第213回国会(24年1月26日~6月23日)の衆議院の質問主意書を眺めていて、羽田新ルートに関する質問主意書があることに気が付いた。
宮本徹 衆議院議員(共産)が3月27日に提出した質問主意書に対する政府答弁書が公開されたのでひも解いてみた。
読みやすいように、一問一答形式に再構成した。
※時間のない方は、「質疑応答のポイント」と文末の「雑感」をお読みいただければと。
- 宮本徹 衆議院議員(共産)
- 問1(部品の落下・欠落について)
- 問2(固定化回避に係る技術的方策検討会について)
- 雑感(鋭い質問)
宮本徹 衆議院議員(共産)
宮本徹 衆議院議員(共産党、3期、東大、52歳)
東京の都心上空を飛行する羽田空港の新飛行ルートが2020年3月29日に運用が開始されてから4年が経過した。新ルートは騒音、落下物の危険、事故への不安、巨大な機影への圧迫感など住民生活に深刻な影響を及ぼしている。
昨年8月から9月に品川区が実施した区民アンケートの集計結果(有効回答8万7086人)が本年3月8日に公表され、それによると新ルートに関して「影響を受けている」とした回答は44.5%にのぼり、「ルート下近傍地域」ではこの割合はさらに高くなっている。
新ルートについての住民の批判、懸念は依然として強く、理解が得られているとはおよそ言えない状況である。
新飛行ルートは中止・撤回すべきである。
そこで以下質問する。
問1(部品の落下・欠落について)
国土交通省は2017年11月から、国際線が多く就航する、羽田空港を含む全国7空港で部品欠落についての報告を徴収している。この報告制度は落下物の未然防止に活かすとしている。
問1-1
報告結果は2カ月ごとに総計と重量別・部品別割合が公表され、年度ごとの集計結果も公表されている。ところが重量別割合についての集計結果は最も重いクラスは「1kg以上」と区分され、その個数が示されているが、それらの具体的な重量は示されていない。
問1-1-イ:「1kg以上」と区分した欠落部品、具体的な重量?
報告制度の開始以降、直近の集計まで、「1kg以上」と区分した欠落部品について、①その具体的な重量、②部品の種類、③発見の有無、④発見された場合はその場所を、報告時期の順に示されたい。
答1-1-イ:「報告時期の順」にお示しする
御指摘の「報告制度の開始以降、直近の集計まで、「1kg以上」と区分した欠落部品」について、お尋ねの①「その具体的な重量」、②「部品の種類」、③「発見の有無」及び④「発見された場合はその場所」を御指摘の「報告時期の順」にお示しすると、それぞれ次のとおりである。
- ①1.0kg②前脚トルクリンクの一部③無
- ①1.0kg②ブレーキ冷却ファンの一部③無
- ①2.0kg②ライトのカバー③無
- ①2.0kg②主脚タイヤの一部③有④関西国際空港の敷地内
- ①1.0kg②フェアリングの一部③無
- ①2.0kg②パネル③無
- ①1.0kg②アンテナ③無
- ①1.0kg②パネル③無
- ①2.0kg②バネ(1本)③無
- ①3.0kg②ブレーキ板③無
- ①1.7kg②主脚タイヤの一部③有④出雲空港の敷地内
- ①1.5kg②ブレーキ板③有④新1000歳空港の敷地内
- ①5.0kg②主脚タイヤの一部③無
- ①2.0kg②主脚タイヤの一部③有④関西国際空港の敷地内
- ①2.0kg②パネル③無
- ①1.8kg②前脚タイヤの一部③有④岡山空港の敷地内
- ①83.4kg②ファンカウルの一部③無
- ①12.2kg②ファンカウルの一部③有(一部)④多良間島の海岸
- ①13.1kg②ファンブレード③無
- ①4.9kg②ファンブレード③無
- ①97.3kg②ファンカウルの一部③無
- ①2.0kg②前脚タイヤの一部③有④東京国際空港(以下「羽田空港」という。)の敷地内
- ①1.4kg②ブレーキを固定する部品の一部③有④関西国際空港の敷地内
- ①75.0kg②主脚タイヤ(1個)③有④女満別空港の敷地内
- ①5.0kg②補助動力装置の空気取入口ドア③無
- ①4.0kg②ブレーキ部品の一部③有④中部国際空港の敷地内
- ①60.0kg②フェアリングの一部③有④成田国際空港の敷地内
- ①4.7kg②主脚タイヤのゴムの一部③有④成田国際空港の敷地内
- ①1.4kg②ブレーキを固定する部品の一部③有④羽田空港の敷地内
- ①3.3kg②ブレーキを固定する部品の一部③無
- ①10.0kg②主脚タイヤのゴムの一部③有④成田国際空港の敷地内
- ①6.4kg②着陸灯③有④羽田空港の敷地内
- ①5.0kg②主脚タイヤのゴムの一部③無
- ①3.0kg②エンジンの消音パネル③無
- ①25.0kg②エンジンカウル③有④太平洋上
- ①5.0kg②主脚タイヤのゴムの一部③有④中部国際空港の敷地内
- ①2.67kg②エンジンの消音パネルの一部③無
- ①6.5kg②主脚タイヤのゴムの一部③無
- ①3.5kg②主脚タイヤのゴムの一部③無
- ①28.0kg②主脚タイヤのゴムの一部③有④羽田空港の敷地内
- ①1.2kg②主脚ホイールの部品③有④成田国際空港の敷地内
- ①25.0kg②主脚タイヤのゴムの一部③無
問1-1-ロ:「1kg以上」の部品の欠落、どの時点で発生?
前項の「1kg以上」の部品の欠落について、それらはそれぞれ航空機の運航過程のどの時点で発生したと考えられるか。離陸時、飛行中、着陸時、地上走行中などの別とそのように判断する根拠を示されたい。
答1-1-ロ:お答えすることは困難
1の1のイで御指摘の「報告制度」においては、部品の欠落が「航空機の運航過程のどの時点で発生した」かについては報告の対象となっておらず、また、部品欠落の発生場所は、多くの場合、特定することは困難であり、政府としてお尋ねについて把握していないため、お答えすることは困難である。
問1-1-ハ:部品の落下・欠落、航空機の機能や飛行に支障事例?
航空機から部品の落下・欠落が生じたことにより航空機の機能や飛行(離陸、着陸を含む)に支障が生じた事例について、政府として把握しているところを示されたい。またその際、航空会社に対し、政府はどのような対応を行ったか。
答1-1-ハ:国土交通省令で定める事態に該当するものについて
お尋ねの「航空機の機能や飛行(離陸、着陸を含む)に支障が生じた」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、部品の欠落が報告された事例のうち、航空法(昭和27年法律第231号)第76条第1項各号に掲げる事故又は同法第76条の2に規定する国土交通省令で定める事態に該当するものについて、①当該事例の発生日、②航空会社、③航空機の型式、④欠落した部品、⑤当該部品の重量、⑥当該事故又は当該事態の具体的内容及び⑦航空会社に対する政府の対応については、それぞれ次のとおりである。
- ①平成30年3月24日②ピーチアビエーション株式会社③エアバス式A320214型④前脚トルクリンクの一部⑤1.0kg⑥航空機の前脚の損傷により地上走行が継続できなくなった事態⑦同社に対する当該事態に係る原因分析及び再発防止策の検討の指示並びに同型機を運航する航空会社に対する情報共有及び点検の指示
- ①令和2年12月4日②日本航空株式会社③ボーイング式777-200型④ファンカウルの一部(3個)及びファンブレード(2個)⑤97.3kg、83.4kg及び12.2kg並びに13.1kg及び4.9kg⑥発動機の破損(破片が当該発動機のケースを貫通した場合に限る。)に準ずる事態⑦同社に対する当該事態に係る原因分析及び再発防止策の検討の指示並びに当該発動機と同種のものを装備した航空機を運航する航空会社に対する情報共有及び点検の指示
問1-1-ニ:氷塊落下、地上の構築物等に衝突した場合の衝撃?
航空機から部品や氷塊が落下し地上の構築物等に衝突した場合の衝撃の大きさや度合いについて研究・検討したことがあれば示されたい。また衝撃の大きさ等について示すものがあれば示されたい。
答1-1-ニ:把握していない
政府としては、お尋ねの「研究・検討」を実施しておらず、また、お尋ねの「衝撃の大きさ等について示すもの」についても把握していない。
問1-2:部品欠落、羽田空港において報告された件数?
国土交通省は2020年2月25日の衆議院予算委員会第6分科会において、2018年度に羽田空港で報告された部品欠落報告の件数は154件であったと答弁している。その後、空港ごとの件数は示されていない。羽田空港において報告された件数を年度ごとに示されたい。
答1-2:令和元年度が382件、・・・
お尋ねの「羽田空港において報告された件数」について、御指摘の「年度ごと」にお示しすると、令和元年度が382件、令和2年度が468件、令和3年度が530件及び令和4年度が418件である。
なお、これらの件数はあくまでも羽田空港に着陸後の航空機に係る機体チェック等により判明した部品欠落の件数であり、当該部品欠落の発生場所は、多くの場合、特定することは困難であるところ、これらの件数は羽田空港周辺で発生した部品欠落の件数を意味するものではない。
(政府答弁を元に筆者作成)
問1-3:落下物を未然に防止することが容易ではない。政府の認識?
欠落部品の総計は、2019年度は928件、2020年度は1005件、2021年度は1064件、2022年度は992件、2023年度は9月までの上半期だけで692件にのぼり、コロナ禍により航空機が減便された時期を含め減少しているとは言えない。
このことは落下物を未然に防止することが容易ではないことを示しているのではないか。政府の認識を示されたい。
(議員質問を元に筆者作成)
答1-3:「落下物対策総合パッケージ」の見直しと強化を図る・・・
政府としては、御指摘の「2019年度」から御指摘の「2023年度」までの部品欠落の報告件数のみをもって、御指摘の「落下物を未然に防止することが容易ではない」と判断できるものではないと考えている。
いずれにせよ、今後も引き続き、国土交通省において平成30年3月に取りまとめた「落下物対策総合パッケージ」の見直しと強化を図るとともに、同パッケージに盛り込まれた対策を、航空会社をはじめとする関係者とともに着実かつ強力に実施してまいりたい。
問2(固定化回避に係る技術的方策検討会について)
国土交通省は羽田新経路の固定化を回避するための方策に関して「現在の滑走路の使い方を前提とした上で、騒音軽減等の観点から見直しが可能な方策がないかについて、技術的観点から検討を行う」として、2020年6月に「羽田新経路の固定化回避に係る技術的方策検討会」を設置し検討を行っている。
しかし同検討会は2022年8月3日の第5回以降、1年7カ月以上にわたり開催されておらず、2023年度についてはいまだ1度も開催されていない状況である。
(羽田新経路の固定化回避に係る技術的方策検討会(まとめ)※適宜更新 より)
問2-1:第6回検討会、2023年中に、なぜ開催されなかったのか?
第5回検討会では資料として「今後のスケジュールについて」を示し、それによると第6回検討会は2023年中に開催する予定であることが図示されている。しかし開催には至らなかった。なぜ開催されなかったのか。
答2-1:当該安全性評価に時間を要している
御指摘の「第6回検討会」においては、複数の航空機が羽田空港のA滑走路及びC滑走路へ同時に進入する際の飛行経路に係る国土交通省による安全性評価の結果に基づく検討が行われる予定であるところ、当該安全性評価に時間を要していることから、御指摘のように「2023年中に開催」するに至らなかったものである。
問2-2:第5回検討会以降行った業務、具体的かつ詳細に示されたい
同検討会の検討に基づく業務で、第5回検討会以降に行った業務、現在継続して行っている業務があれば具体的かつ詳細に示されたい。そのうち外部に発注して行っている業務があれば、案件名、発注機関、契約日、契約先、履行期間を示されたい。
答2-2:「外部に発注して行っている業務」については・・・
お尋ねの「同検討会の検討に基づく業務」の意味するところが必ずしも明らかではないが、国土交通省においては、御指摘の「第5回検討会」での議論を踏まえ、引き続き、2の1についてで述べた安全性評価を実施しているところである。
御指摘の「外部に発注して行っている業務」については、お尋ねの①「案件名」、②「発注機関」、③「契約日」、④「契約先」及び⑤「履行期間」をお示しすると、それぞれ次のとおりである。
- ①B767型飛行シミュレータ装置を用いた検証作業②国土交通省航空局③令和4年9月15日④日本航空株式会社⑤同月16日から令和5年3月24日まで
- ①B777型飛行シミュレータ装置を用いた検証作業(その2)②同局③同年1月11日④全日本空輸株式会社⑤同月12日から同年3月24日まで
(国交省が公表した「競争入札経過調書」を元に筆者作成)
問2-3:2023年度に同検討会の経費としていくら支出したか?
政府は2023年度に同検討会の経費としていくら支出したか。その細目とともに示されたい。
答2-3:「検討会」は開催していないため、お尋ねの「支出」はない
令和5年度においては、御指摘の「検討会」は開催していないため、お尋ねの「支出」はない。
問2-4:同検討会の次回開催時期はいつか?
同検討会の次回開催時期はいつか。
答2-4:現時点でお示しすることは困難
国土交通省においては、引き続き、2の1についてで述べた安全性評価を実施しているところであり、お尋ねの「同検討会の次回開催時期」について、現時点でお示しすることは困難である。
問2-5:新ルートは「固定化」されるものになっている?
同検討会は第4回と第5回の開催間隔についても、第4回開催は2021年8月25日であり、第5回開催は1年近く経過した後であった。同検討会は開店休業状態が「固定化」している状況である。
また、次回第6回検討会が開催されたとしてもそこで結論を得るとはされていない。
「固定化を回避する方策について検討する」としながら、その間新飛行ルートは継続されており、新ルートは「固定化」されるものになっているのではないか。認識を示されたい。また、この現状を改める上からも、少なくとも検討期間中は新ルートの運用をいったん停止すべきではないか。
答2-5:技術的観点から検討(略)御指摘は当たらない
お尋ねについては、国土交通省においては、現在、航空機の騒音による影響の軽減、御指摘の「新ルート」の固定化の回避等の観点から、当該新ルートの見直しが可能な方策があるかどうかについて技術的観点から検討を行っているところであり、「新ルートは「固定化」されるものになっているのではないか」との御指摘は当たらないと考える。
また、当該新ルートについては、将来的な航空需要の拡大を見据え、我が国の国際競争力の強化、首都圏における航空機の騒音による影響の分散等の観点から、御指摘の「検討期間中」においても、引き続き運用する必要があると考えている。
雑感(鋭い質問)
宮本議員が取り上げたのは、部品落下・欠落問題と固定化回避検討会が開催されていないことの2点。いずれもよく練られた鋭い質問となっている。
部品落下・欠落:最大重量は97.3kg
これまで「1kg以上」の部品落下・欠落情報は、区議会などの質問を通して、部分的には知られていたが、今回の質問によって、羽田空港を含む全国7空港で部品欠落の報告が始まった17年11月以降の詳細データが明らかになった。
今回国交省が回答した部品落下・欠落件数は全部で42件(うち発見されていないのが23件、発見されたのが19件)(次図参照)。
60kgを超えたのは、次の4件。
- 97.3kg(ファンカウルの一部)発見無し
- 83.4kg(ファンカウルの一部)発見無し
- 75.0kg(主脚タイヤ1個)女満別空港の敷地内で発見
- 60.0kg(フェアリングの一部)成田国際空港の敷地内で発見
最大重量は97.3kgだが、同事案は22年12月4日に発生し、JALボーイング式777-200型において発動機が破損し、「ファンカウルの一部(3個)及びファンブレード(2個)」として、「97.3kg、83.4kg及び12.2kg並びに13.1kg及び4.9kg」と大量に欠落している。
また、羽田空港の敷地内で発見されたのは、次の4件。
- 28.0kg(主脚タイヤのゴムの一部)
- 6.4kg(着陸灯)
- 2.0kg(前脚タイヤの一部)
- 1.4kg(ブレーキを固定する部品の一部)
固定化回避検討会の経費ゼロ!?
第5回の会議を最後に1年7か月以上会議が開催されていないこと、またその理由が「安全性評価に時間を要していること」については、すでに区議会などの質疑で明らかになっていた。
今回の質問で明確なったのは、次の2点。
1点目は、第5回検討会以降に行った業務は「安全性評価」であり、ANAとJALにそれぞれ「B767型飛行シミュレータ装置を用いた検証作業」を450万円前後で委託していたこと(次表、再掲)。
競争入札なのに、1社入札で、しかも落札率が99%(JAL)と100%(ANA)と高いことの問題については、ここでは詳述しない。
2点目は、23年度の固定化回避検討会の経費を支出していないこと。
宮本議員の質問「政府は2023年度に同検討会の経費としていくら支出したか」に対して、政府は「『検討会』は開催していないため、お尋ねの『支出』はない」と回答している。
検討会は開催していないにしても、有識者らと一切会議を持っていないのか、それともお茶しか出さない小会議なので経費が発生していないのか。
宮本議員は「同検討会の経費」と質問するのではなく、「同検討会の経費(開催に向けた下打ち合わせ等を含む)」と質問すれば、よかったのかも。
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