第201回国会(20年1月20日~6月17日)の衆議院の質問主意書106件(3月10日現在)のなかに、78番目として水害ハザードマップに係る次の質問主意書が埋もれている。
丸山穂高 衆議院議員(N国党)が2月26日に提出した質問主意書に対する政府答弁書が公開されたのでひも解いてみた。
読みやすいように、一問一答形式に再構成しておいた。
※以下長文。時間のない方は、「質疑応答のポイント」と文末の「雑感」をお読みいただければと。
- 問1:重要事項説明に当たってはハザードマップが活用されるのか
- 答1:宅地建物取引業者、水害リスクの情報提供を既に行っている
- 問2-1:想定最大規模降雨による浸水想定区域の指定はいつまでに完了?
- 答2-1:令和2年度末までにおおむね完了することを目指
- 問2-2:浸水想定区域の指定、実際に浸水した区域のズレにより漏れていた区域を全て含む?
- 答2-2:法の定める基準及び手続に従い行われる
- 問2-3:簡易的手法ハザードマップの作成、どれ程の効果?
- 答2-3:現時点でお答えすることは困難
- 問2-4:内水ハザードマップの作成はいつまでに完了?
- 答2-4:早期に作成するよう促している
- 問2-5:水害ハザードマップの作成による財政負担が課題
- 答2-5:交付限度額である2分の1の財政的な支援
- 問3:高潮・津波・内水浸水想定区域、不動産取引時の説明義務に含む?
- 答3:宅地建物取引業者、水害リスクの情報提供を既に行っている
- 問4:水害リスクの説明、義務化するまで業者間の格差?
- 答(1、3)4:宅地建物取引業者、水害リスクの情報提供を既に行っている
- 問5:地震についての災害リスク、不動産取引時の重要事項説明に
- 答5:慎重に検討を行う必要がある
- 雑感
丸山穂高 衆議院議員(3期、N国党、元経産官僚、東大経済卒、36歳)
令和元年秋の台風第19号は各地に大規模水害を及ぼし、約9万棟の住宅が被災した。
このような中、令和2年1月27日の衆議院予算委員会において、赤羽国土交通大臣は、不動産業者に対し、水害リスクに係る説明を不動産取引上の重要事項説明として義務付ける方向でしっかり進めていくと答弁し、対策は強化される方向で検討されている。
これまでも不動産取引時の重要事項説明は大規模災害が発生するごとに追加されており、土砂災害警戒区域内、造成宅地防災区域内、津波災害警戒区域内が加わっている。
しかし、水害リスクに関しては、平成27年水防法改正に伴い想定最大規模降雨による浸水リスクに対応して浸水想定区域が指定されることとなったものの、未だ未対応の都道府県がある。
また、水防法に基づく浸水想定区域の指定対象が洪水予報河川及び水位周知河川とされていることから、中小河川においては水害リスクが明らかにされていないものがある。
一方で、浸水想定区域の制度とは別に、都道府県独自の取組として洪水予報河川及び水位周知河川以外の浸水リスクが明らかにされている場合があるなど、地域によって入手可能な水害リスク情報に差異がある。加えて、地震についての災害リスクは重要事項説明に含まれていないなど、災害リスクの説明内容について、課題が残されている。
以上を踏まえ、次の事項について質問する。
問1:重要事項説明に当たってはハザードマップが活用されるのか
水害リスクに係る重要事項説明については、水防法に基づく想定最大規模降雨による浸水リスクに対応するとともに、都道府県独自の取組も含め可能な限り中小河川の浸水リスクに対応する必要があると考える。
政府は「水害リスクに係る説明を不動産取引上の重要事項説明として義務づける」と述べているが、これは想定最大規模降雨に対応した浸水リスクを前提としたものか。
水害リスクに係る重要事項説明はどのような内容を想定しているのか。重要事項説明に当たってはハザードマップが活用されるのか。
答1:宅地建物取引業者、水害リスクの情報提供を既に行っている
(後述)
問2:浸水想定区域及び水害ハザードマップについて
問2-1:想定最大規模降雨による浸水想定区域の指定はいつまでに完了?
都道府県の管理する河川の浸水想定は、洪水浸水想定区域が指定された河川数のうち2割が法律で定める想定最大規模降雨による浸水リスクに対応していない。
そのため、水害リスクに係る重要事項説明として浸水想定区域内であることの説明を義務付けたとしても、一部の区域では説明から漏れかねない。想定最大規模降雨による浸水想定区域の指定はいつまでに完了する見込みか。
また、想定最大規模降雨による浸水想定区域が指定されているにもかかわらず、ハザードマップ作成や修正の遅れが原因となって、都道府県が作成する浸水想定区域図と市町村のハザードマップにおける浸水想定区域図が異なって表示されている事例もあるが、いつまでに解消する見込みか。
答2-1:令和2年度末までにおおむね完了することを目指
水防法(昭和24年法律第193号。以下「法」という。)第14条第1項の規定に基づく都道府県による洪水浸水想定区域(同項に規定する洪水浸水想定区域をいう。以下同じ。)の指定、及び法第15条第3項の規定に基づく洪水浸水想定区域をその区域に含む市区町村による想定最大規模降雨(法第14条第1項に規定する想定最大規模降雨をいう。)に対応した洪水ハザードマップ(以下「洪水ハザードマップ」という。)の作成については、令和2年度末までにおおむね完了することを目指してまいりたい。
問2-2:浸水想定区域の指定、実際に浸水した区域のズレにより漏れていた区域を全て含む?
ここ数年の水害では、水害ハザードマップにおいて浸水を予想した区域と実際に浸水した区域に差が見られた。
想定最大規模降雨による浸水想定区域の指定にあたっては、こうした実際に浸水した区域のズレにより漏れていた区域を全て含むものとなるのか。
答2-2:法の定める基準及び手続に従い行われる
御指摘の「実際に浸水した区域のズレにより漏れていた区域」の意味するところが必ずしも明らかではないが、洪水浸水想定区域の指定は法の定める基準及び手続に従い行われるものと考えている。
問2-3:簡易的手法ハザードマップの作成、どれ程の効果?
都道府県が管理する中小河川には、水防法に基づく浸水想定区域の指定対象外河川が存在する。
国土交通省は、都道府県に対し浸水想定区域の指定対象となる水位周知河川等の指定の拡大を要請するとともに、簡易的な手法によるリスク評価に関する手引きを令和2年5月に改訂し、浸水が想定される範囲の周知を促す予定と聞く。
本年にも台風等による風水害があるかもしれず、改訂されたリスクの評価手法を用いた中小河川のリスク評価を急ぐべきと考えるが、簡易的な手法を用いることにより、ハザードマップの作成にかかる期間や費用等について、どれ程の効果が見込まれるのか。
答2-3:現時点でお答えすることは困難
御指摘の「改訂されたリスクの評価手法を用いた中小河川のリスク評価」の意味するところが必ずしも明らかではないが、国土交通省においては、令和2年1月7日に「中小河川の水害リスク評価に関する技術検討会」を設置し、法第10条第2項、第11条第1項又は第13条第1項若しくは第2項の規定により指定された河川以外の河川が氾濫した場合に浸水が想定される範囲や浸水深を推定するための簡易な手法について検討を進めているところであり、その具体的な内容等について、現時点でお答えすることは困難である。
問2-4:内水ハザードマップの作成はいつまでに完了?
水害ハザードマップの作成対象外自治体が存在している中、内水氾濫が各地で生じていることを受けて、内水ハザードマップの作成を進めるよう全ての都道府県と全ての基礎自治体に通知したと報道されているが、内水ハザードマップの作成はいつまでに完了する見込みか。
答2-4:早期に作成するよう促している
御指摘の「水害ハザードマップの作成対象外自治体」の意味するところが必ずしも明らかではないが、国土交通省においては、全国各地で内水の氾濫が発生していることを受け、都道府県及び政令指定都市に対して、「内水ハザードマップの作成促進について」(令和元年10月28日付け国土交通省水管理・国土保全局下水道部流域管理官付流域下水道計画調整官事務連絡)を発出し、内水の氾濫に対応したハザードマップ(以下「内水ハザードマップ」という。)を作成していない市区町村においては早期に作成するよう促しているところである。
問2-5:水害ハザードマップの作成による財政負担が課題
基礎自治体では水害ハザードマップの作成による財政負担が課題とされる。
水位周知河川等の指定の拡大に伴い新たに作成義務が生じる自治体の増加や内水ハザードマップの作成促進等に対応し、更なる財政支援は行うのか。
社会資本整備総合交付金の効果促進事業に位置付けることにより、自治体の一般財源の負担はどこまで補填されるか。
答2-5:交付限度額である2分の1の財政的な支援
市区町村が洪水ハザードマップ、内水ハザードマップ等の水害ハザードマップを作成する場合、国土交通省においては、社会資本整備総合交付金の効果促進事業として位置付けられた水害ハザードマップの作成を行う事業に係る費用に対し、同交付金の交付限度額である2分の1の財政的な支援を行っており、引き続き同交付金による財政的な支援を行ってまいりたい。
問3:高潮・津波・内水浸水想定区域、不動産取引時の説明義務に含む?
高潮浸水想定区域や津波浸水想定、内水浸水想定区域については、不動産取引時の水害リスクの説明義務に含む予定か。
答3:宅地建物取引業者、水害リスクの情報提供を既に行っている
(後述)
問4:水害リスクの説明、義務化するまで業者間の格差?
不動産取引時の水害リスクの説明義務化について、不動産業者への周知が必要なため、導入時期は未定とされる。
しかしながら、義務化前でも説明する不動産業者がいる一方で、説明をしない不動産業者も存在することとなる。義務化するまでのこうした業者間の格差についてどう対応するのか。
答(1、3)4:宅地建物取引業者、水害リスクの情報提供を既に行っている
御指摘の「水害リスクに係る重要事項説明」については、不動産取引時に水害ハザードマップを提示して水害リスクの情報提供を行うよう令和元年7月26日に協力依頼を行った公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会、公益社団法人全日本不動産協会、一般社団法人全国住宅産業協会、一般社団法人不動産協会及び一般社団法人不動産流通経営協会から聴取した情報提供に際しての課題等も踏まえ、現在、説明の内容、方法等について検討を進めているところである。
また、宅地建物取引業者においては、当該協力依頼に基づく水害リスクの情報提供を既に行っていると認識している。
問5:地震についての災害リスク、不動産取引時の重要事項説明に
地震についての災害リスクは不動産取引時の重要事項説明に含まれていない。
契約者が地震発生のリスクについても認識できるよう、例えば損害保険料率算出機構が定めている地震保険基準料率における建物所在地による区分について、説明すべき重要事項に加えるなどの対策を行うべきではないか。
答5:慎重に検討を行う必要がある
御指摘の「地震についての災害リスク」を「説明すべき重要事項に加えるなどの対策」については、地震発生のリスクの把握の現状等を十分に踏まえた上で、慎重に検討を行う必要があると考える。
雑感
台風19号による武蔵小杉駅周辺のタワーマンション浸水被害を受けて、国交省・経産省は11月27日に「建築物における電気設備の浸水対策のあり方に関する検討会」第1回を開催。その後、第3回(20年2月18日開催)に「建築物における電気設備の浸水対策 ガイドライン(原案)」が公開されている。
水害ハザードマップについては、前の国会(19年10月4日~12月9日)で、衆参の違いはあれ、嘉田由紀子 参議院議員(無所属)が同様の質問主意書を出している。
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