先日のブログ記事「どこまで「豊洲」? マンションの名称の使用基準」では、豊洲地区に建っていないくても、最寄り駅が豊洲であれば「豊洲〇〇」というマンション名を使ってもいいという業界ルールを紹介した。
同ルールはマンション名の”表示偽装”の横行を許しているのではないのか。「豊洲」よりももっとブランド力のある「銀座」の名称を使ったマンションはどうなっているのか、というのが本日の話。
非銀座地区に「銀座」名称のマンションは29件
住まいサーフィンの「物件検索」ページで「銀座」と入力すると、竣工済み物件を含め50件がヒットする(戸越銀座や都外を除く。5月3日現在)。
銀座地区が21件。非銀座地区が29件(内訳は、築地11件、新富8件、湊4件、明石町3件、その他3件)。
非銀座地区の”銀座”物件の多くは、最寄り駅が銀座駅でも東銀座駅でもない(次図)。
「不動産の表示に関する公正競争規約」の「物件の名称の使用基準(第19条)」によれば、物件の最寄り駅の名称が使える(2号)だけでなく、「当該物件が公園、庭園、旧跡その他の施設から直線距離で300メートル以内に所在している場合」(3号)もこれらの施設の名称を使えることになっている。
でも、下図を見る限り、非銀座地区物件の多くは2号(最寄り駅ルール)にも、3号(300m以内ルール)にも該当していない。
マンション名に「銀座」が含まれる物件の分布図
(↑ クリックするとグーグルマップが開く)
次図のように「東銀座駅」から最も遠い1.17kmも離れているマンションであっても、「〇〇銀座東〇〇」という名称が使われているのである。
「銀座東」というマンション名であればOKなのか?
1km以上も離れていて「銀座」というマンション名を使ってもいいのか?
ただ、よく見ると、この「〇〇銀座東〇〇」というマンション名は、「銀座」ではなく、「銀座」+「東」の組合せだ。
銀座の東方面にあるマンションという意味であればOKなのか?
数えてみると、非銀座地区なのにマンション名に「銀座東」を含む物件は10件もあるのだ。
非銀座地区物件で、2号(最寄り駅ルール)にも、3号(300m以内ルール)にも該当していない、「銀座」を含むマンション名。
「銀座東」というマンション名であればOKなのか?
物件名に「銀座東」を含む新築マンションを販売しているデベロッパー(仮に「A不動産」と呼ぶ)の本社に、電話取材してみた(詳細は下記参照)。
A不動産の見解は、かいつまんで言えば次のとおりであった。
「地理上の名称として100点満点ではないけれど、まわない」と首都圏不動産公正取引協議会に言われている。「銀座の東側にあり、東銀座駅から徒歩十数分の距離なので、物件の名称については問題ない」というのが同協議会の判断である、とA不動産は捉えているようだ。
※取材内容をブログで公開することについては、相手(A不動産)の了解済み。
- (※前略)
- 相手:(物件名の妥当性を確認するために)物件名の候補を7、8個持って、協議会(首都圏不動産公正取引協議会)に相談に行きました。「地理上の名称として100点満点ではないけれど、かまわない」と言われています。
- 筆者:具体的に、規約第19条(物件名称の使用基準)のどの部分をもって「かまわない」と言われているのでしょうか?
- 相手:東銀座は最寄り駅ではないが、徒歩十数分であることです。
- 筆者:最寄り駅でなければ、「東銀座」の名称は使えませんよね? そもそもこの物件の所在地は△△町です。このあたりをよく知っている人で、△△町を銀座と思う人はいるのでしょうか?
- 相手:(この物件の)近くに銀座という名称を用いた物件もあります。
- 筆者:ほかの物件がどうかという問題ではないですよね?
- 相手:周辺の物件の名称も調べて、物件の名称を検討しました。「銀座の東側にあるからかまわない」ということも(首都圏不動産公正取引協議会から)言われています。
- 筆者:銀座の東側であれば、(隅田川を挟んで)さらに東にある佃だって銀座の東側です。東側であればどこまででもいいということになってしまいますね。
- 相手:(この物件は)東銀座から徒歩十数分です。
- 筆者:「最寄り駅ルール」(2号)は該当しないという話でしたよね。
- 相手:東銀座駅からそんなに遠くないということです。
- 筆者:距離の話でいうならば、「300mルール以内」(3号)がありますが、この物件は300mよりもはるかに遠いから、該当しませんよね。
1号(当該物件の所在地において、慣例として用いられている地名又は歴史上の地名がある場合は、当該地名を用いることができる)に関連して「問題ない」という話ではないのですか?- 相手:そうです。
- 当方:売る側が「銀座」の名称を使いたいというのは十分理解できますが、1号(慣例地名ルール)をもってこの物件の名称が「問題ない」と判断されたのだとすれば、消費者サイドとしては納得感がありませんね。
- 相手:物件名の候補を7、8個持って協議会に相談に行き、この物件名であれば問題ないと判断していただきました。
- (※込み入ったやり取りにつき中略)
- 筆者:「銀座の東側にあり、東銀座駅から徒歩十数分の距離なので、物件の名称については問題ない」と協議会(首都圏不動産公正取引協議会)も御社(A不動産)も判断したという理解でよろしいでしょうか?
- 相手:はい。
- (※以下略)
「ブランド地域名」+「方位」というネーミングの抜け穴
A不動産の説明通りだとすれば、駅徒歩十数分以内であれば、「ブランド地域名」+「方位」のマンション名称が許されることになる。
そうすると、非銀座地区であっても、たとえば「銀座南レジデンス」だとか、「銀座北レジデンス」といったようなネーミングが許されることになる。
非豊洲地区に建つマンションだって、「豊洲東タワー」とか、「豊洲南タワー」というようなネーミングが可能だ。
そうなると土地勘のない人にとって、優良誤認効果があるということになるのでは・・・・・・。
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