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「家いちば」という社会実験『空き家幸福論』日経BP

家いちば株式会社代表取締役CEOよる『空き家幸福論』 日経BP(2020/11/20)を読了。

名称は眼鏡のチェーン店みたいだが、地方活性化の可能性を秘めた、すごいビジネスモデルを展開している。本書を読むと、自分も買ってみようかなという気にるかも……。

朱書きは、筆者コメント。


もくじ

売れ筋は100万円前後から300万円くらい

家いちばの売れ筋は100万円前後から300万円くらいまでの「現金で買える」範囲の価格帯の物件。

顔が見えるから買いたくなる

 家いちばの売れ筋は100万円前後から300万円くらいまでの「現金で買える」範囲の価格帯の物件である。中にはタダ同然のものもある。都心で生活している人にとっては、土地付きの一軒家が中古車を買うような値段で買えることに驚く人も多いだろう。見方によっては賃貸の初期費用並みで持ち家が買えてしまう。

(中略)人気の理由は安さだけではなさそうだ。物件を探す人にとってみれば、安いだけでは、むしろ心配になってしまうものだ。「何か欠陥があるのではないだろうか」「事故物件ではないだろうか」と。しかも、ボロボロの建物の写真と面積や築年数くらいしか書かれていない簡単な概要だけでは、疑心暗鬼になってしまうだけだ。


 ところが家いちばのサイトには、売主自身が書いた思いの詰まった文章が載っていて、それがとても好評なのだ。「買うつもりはなくても読んでるだけで面白い」と言われるくらいで、この文章が買い手の背中を押している。売り手の物語が買い手を動かしているのである。(以下略)

 

(P35-36/第1章 売っても買っても幸せになれる理由)

※「家いちば」で表示されている物件は1,217件、うち売出し中は473件(21年1月3日現在)。

表示件数は、千葉県と長野県がダントツで多い(次図)。移住先あるいは多拠点生活先として人気があるのかもしれない。

「家いちば」物件掲載状況(都道府県別)

どんな物件でも自由に売れる

雑草だらけでも、部屋にはまだ荷物がたくさん残っていても、どんな状態でも掲載して構わないとしている。

どんな物件でも自由に売れる

(前略)家いちばでは、セルフサービスで自分でサイトに直接掲載できるから、売れるとか売れないとか誰からも何も言われることがなく、自由に売り出せる。私は、売主が「こんな物件は売れないのではないか」と悩んでいるだろうことに着目して、「何でも、どんな物件でも売っていいですよ」ということを明確に打ち出した。どんなに古くても、たとえ雨漏りしていても、雑草だらけでも、部屋にはまだ荷物がたくさん残っていても、どんな状態でも掲載して構わないとした


 「価格が決まってなくても大丈夫です」ともした。これもなかなか画期的だった。不動産広告のルールとしては価格を表示することが常識だったからだ。しかし、家いちばは消費者同士が直接やりとりする「掲示板」なので、業者が掲出する「広告」とは異なる扱いとなり、常識を覆した。とはいえ、家いちばでは自主的に不動産広告規制に準じた掲載ルールを独自に採用しており、誇大広告のようなものにはならないようには配慮している。(以下略)

(P80/第2章 空き家売買で幸福になれる仕組み)

※「家いちば」を消費者同士が直接やりとりする「掲示板」と位置付けたことで、不動産広告規制を外れているという。

不動産の表示に関する公正競争規約」第4条(用語の定義)5項によれば、「顧客を誘引するための手段として事業者が不動産の内容又は取引条件その他取引に関する事項について行う広告その他の表示」として、チラシやビラ、新聞広告や雑誌広告だけでなく、ネット広告も規制の対象とされている。ただし、規制を受けるのはあくまでも事業者(同規約第2条(事業者の責務))。

家いちばのビジネスモデルは、この隙間を突いている。今後、家いちばが拡大していくと、関係当局は規制の方向に走るのか、それとも空き家対策に資するものとして支援する姿勢を取るのか……。

「家いちば」という社会実験

いろいろ試行錯誤もしながら利益を出せる仕組みをつくってきた結果、「安ければ売れる」という真実をつかんだ。家いちばという社会実験をやってきたという見方。

空き家が動けば大きな市場が生まれる

(前略)空き家問題が議論されるようになって、2018年に法改正があり、低廉な空き家に限っては、仮に0円の取引でも18万円を上限として売主から手数料を受け取ることができるようになった。ただこの程度では、空き家を積極的に扱おうとする不動産会社がなかなか増えてこない。報酬規制そのものを撤廃すればとも思うが、そうなると報酬金額の激しい自由競争が始まりかねず、それを恐れる業界は猛反発するだろう。一筋縄ではいかない問題である。


 家いちばを始めた当初は、ひとまず採算度外視で、恐る恐る格安物件を扱いながら、いろいろ試行錯誤もしながら利益を出せる仕組みをつくってきた結果、「安ければ売れる」という真実をつかんだ。家いちばという社会実験をやってきたといってもいい。


 まず、0円で売り出せば、どんな田舎のボロ家でも、問い合わせが殺到して、すぐ100件くらいの購入希望者が集まる。買いたい人が集まって競争状態になったのなら、実際の取引は別に0円でなくなるかもしれない。(以下略)

(P229/第4章 空き家が動けば社会も幸せになる)

※低廉な空家等の売買取引における媒介報酬額の特例によって、次図の薄黄色部分まで報酬が拡大された。

報酬告示の改正内容(H30.1.1より施行)
「国土交通省における空き家対策支援メニュー等」(PDF:1.3MB)P8より

本書の構成

4章構成。全294頁。

  • 第1章 売っても買っても幸せになれる理由
  • 第2章 空き家売買で幸福になれる仕組み
  • 第3章 建築・不動産の矛盾から生まれた家いちば
  • 第4章 空き家が動けば社会も幸せになる

空き家幸福論

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