不動産取引時の重要事項説明につき、8月28日から水害リスクの説明が義務化されることになった。どのような内容なのか?
羽田新ルートの説明は未だ義務化されていない……。
水害リスク説明、8月28日から義務化(共同通信記事)
説明を怠った業者に対しては、悪質な場合は業務停止命令などの行政処分を行うという。
水害リスク説明を8月から義務化 住宅購入・入居希望者に
国土交通省は17日、住宅の購入・入居希望者に大雨が降った際の水害リスクを説明することを、8月28日から不動産業者に義務付けると発表した。
(中略)
浸水想定範囲や避難場所が示された市町村のハザードマップで物件の所在地を説明するよう義務付ける。説明を怠った業者に対しては、悪質な場合は業務停止命令などの行政処分を行う。(共同通信 7月17日)
国交省が公表した資料は分かりにくい
国交省は7月17日、「不動産取引時において、水害ハザードマップにおける対象物件の所在地の説明を義務化」を公表。
宅地建物取引業法施行規則の新旧比較表と「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」に係る新旧比較表が掲載されているが、とっても分かりにくい。
今回の同法施行規則の一部改正により、新たに追加された水害リスク説明義務化の具体的内容を以下としている。
- 水防法に基づき作成された水害(洪水・雨水出水・高潮)ハザードマップを提示し、対象物件の概ねの位置を示すこと
- 市町村が配布する印刷物又は市町村のホームページに掲載されているものを印刷したものであって、入手可能な最新のものを使うこと
- ハザードマップ上に記載された避難所について、併せてその位置を示すことが望ましいこと
- 対象物件が浸水想定区域に該当しないことをもって、水害リスクがないと相手方が誤認することのないよう配慮すること
具体的な重要事項説明の様式例は、今回の公表資料とは別に、国交省の「宅地建物取引業法 法令改正・解釈について」のページに「別添3・重要事項説明の様式例」として記されている(次図)。
別添3・重要事項説明の様式例(区分所有建物の売買・交換)5枚目
パブコメに寄せられていた意見
不動産業者に水害ハザードマップによる建物位置の説明義務を課すことは、消費者にとってはいいことだ。でも、不動産業者らは今回の水害リスク説明義務化をすんなり受け入れたのだろうか?
じつは本件に関して、国交省が「宅地建物取引業法施行規則の一部を改正する命令案に関する御意見の募集について」と題してパブコメを実施(5月29日~6月27日)していたことをご存じだろうか。
約1か月間で寄せられた意見は、合計32件(18 の個人と団体)。
水害リスクの説明義務化に賛成する声がある一方で、反対や懸念を示す次のような声もあった。
- ハザードマップは各自治体によってまちまちである。古いまま整備されずに、残っている場合がある。その自治体のハザードマップに沿って宅建業者が重要事項説明する場合、責任は各自治体が負うべきだと考える。宅建業者に責任を押し付けようとする改正には反対である。
⇒(略)当該市区町村が作成した最新のものであることを確認すればよいこととしております。 - (略)情報にリアルタイム性がない等の問題が存在し、行政発行の情報としては信憑性が高いとは言えない部分がある。(略)
⇒水害ハザードマップについては、市区町村に対し「水害ハザードマップ作成の手引き」(平成28年4月)を参考に適切に作成するよう引き続き要請してまいります。 - 宅地などの取引時にハザードマップの説明は歓迎すべきであると考える。ただし行政により整備状況に差がある、10 年近く地図の更新を行っていない、災害時の情報収集が不十分であるなどハザードマップ自体に問題があると思われる。(略)
⇒水害ハザードマップは施設整備の進捗、社会経済状況の変化、浸水想定区域図の見直し等があった場合に必要に応じて検証及び見直しを行うものであり、毎年の更新を想定しているものではありません。
反対・懸念の声に対して、「国土交通省の考え方」は、問題があるとすればハザードマップをキチンと整備していない自治体が悪いと言わんばかりのようにも読み取れるのだが……。
雑感(羽田新ルートの義務化は?)
重説における水害リスクの義務化につき、これまで政府の動きは鈍かった。ところが、19年10月12日に関東地方に上陸した台風19号の甚大な被害を受けてから、政府はようやく重い腰を上げ始めた。
早稲田夕季 衆議院議員(立民)の質問主意書(19年12月2日提出)に対して、政府は「検討を深めてまいりたい」と曖昧な回答。
「法令による義務付けをすみやかに行うべきではないか」とのお尋ねについては、(略)課題を聴取しているところであり、この結果等を踏まえ、検討を深めてまいりたい。
続けざまの嘉田由紀子 参議院議員(無所属)からの質問主意書(19年12月5日提出)に対して、政府は法改正の可能性含みの踏み込んだ回答をした。
課題を聴取しているところであり、この結果等を踏まえ、宅地建物取引業法施行規則(昭和32年建設省令第12号)の改正の必要性も含め、検討を深めてまいりたい。
さらに今年に入って、丸山穂高 衆議院議員(N国党)からの質問主意書(20年2月26日提出)に対して、政府は重説の具体的な内容について検討中であることを明らかにした。
現在、説明の内容、方法等について検討を進めているところである。
そうこうしているうちに、「令和2年7月豪雨」によって、熊本県を中心に九州や中部地方など日本各地で発生した集中豪雨による大規模な水害を目の当たりにして、赤羽国交大臣の尻に火が付いたのか。赤羽国交大臣は7月17日の記者会見で、水害リスクの重説義務化を発表となった。
一方、羽田新ルートの重説は未だ義務化されていない。羽田新ルートを重説に含めるか否かは、業者(不動産協会)任せという、なんとも無責任なのが現在の国交省のスタンスなのである。
- 不動産協会には新ルート空路、騒音など説明済み。最終的に入れるかどうかはそちらの方(不動産協会)で考えること。
- 不動産協会に説明はしているが、その後どういう形で整理しているかは今後(国が)確認する必要がある。
水害リスクのように、落下物・墜落リスクが顕在化しないと、政府は動かないということなのか……。
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