国税局- 第三章 暗躍する「脱税支援ブローカー」たち
1 脱税を堂々と支援する輩──B勘屋
2 癒着で暗躍する悪いヤツら──国税OB税理士
3 世界をまたにかけて脱税を支援する悪いヤツら──プロモーター
このブロブの読者は不動産関係に関心がある方が多いだろうから、第三章の「3 世界をまたにかけて脱税を支援する悪いヤツら──プロモーター」のなかから「海外不動産ブローカー」を抜粋しておこう。
投資国の賃貸収入を日本で申告しないで賃料をプールし、そのカネを現地国の高いレートの定期預金に移管する脱税手法があるという。
海外不動産ブローカー
「ランドバンキング」という名の資産運用が10年以上前に流行ったことがある。投資対象国はアメリカが多かった。不動産の減価償却費の計上(赤字)を利用して、他の黒字所得と損益通算(税務上の相殺)することにより節税するというスキームである。リースを使った節税スキーム「レバレッジドリース」と同様の税効果があり人気であった。
しかし平成18年(2006年)の税制改正により、直接投資による不動産購入以外は節税ができなくなった。ゆえに投資自体のリターンや現地国での課税、売却にかかる税負担
(節税できた分か吹っ飛ぶことがある)、専門家へのフィーなどをトータルで考えると、海外不動産投資はもはやボロ儲けできるようなものではない。
一方でアジアに目を向けると、いくつかの理由から魅力的なリターンを期待できる案件が登場した。第二章ですでに述べたが、投資国のインカム(賃貸収入)を日本で申告しないで賃料をプール、そのカネを現地国の高いレートの定期預金に移管する脱税手法だ。これにより複利と同等の運用ができる。「インカム十預金金利十キャピタルゲイン(売却時に利益が出れば)」となり、数年で元本が倍以上となる。
日本が締結している租税条約は、全世界のすべての国と締結しているわけではない。アジアの国のなかでも、租税条約の交渉テーブルにすらついていない国がある。
海外不動産ブローカーは、そういった租税条約のない国や地域を悪用することにより、最大のリターンを営業トークに日本国内で活動している。彼らは豊富な金融知識とブレーンである専門家との提携により、見込み客を年々増やしている。(P242-243)
財務省のホームページに公開されている「租税条約ネットワーク」をみると、アジアで「租税条約のない国」(次図の白抜き)が確認できる。
具体的にいえば、モンゴル、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ネパール、パプアニューギニアなどである。
財務省「租税条約ネットワーク」より
カンボジアやラオス、ミャンマーなどの不動産投資セミナーをネットで見かけるが、ヤバイ人たちなのか……。
『富裕層のバレない脱税』(NHK出版新書) 2017/9/9