第201回国会(20年1月20日~6月17日)の衆議院の質問主意書247件(6月10日現在)のなかに、212番目として マンション管理組合と個人賠償責任保険係る次の質問主意書が埋もれている。
阿久津幸彦 衆議院議員(立憲民主党)が5月28日に提出した質問主意書に対する政府答弁書が公開されたのでひも解いてみた。
読みやすいように、一問一答形式に再構成しておいた。
※以下長文。時間のない方は、「質疑応答のポイント」と文末の「雑感」をお読みいただければと。
- 問1:管理組合が個人損害賠償保険を締結できる法令上の根拠?
- 問2:管理組合が契約の責務を負うのは共用部分に関する保険であると解すべき
- 答1&2:法第3条、必要な範囲で損害保険契約を締結することができる
- 問3:保険会社、個人賠償責任保険を事情を知らない管理組合に営業
- 問4:同保険の契約はそもそも無効?
- 答3&4:保険契約の有効性、個々の事案に応じて判断されるべき
- 問5:「区分所有法の目的外の事項と解される」とした最高裁の判決がある
- 答5:「最高裁の判決」を特定できないため、お答えすることは困難
- 問6:全国の管理組合で事情を知らず個人賠償責任保険を契約させられている
- 問7:政府が速やかに全保険会社に対し是正処置を講ずるよう指示するべき
- 答6&7:実態を踏まえ、適切に対応してまいりたい
- 雑感
阿久津幸彦 衆議院議員(立憲民主党、4期、ジョージ・ワシントン大学院修了、63歳)
問1:管理組合が個人損害賠償保険を締結できる法令上の根拠?
マンション管理組合が、個人賠償責任保険を契約しているケースが散見されるが、マンション管理組合が、専有部分に関する契約である個人損害賠償保険を締結できる法令上の根拠はあるか、具体的に説明されたい。
問2:管理組合が契約の責務を負うのは共用部分に関する保険であると解すべき
一方、いわゆる区分所有法においてマンション管理組合は共用部分の管理を行うことを基本的任務としている。そして、その第18条において「共用部分につき損害保険契約をすることは、共用部分の管理に関する事項とみなす。」と規定されている。
すなわち、管理組合が契約の責務を負うのは共用部分に関する保険であると解すべきと考えるが、政府の見解を問う。
答1&2:法第3条、必要な範囲で損害保険契約を締結することができる
マンション管理組合(建物の区分所有等に関する法律(昭和37年法律第69号)第3条に規定する団体が、同法第47条第1項の規定による法人である場合にあっては当該法人をいい、同項の規定による法人でない場合にあっては同法第3条に規定する管理者を定めた当該団体をいう。以下同じ。)については、当該法人又は当該団体の管理者は同条に規定する建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うために必要な範囲で損害保険契約を締結することができると解されている。
【筆者メモ】
- 第3条(区分所有者の団体)
区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。一部の区分所有者のみの共用に供されるべきことが明らかな共用部分(以下「一部共用部分」という。)をそれらの区分所有者が管理するときも、同様とする。
問3:保険会社、個人賠償責任保険を事情を知らない管理組合に営業
ところが、保険会社およびその代理店は、専有部分に関わる保険商品である個人賠償責任保険を事情を知らない管理組合に営業を行い、管理組合と契約している事例が見られる。政府はそれを把握しているか。
問4:同保険の契約はそもそも無効?
個人賠償責任保険は専有部分を所有する区分所有者の責任に関わる事故についてマンション内だけでなくマンション外で生じた保険事故もカバーしている。
一方で、この保険がカバーするのは居住者だけである。管理費を払い、保険料も担っている「人に貸している区分所有者」はカバーされない。
平成30年11月22日の参議院法務委員会において、マンション管理組合が個人賠償責任保険を区分所有法上契約できるかどうか小川敏夫参議院議員(現参議院副議長)が質問した。それに対し法務省民事局長は「建物あるいはその敷地等の管理とはおよそ無関係なものである場合には、管理組合のその権限に入ってこない」旨、一般論としてではあるが答弁している。
現在、保険会社の個人賠償保険で「マンション内の行為に限ってそれをカバーする」保険はない。したがって、多くの管理組合を対象にして契約が行われている個人賠償責任保険は管理組合が必ずしも契約する必要のない保険商品であり、その事実を知らせることなく行われている同保険の契約はそもそも無効と考えるが政府の判断はどうか。
答3&4:保険契約の有効性、個々の事案に応じて判断されるべき
マンションの共用部分における火災や水濡れ、破損等の事故を補償するマンション管理組合に係る火災保険契約等については、共用部分において発生した事故の損害賠償責任が居住者にある場合に備えるなど、円滑なマンション管理に資する目的で、居住者等を対象とする個人賠償責任保険が特約として付帯される場合があると承知している。
なお、保険契約の有効性については、関係法令等に基づき、個々の事案に応じて判断されるべきものと考えている。
問5:「区分所有法の目的外の事項と解される」とした最高裁の判決がある
ちなみに管理組合が組合員から徴収する管理費によって町内会費を払っていた事例について「区分所有法の目的外の事項と解される」とした最高裁の判決があるが、それと同様の問題だとの認識はあるか。
答5:「最高裁の判決」を特定できないため、お答えすることは困難
御指摘の「最高裁の判決」を特定できないため、お答えすることは困難である。
【筆者コメント】
- 「最高裁の判決」ではなく、「東京簡裁の判決」であれば、町内会費を徴収することをマンション管理規約等で定めてもその拘束力はないとされた判例がある。
町内会費を徴収することをマンション管理規約等で定めてもその拘束力はないとされた事例|不動産適正取引推進機構
問6:全国の管理組合で事情を知らず個人賠償責任保険を契約させられている
昨今、築年数の古くなったマンションでは当然のように居住者の高齢化が進み、年金生活者が増えている。限られた管理費によってマンションが維持されているにもかかわらず本来契約する必要のない保険料の支払いで貴重なお金が失われている。
全国のマンション管理組合で事情を知らず個人賠償責任保険を契約させられている事例とその契約金の総額を把握しているか。把握していないとすれば早急に保険会社に調査を指示するべきと考えるがどうか。
問7:政府が速やかに全保険会社に対し是正処置を講ずるよう指示するべき
この問題は法律を所管し運用に責任を持っている政府が速やかに全保険会社に対し是正処置を講ずるよう指示するべきであると考えるがどうか。
また、管理組合の錯誤により契約された過去の保険料は速やかに管理組合に返還されるべきものであると考えるがどうか。
答6&7:実態を踏まえ、適切に対応してまいりたい
保険会社及びその代理店におけるマンション管理組合への保険販売については、その実態を踏まえ、適切に対応してまいりたい。
雑感
ジョージ・ワシントン大学院卒の阿久津衆議院議員(4期、立民)からこのような地味な質問主意書が提出されたのは意外だ。比例東北ブロックでの当選だから、マンション管理問題には関心なさそうだが、19年6月4日に立憲民主党東京都第11区(板橋区の一部)支部長に就任したことと関係があるのだろうか。
味気ない質疑応答文章をじっくり読むと、3つの論点があることが分かる。
- マンション管理組合が個人損害賠償保険を締結することは法的に認められているのか?
⇒政府答弁:OK - 個人賠償責任保険は管理組合が必ずしも契約する必要のない保険商品であり、その事実を知らせることなく行われている同保険の契約はそもそも無効ではないか?
⇒政府答弁:個々の事案に応じて判断されるべき - 全国の管理組合で事情を知らず個人賠償責任保険を契約させられている
⇒政府答弁:実態を踏まえ、適切に対応してまいりたい
マンション管理組合が個人損害賠償保険を締結することは、たとえば、個人的に保険に加入していない階上の人が水漏れ事故を起こして階下の人が被害を受ける場合泣き寝入りしなくて済むなどのメリットがあることから、欠かせないものと考える。
ただ、マンションに居住していないオーナーなどの日常生活の事故は対象外だとか、給排水管の老朽化による水漏れはカバーされない可能性があるなど、丁寧な説明が必要だ。
また、マンション管理組合による個人賠償責任保険の扱いが不明瞭なのであれば、政令や指針により明確化することが求められる。
ちなみに、マンション管理組合が「個人賠償責任保険」に入っている割合は5割前後。最近は低下傾向が見られる(次図)。
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