パイロットが経験した不安全飛行を報告する「航空安全情報自発報告制度(VOICES)」。
同HPに掲載されている安全対策の提言「令和3年度 提言」には、悪天時に航空管制官の指示に戸惑うパイロットからの報告が記されていた。
航空安全情報自発報告制度(VOICES)「令和3年度 提言」
パイロットが経験した不安全飛行を報告する「航空安全情報自発報告制度(VOICES)」のHPに7月29日、新情報が掲載された。
FEEDBACK「No.2022-01号」だ。羽田新ルートに係る情報は「66. Approach 開始前の一時的なロスコム」だけ。ただし、羽田新ルートに起因するトラブルではない。
じつは3月31日に掲載された安全対策の提言「令和3年度 提言」のほうに重要な情報が掲載されている(次図)。5件の提言のうち1件が羽田新ルートに係る内容なのだ。
以下、紹介する。
悪天時、航空管制官の指示に戸惑うパイロットからの報告
パイロットが余裕を確保できるよう、着陸する滑走路と進入方式の変更につき、事前通知とタイムリーな情報更新方策の検討が提言されている。
【提言2】
羽田空港等複数の滑走路および進入方式を有する空港では、風向などの気象条件や時間帯等によって飛行経路の運用方針が設定されている。
気象条件の変化に伴いイニシャルコンタクトで想定と異なる滑走路が指示され、タスクの重なるアプローチでさらにワークロードが高まったとのVOICES投稿が寄せられている。
事前に余裕のあるエンルートフェーズ等の時期に使用滑走路と進入方式の変更を把握することができれば、操縦士のワークロード低減に有効である。ATIS等のツールを用いた事前通知とタイムリーな情報更新方策の検討を提言する。
※航空路(エンルート)フェーズ(離陸・上昇⇒巡航⇒降下⇒最終降下⇒着陸)
※ATIS(Automatic Terminal Information Service:飛行場情報放送業務)
提言2に係る具体的な事例が3件紹介されているが、特に「例1)突然のILS RWY16?」に注目。
略語が多用されていて門外漢には読みづらいが、悪天時に羽田新ルートへの着陸態勢に入るパイロットが航空管制官の指示に戸惑う様子が描かれていることは理解できる。
まずはザっと読んでみてほしい。( )内は、筆者の補足。
例1)突然のILS RWY16?
羽田のアプローチ方式の変更についてです。
当時私はOBSシート(Observer seat:機長と副操縦士が座る操縦席の後方にある折り畳み席)でした。
当日のHNDのTAF(Terminal aerodrome forecast:飛行場予報)は06Z(午後3時)を境に、梅雨前線通過のため、「北風10kt(5.14 m/s) + Low Ceiling (低雲高)+ SHRA(しゅう雨)」から「強めの南南西風 + Low Ceiling+SHRA」に変化を予報。ただ、降下直前のATISでは、「160/3kt 3,000m FEW002(地上高200ftで全天の1/8~2/8を覆う雲), BKN005(地上高500ftで全天の5/8~7/8を覆う雲)」程度でILS Z RWY34L/Rの運用をしていました。
PF(Pilot Flying)とPM(Pilot Monitoring)は「しばらく34L/Rで運用、南風が強まってきたら22、23になるだろう」という読みのもとで、34L/R、22、23の4種類のILSの準備をしていました。OBSシートの私も「そこまで準備しておけば心配なし」との考えでしたが、STAR(Standard Terminal Arrival Route:標準到着経路)の開始点のPOLIX(茨城県内に設定された飛行経路経路上の地点名)手前(時刻で0545Z前後)で東京アプローチに承認されたのは“Cleared for POLIX R Arrival, Expect ILS RWY16R Approach”ということでした。
コックピット内3人の所感に過ぎませんが、ATC(Air Traffic Controller:管制官)側としては、条件が合えば積極的にILS RWY16L/Rを運用したい、という意図があるような気がしました。もちろん、Tailwind(追い風)下での34アプローチに対する不具合があって急遽RWY CHG(Runway Change:滑走路の変更 )となったのかもしれませんし、G/A(ゴーアラウンド)が発生してRWY CHGということもあります。
しかし、もし予めATC側であるタイミングでのアプローチ方式の変更を予定しているのであれば、事前にATIS(Automatic Terminal Information Seurvice:飛行場情報放送業務)で通報していただくことはできないものでしょうか?例えばロンドンヒースローなどでは定期のRWY CHGについて事前に報じていたと思います。
羽田に関しても“ILS RWY16L/R IN USE FROM 0600z”とか報じていただければ、降下前の忙しい時期に「この風、このVISだとRWY22?16?」という推理ゲームをしなくて済むかと思います。(以下、略)
どのような状況だったのか(イメージ)
どのような状況だったのか、極めて簡単に可視化したのが次図。
コックピット内3人の所感として、たとえ悪天時であっても、「ATCI(管制官)側としては、条件が合えば積極的にILS RWY16L/R(悪天時の羽田新ルート)を運用したい、という意図があるような気がしました」と記録されている。管制官は国交省から羽田新ルートを積極的に使うように指示されているのだろうか。
【追記】令和2年提言への対応状況
「航空安全情報自発報告制度(VOICES)」には、7月の新着情報として「令和2年度提言への対応状況」も掲載されている。
羽田新ルートへの柔軟な運用のための提言として、次のように、「パイロット、航空管制官との継続的な意見交換の実施こと」が掲げられていた。
【1】羽田空港の新飛行経路の柔軟な運用のための提言
- 引き続き、天候状況に応じた柔軟な運用に資する共通認識を持つため、レギュレータ含めたパイロット、航空管制官との継続的な意見交換を実施すること。
この提言に対して、「2020年夏以降、これまで3回の意見交換を実施」したことが報告されている。
パイロットや航空管制官の継続的な意見交換が有益と考え、2020年夏以降、これまで3回の意見交換を実施。課題の共有のみではなく、天候状況に応じた羽田空港の柔軟な滑走路運29用方法についての認識の共有及び共通化がなされている。
今後も、同様の意見交換を継続することが有益であると認識している。(なお、レギュレター(管制安全室)から2回参加を行っている。)
1年間で3回って、少なくないか……。
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