不動産ブログ「マンション・チラシの定点観測」

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マンション管理業者「着服」の発生確率0.01%!?

マンション管理業者の社員による金の着服や不祥事は、たまにメディアで報道されている。
マンション管理事業者による金の着服はどの程度発生しているのか、調べてみた。


もくじ

700万円を1人で着服(現代ビジネス記事)

「管理員による犯罪やスキャンダル」が実は多発しているが、あまり表沙汰にならないというマンション管理士・松本氏の現場報告。

700万円を1人で着服…マンション管理人による「リサイクル活動奨励金横領事件」の衝撃と「危ない管理人の特徴」

(前略)管理員は、リサイクル活動奨励金が管理組合の収入に計上されていないことがばれないように毎年3万円を管理組合の収入として管理組合の小口現金口座に入金していたのです。
(中略)
警察に被害届けを出すことを理事会で決議しましたが、管理会社から支店長が訪れ使用者責任として謝罪はあったものの、「着服したお金も戻って来たし、この事件が公になればマンションの名前も知られて資産価値も下がるし、当社の信用も下がるのでお互いためにならないので内密にしてほしい」と何度も頭を下げれて、マンションの居住者にも知らせないままに管理員を交代して幕引きをはかってしまったのです。(以下略)

現代ビジネス 6月10日

マン管業者ネガティブ情報、すべて元社員による着服絡み

マンション管理事業者による金の着服や不祥事はどの程度発生しているのか?

国交省が運用している「ネガティブ情報等検索サイト」(次図)に、国交省から行政指導(登録取消、業務停止、指示)を受けた「マンション管理業者」の情報が公開されている。

ネガティブ情報等検索サイト
マンション管理業者|ネガティブ情報等検索サイト

21年度以降のデータとして公開されているのは下記の10件(指示9件、業務停止1件)(23年6月11日現在)。10件のうちの2件は信和建設への行政指導を2件(指示と業務停止)に分割しただけなので、実質的には9件で、すべて管理事業者の元社員による着服が絡んでいる。

※以下新しい順。

  • 23年3月23日 朝日ハウズィング(仙台市)指示
    • 複数の管理組合において、被処分者の元従業員が管理組合の財産を着服により毀損させ、当該管理組合に損害を与えた。詳細
  • 22年11月22日 東急コミュニティー(世田谷区)指示
    • 被処分者が管理事務を受託している管理組合において、管理組合財産を、被処分者の元従業員等による着服により毀損し、当該管理組合に損害を与えた。詳細
  • 22年11月9日 伊藤忠アーバンコミュニティ(中央区)指示
    • 複数の管理組合において、被処分者の元従業員が管理組合の財産を着服により毀損し、当該管理組合に損害を与えた。詳細
  • 22年6月6日 信和建設(大阪府中央区)業務停止(90日間)
    • 複数の管理組合において、毎月の会計の収入及び支出の状況に関する書面を作成しなかった。ほか詳細
  • 22年6月6日 信和建設(大阪府中央区)指示
    • 被処分者が管理を受託しているマンションの管理組合の財産を、被処分者の元従業員による着服により毀損し、当該管理組合に損害を与えた。詳細
  • 22年4月27日 三菱地所コミュニティ(千代田区)指示
    • 被処分者が管理を受託しているマンションの管理組合の財産を、被処分者の元従業員による着服により毀損し、当該管理組合に損害を与えた。詳細
  • 22年3月30日 日本総合住生活(千代田区)指示
    • 被処分者が管理事務を受託している管理組合において、管理組合財産を、被処分者の元従業員による着服により毀損し、当該管理組合に損害を与えた。詳細
  • 21年12月24日 日本ハウズイング(新宿区)指示
    • 被処分者が管理事務を受託している複数の管理組合において、管理組合財産を、被処分者の元従業員による着服により毀損し、当該管理組合に損害を与えた。詳細
  • 21年9月6日 日鉄コミュニティ(千代田区)指示
    • 被処分者が管理事務を受託している複数の管理組合において、管理組合財産を、被処分者の元従業員による着服により毀損し、当該管理組合に損害を与えた。詳細
  • 21年4月23日 トラストコミュニティ(下関市)指示
    • 被処分者が管理事務を受託していた管理組合において、管理組合財産を、被処分者の元従業員が不正に着服し、管理組合に損害を与えた。詳細

着服の発生確率0.01%!?

マンション管理業者のネガティブ情報は、残念ながら2021年4月以降のデータしか閲覧できない。

行政処分等情報の公開期間:5年
※2021年4月以降に行われた行政処分情報を掲載しております。

じつは、20年度以前のマンション管理業者のネガティブ情報は、マンションNPO(特定非営利活動法人 マンション管理支援協議会)のサイトに掲載されている(次図)。「処分を受けた管理業者一覧」として、11年5月以降のネガティブ情報は93件(23年6月11日現在)。うち元従業員の着服に係る事案は68件(筆者集計)。大手不動産会社の子会社も含まれている。

マンションNPO「処分を受けた管理業者一覧」
処分を受けた管理業者一覧|マンションNPO

着服68件を年度別に可視化したのが次図。

管理業者の元社員「着服」に係る行政処分件数の推移

マンション管理業者の社員による金の着服や不祥事は、たまにメディアで報道されている。年間1桁の事案数が多いのか少ないのか。

以下、着服の発生確率を試算してみる。

国交省が公表しているデータによれば、全国の分譲マンションストック戸数は約685.9万戸(21年末時点)。一方、マンション管理業者534社が全国で管理受託しているのは組合数109,701組、棟数129,411棟、戸数6,725,740戸(「マンション管理新聞」22年5月25日号に掲載されているデータを筆者が集計。部分管理や賃貸管理戸数は除かれている)。マンション管理業者534社が全国で管理受託しているマンションは、全国の分譲マンションの98%(=6,725,740戸÷6,859,000戸)をカバーしていることになる。

全国で約11万件の管理組合がマンション管理事業者に管理されていて、着服は年間10件以下なので、発生確率は0.01%以下。マンション管理事業者の社員による着服事案の発生確率が年間0.01%以下ということであれば、レアケースといえるのではないか。

ただ、マンションNPOは「事件として表に出てこないケースはもっとあります」と指摘しているので、マンション住民としては、業者の委託管理に少しは関心を持ったほうがいいのかもしれない。

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2023年6月1日、このブログ開設から19周年を迎えました (^_^)/
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