経済学者、金子勝先生の新刊『平成経済衰退の本質』(岩波新書)を読了。
「失われた30年」となった平成時代を振り返り、日本経済が衰退していくさまを詳説。特にアベノミクスに手厳しい。
不動産バブルにも触れられていたので、ピックアップしておいた。
都心だけの局所的バブル
超低金利政策が銀行経営を圧迫し、バブル期並みの不動産融資の増加をもたらしているが、都心だけの局所的バブルにとどまっている。
歪んだバブル
(前略)日銀がバブルを作り出しているのは株だけではない。不動産投資信託も19年3月10日時点で5087億円も買っており、不動産価格の上昇も著しい。ただし、図4-4aと図4-4bの公示地価の動きが示すように、地価上昇は大都市圏の商業地に集中して起きている。
それ以外では、地方の中核都市での貸家建設が伸びていたが、地方圈や住宅地の地価上昇はそれほどでもない。超低金利政策が銀行経営を圧迫し、バブル期並みの不動産融資の増加をもたらしているが、都心だけの局所的バブルにとどまっている。(以下略)
(P153/第4章 終わりの始まり)
※金融政策では、住宅需要を前倒しすることはできても、底上げすることはできないことを、日本銀行金融研究所所長などを歴任した翁邦雄氏も指摘している。
⇒「金融政策では、住宅需要を底上げできない」
オリンピック前に、大幅な値崩れが始まっていく可能性
オリンピック前に、投機目的で買っている国内外の投資家が売り抜け、マンションや貸家バブルの破綻から大幅な値崩れが始まっていく可能性もあるという。
中央銀行の「死」
(前略)一方、国内では、東京オリンピックが終わると、それまで流入してきたヒトやカネが急激に引いて行くので、不動産バブルがはじけて景気が後退することが懸念されている。
18年下期から不動産取引は減少しており、オリンピック前に、投機目的で買っている国内外の投資家が売り抜け、マンションや貸家バブルの破綻から大幅な値崩れが始まっていく可能性もある。
銀行は、超低金利の下で貸付利息収入が極端に縮小しており、みずほ銀行が18年度決算で6800億円の損失を計上したが、経営が苦しくなっている。とりわけ地方金融機関は、シェアハウスの蜜査を甘くしたスルガ銀行のように不動産融資に傾斜しているところも少なくない。地方銀行や信用金庫を中心に金融機関が経営困難に陥り、引き取り手のない地銀・信金が出てくる危険性がある。そうなった場合、ただでさえ疲弊している地域経済は一層の困難に陥るだろう。(以下略)(P157/第4章 終わりの始まり)
※2020東京オリンピック・パラリンピック後も50階以上の超超高層マンションが少なくとも13件(21,700戸)が計画されているのだが(次図)。
「50階以上の「超超高層マンション計画」を可視化」より
アベノミクスは、格差を固定化
アベノミクスは、日本の一部の富裕層を潤し、格差を固定化していくという指摘。
新しい格差社会
(前略)アベノミクスは、意図的に株・不動産バブルを作り出すことによって、こうした外資系の「食い尽くし」ファンドの格好の餌食となり、そのおこぼれにあずかる日本の一部の富裕層を潤す。これも、また日本社会を貧しくし、その中で格差を固定化していくのである。
このような大都市圈の局所的バブルは将来、町や村そのものを破壊しかねない。都心回帰でタワーマンションが建設される一方、都市郊外から地方にいたるまで空き家の増加が著しいからである。13年時点(5年ごとに行われる総務省「住宅・土地統計調査」)でも全国の空き家率は13.5%になる。東京でも11%を超える。空き家は壊すと固定資産税が増加するので放置され、しかも持ち主はそこに住んでいないので、町は動きがとれなくなって崩壊していくのである。株同様、不動産のバブルも持続可能性がなく、いずれは崩壊するものである。その時は、都市の空洞化が一気に表面化してくるだろう。(以下略)
(P189/第4章 終わりの始まり)
※社会が不安定化する危険水準といわれている「ジニ係数が0.4を超えている」自治体は、23区では4区(渋谷、文京、新宿、世田谷)。幸いなことに、まだ不安定感の兆候は見られない(笑)
⇒「首都圏における経済格差を可視化してみた」
本書の構成
全5章。全216頁。
- 第1章 本主義は変質した
- 第2章 グローバリズムから極右ポピュリズムへ
- 第3章 転換に失敗する日本
- 第4章 終わりの始まり
- 第5章 ポスト平成時代を切り拓くために
⇒(Amazon)金子勝 (著)『平成経済衰退の本質』(岩波新書)2019/4/20
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