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コロナ減便なのに羽田新ルート運用継続は「分散等の観点から」と閣議決定

第204回国会(21年1月18日~6月16日)の衆議院の質問主意書139件のなかに、129番目として羽田新ルートに係る次の質問主意書が埋もれている(5月22日現在)。

松原仁 衆議院議員が5月10日に提出した質問主意書に対する政府答弁書(5月21日)の内容につき、衆議院HP掲載前に同議員が5月22日にツイッターで公開したのでひも解いてみた。


質疑応答のポイント

松原仁衆議院議員
松原仁 衆議院議員(7期、立憲民主党、早大商卒、64歳)

羽田空港の新飛行ルート運用に関して、政府は事前の住民説明会において、東京五輪の招致に伴う外国人訪日客の増加を導入の一大目的として挙げた

しかし、新型コロナウイルス感染症蔓延により、五輪観戦目的の外国人観光客を受け入れないこと、また関係者の訪日も最低限に縮小することと承知している。

そこで以下質問する。

問1:航空需要・東京五輪関連訪日客の大幅減少、新飛行ルート導入の目的を果たす必然性は無くなった

新型コロナウイルス感染症流行に伴う航空需要及び東京五輪関連訪日客の大幅減少を鑑みれば、国際空港としての機能強化という羽田空港新飛行ルート導入の目的を果たす必然性は無くなったと考えるが、政府の見解は如何。

問2:固定化の回避が必要な飛行経路、新飛行ルート運用を続ける具体的なメリット?

現在、国土交通省において「羽田新経路の固定化回避に係る技術的方策検討会」が設置されているが、固定化の回避が必要な飛行経路であるにもかかわらず、現在も新飛行ルート運用を続ける具体的なメリットを全て示されたい

その上で、政府においては、それらのメリットが羽田新飛行ルート下の住民が被る騒音被害や落下物等のリスクを上回るとの認識か。

答1&2:騒音による影響の分散等の観点から、引き続き運用する必要がある

お尋ねの「固定化の回避が必要な飛行経路であるにもかかわらず、現在も新飛行ルート運用を続ける具体的なメリット」及び「それらのメリットが羽田新飛行ルート下の住民が被る騒音被害や落下物等のリスクを上回る」の意味するところが必ずしも明らかではないが、東京国際空港における新たな飛行経路(以下「新経路」という。)については、御指摘の「新型コロナウイルス感染症流行に伴う航空需要及び東京五輪関連訪日客の大幅減少」にかかわらず、将来的な航空需要の拡大を見据え、我が国の国際競争力の強化、首都圈における航空機の騒音による影響の分散等の観点から、引き続き運用する必要があると考えている。

新経路の運用に当たっては、引き続き、関係地域の地方公共団体及び住民の方々からの意見を伺いつつ、航空機の騒音対策や航空機からの落下物対策を実施するとともに、羽田新経路の固定化回避に係る技術的方策検討会において、新経路の航空機の騒音による影響の軽減、固定化回避等の観点から、新経路の見直しが可能な方策がないかについて技術的観点から検討を進めてまいりたい

解説(「騒音共有」から「分散等」へ)

新型コロナの影響で航空需要・五輪訪日客が大幅に減少するのに、羽田新ルート運用の必然性はあるのか。航路下の住民の多くが抱いているこの疑問に対する政府の回答に「分散等の観点」という表現が出てくる。

首都圈における航空機の騒音による影響の分散等の観点から、引き続き運用する必要があると考えている。

じつはこの「分散等の観点」は、松原議員が昨年11月26日に提出した質問主意書(コロナ禍に伴う羽田空港発着の航空需要の減少)に対する政府答弁書にも登場する。

(前略)新経路については、新型コロナウイルス感染症の影響にかかわらず、我が国の国際競争力の強化、首都圏における航空機の騒音による影響の分散等の観点から、引き続き運用する必要があると考えている。

このように、コロナ減便なのに羽田新ルートの運用が継続されているのは「分散等の観点から」と2度も閣議決定されているのである。

でも、予備知識の少ない人がこれらの文章を読んでも、「首都圏における航空機の騒音による影響の分散等の観点」が何を意味しているのかピンとこないだろう。

「分散等の観点」とは、コロナ減便とオリパラ中止により羽田新ルートを強行する理由が国際競争力の強化だけでは説得力に欠けるので、官僚が編み出した考え方。

千葉県に偏っていた飛行騒音の負担を首都圏全体に分散(共有)させようという考え方である。でも、この考え方は飛行高度的にも騒音影響人口的にも無理筋ロジックであると筆者は考えている。詳しくは、「羽田新ルート|「騒音負担共有論」は妥当なのか?」参照。

 

以下、「分散等の観点」が誕生するまでの経緯を述べる。

13年4月15日の衆議院「予算委員会」で奥野総一郎議員(千葉9区、当時の民主党)の質問に対して、田村明比古航空局長(現、成田国際空港株式会社代表取締役社長)が騒音共有論を言い出したのがルーツ。

  • 奥野:(前略)なぜ羽田の騒音を千葉市民が我慢しなきゃいけないんだ、もっと首都圏全体で引き受けてくれないかという声があるんですが、その点についていかがでしょうか。
  • 田村:(前略)現在のルートを直ちに大きく変更するということはなかなか容易ではございませんけれども、首都圏全体での騒音共有という課題は、今後の機材の低騒音化、あるいは将来の技術の進展等にあわせて取り組むべき長期的課題として、引き続き検討してまいりたいというふうに考えております。

そのときはまだ、首都圏全体での騒音共有は「長期的課題」と位置付けられていた。

その後、羽田新ルートの運用が開始され、20年4月6日の衆議院「決算行政監視委員会」で松原仁 議員の質問を受けた和田浩一航空局長が「騒音負担共有論」を持ち出したのである。

羽田空港の騒音は、これまで主に千葉県側で負担をいただいておりましたけれども、新飛行経路の運用によりまして、首都圏全体での騒音共有が図られることになります。

その後赤羽国交大臣は、機会あるごとに「騒音負担共有論」をPRするようになった。

※詳しくは、「羽田新ルート|「騒音負担共有論」は妥当なのか?」参照。

 

このようにして国会の質疑では「騒音共有」という表現が登場するようになった。ところが、国会の議事録をいくら検索しても「騒音分散」に関連した表現はヒットしない。

なぜなのか。

「首都圏全体での騒音共有」という表現は千葉県民には受けがいいが、都民からは強い反発を買っている。そこで、質問主意書の政府答弁では「騒音共有」ではなく、「分散等の観点」という表現が使われているのではないか、と筆者は分析している。

羽田新ルートに係る政府答弁の変化(「騒音共有」から「分散等」へ)

あわせて読みたい

これまでブログに投稿してきた羽田新ルートに係る質問主意書のまとめ。

2021年6月1日、このブログ開設から17周年を迎えました (^_^)/
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