高松市郊外に建つ実家(総檜造りの平屋5DK)の売却に奮闘した、元祖バラドル松本明子の新著『実家じまい終わらせました!』祥伝社(2022/6/1)を読了。
「明子、実家を頼む」という父親の遺言に縛られて、空き家になっても維持管理だけでなく震災時の緊急避難先としてリフォームするなど、総額1800万円を投下。最終的には希望額(600万円)で売却することに成功。
実家売却に係る苦労話と3人の専門家(実家の処分、家財・遺品整理、墓じまい)との対談が写真付き・二色刷りでまとめられている。
※朱書きは、筆者メモ。
売却成功!松本明子の場合
最終的には希望額で高齢夫婦に売却することができて、実家の解体を免れたことに肩の荷を下ろす筆者。
売却成功!人手に渡っても家は残せた
空き家バンクに登録して間もなく、購入希望者が現われました。そんなにすぐに買い手が現われるとは思っていなかったので嬉しい驚きでした。
でも、購入希望額が350万円と聞いてがっかり。地元の不動産屋さんの査定よりは高い値段でしたが、こちらの希望額とは隔たりが大きく、丁重にお断りしました。
それからしばらくして2件目の照会がありました。今度こそと思いましたが、購入希望額はさらに低い250万円。それ以上は無理というのでこれまた交渉は決裂です。「何年もかかりますよ」と言った市の担当者さんの言葉が心に重くのしかかってきます。
やっぱり売却希望額が高すぎたのかな………値下げしたほうがいいんだろうか。でも、そうすると、リフォーム代の全額回収はできなくなってしまう。うーん、どうしよう。(中略)
売買契約が済んだときは、長年の苦労から解放され、これでやっと肩の荷が下りたと思いました。と同時に、「頼む」と言われた実家を売却してしまい。やはり父に申し訳ないという気持ちもありました。でも、ものは考えようです。
実家の管理をいい加減にしていたら、更地にしないと売れなかったかもしれない。そうしたら父の城は解体され、消えてなくなっていたはずです。父の思いを受け止め、大事に空き家を維持してきたからこそ、そのまま住んでいただけるご夫婦にも巡り会えた。人手に渡っても、家は残すことができたわけです。(以下略)
(P43/第1章 「空き家」ってこんなにお金がかかるとは!)
※「実家の売却前にかかった諸費用の概算金額」(総額1,885万円)の内訳を見ると、2回のリフォーム費用600万円が最も多く、次いで火災保険250万円、固定資産税とシルバー人材委託料がそれぞれ200万円。あと、交通費も180万円とバカにならない。
「実家の売却前にかかった諸費用の概算金額」P63の表を元に作成
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空き家をきちんと管理しないと賠償責任のリスクが増す
NPO法人 空家・空地管理センター代表理事の上田真一氏との対談。
空き家の所有者は工作物責任として損害賠償の責任を負う。人が亡くなったりすれば、数千万円から数億円に及ぶ可能性があるという。
空き家をきちんと管理しないと賠償責任のリスクが増す
(前略)
上田 (略)台風、大雨、大雪などで建材が剥がれて飛散したり、最悪の場合は倒壊する恐れもある。近隣住民の家や車などの財産に損害を与えたり、人に危害を加える心配もあります。実際に被害が発生したら、空き家の所有者は工作物責任(民法717条)といって損害賠償の責任を負うことになります。松本 その場合の賠償額はどれくらいになるものなんですか。
上田 公益財団法人日本住宅総合センターの試算(空き家「放置家屋」事例「空き家発生による外部不経済の実態と損害額の試算に係る調査」)によれば、人が亡くなったりすれば、数千万円から数億円に及ぶ可能性があります。小さいお子さんが犠牲になった場合などは将来得られたはずの収入(逸失利益)が考慮されるので賠償額はかなり高額になると覚悟したほうがいいです。
松本 空き家を放っておくと重い責任を背負い込むことになるんですね。
上田 そういうことなんです。(P78-79/第2章 実家の「空き家問題」はどうすればいいですか?)
※民法 第717条
(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
第717条 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。(2項・3項は省略)
実家を共有名義にしない
実家の相続は誰か一人が単独名義で行なうのがいい。一人で相続すれば、誰が責任をもって空き家に対処するか、明確だからトラブルを抑制できるという。
実家を共有名義にしない
松本 実家の相続でこれだけは注意したほうがいい、ということがあれば教えてください。
上田 実家を共有名義にしないことです。
松本 実家は一人で相続しなさい、ということですね。
上田 一人で相続することでトラブルを抑制できるということかと思います。というのも、兄弟姉妹などの共有名義にすると、実家を処分しようにも共有名義人の全員の合意がないと難しいからです。法的には、たとえば二人で共有する住宅を自分の名義分のみ(1/2)売却することは可能ですが、買い手を見つけるのは非常に困難なため、実際には売却するのは容易ではないと思います。実家を相続してから10年になるのにいまだに空き家という場合は、共有名義のためにいつまでたっても処分の合意形成ができない、という場合が少なくありません。
松本 共有名義は、仲のよかった兄弟が仲たがいするもとですね。
(中略)
上田 ですから、実家の相続は誰か一人が単独名義で行なうのがいいと思います。一人で相続すれば、誰が責任をもって空き家に対処するか、明確だからです。管理責任はもちろん、売却や賃貸などの活用で得られる利益もその人一人のものになります。ちなみに、売却したお金を分けたい場合には、名義は一人にして売却後にお金を兄弟姉妹で分けることは可能です。
(P141-143/第2章 実家の「空き家問題」はどうすればいいですか?)
本書の構成
全4章。全252頁。
- 第1章 「空き家」ってこんなにお金がかかるとは!
- 第2章 教えて専門家の人!実家の「空き家問題」はどうすればいいですか?
- 第3章 教えて専門家の人!思い出の品はどうしたらいいですか?
- 第4章 教えて専門家の人!先祖のお墓をどうしたらいいですか?
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