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タワマン文学「息が詰まるようなこの場所で」は、本格社会派小説

メディアで盛んに取り上げられていたので、Twitterアカウント窓際三等兵@nekogal21で知られる外山薫著「息が詰まるようなこの場所で」KADOKAWA(2023/1/30)を読んでみた。

湾岸のローゼスタワーを舞台に、低層階に住むサラリーマン一家、最上階に住む資産家一家、ローゼスタワーの土地で定食屋を営んでいた地権者一家の3家族が交流していく姿が描かれている。

日本テレビ「スッキリ」で2月17日に放送された録画を視聴したところ、「マウント」や「お受験」など、分かりやすく視聴者受けしそうな場面が切り取られていた感が否めない。

実際に本書を読んでみて感じたのは、これは本格社会派小説ではないかということだ。タワマンに住むに至ったそれぞれの人生が深く描かれているのである。

著者は慶大卒の37歳。大手メディアの記者を経て、IT企業に転職。22年から兼業作家として活動を始めたというから、その筆力の高さにも頷ける。

湾岸タワマン暮らしでの苦悩。かなり誇張されている面もあろうが、タワマン購入を検討しようか迷っている方に、おススメしたい1冊。


もくじ

過酷な中学受験

低層階に住むサラリーマン一家。大手・いなほ銀行に勤める平田健太(45)、同じ銀行の一般職さやか(42)、息子の充(11)。

過酷な中学受験に対する健太の思いが描かれているシーン。

充を塾に通わせると決めた5年前から、勉強を見るのはさやかの係だった。小学生の子供を勉強漬けにする中学受験に対して元々良い印象を持っていなかった健太だが、実際に親として体験してみて、その思いは更に強固となった。遊びたい盛りの小学生を机に向かわせる行為自体が親による洗脳であり、特に最近のさやかの入れ込みぶりは、健太からすると虐待にしか見えなかった。


「ここで頑張れば将来の可能性が広がるから」
といくら言われたところで、11歳や12歳の少年が将来の可能性なんてものを理解できているはずがない。健太が小学生の頃を振り返っても、あの頃は自分がサッカー選手になれると信じて疑わなかった。時代こそ違えども、小学生男児なんてそんなものだ。充が好きでもない勉強を一生懸命やっているのも、自分の意思とは関係なく放り込まれた熾烈な受験戦争で結果を出し、母親であるさやかに褒めて欲しいという一心であることは健太にだってわかる。

(P73-74/第2章 夏 平田健太の焦燥)

上には上が…

ローゼスタワーの最上階に住んでいる資産家一家。夫は代々続く医者の家系の長男・高杉徹(47)、妻・綾子(45)、秀才の隆(11)、天才ピアノ少女・玲奈(9)。

湾岸第2小学校開校10周年式典終了後、ローゼスタワーのパーティールームでPTA役員らが懇親するシーン。ローゼスタワーよりもさらに高いシーバスタワーの最上階に住む、米国帰りの瞳に主役の座を奪われる綾子。

「最上階っていっても全然大したことないよ。景色なんて3日で飽きるし、アメリカの家のほうが全然広かったし」

瞳が大袈裟に手を横に振って否定する。毎晩、夜景を見ながらうっとりしている綾子がまるで道化のようだ。頭のてっぺんから爪先まで純日本人のくせに、寿司をスゥシィと言わんばかりの無駄にアメリカナイズされた仕草も憎たらしい。

「え―、今度おうち案内してよ。高杉さんちも凄かっだけど、シーバスのほうがもっと標高高いんでしょ。炊飯器でちゃんとお米炊けるのかなあ」

誰かが無神経な会話を続けている。これではまるで私が引き立て役ではないか。どいつもこいつもタワマンといっても低層階の、ウサギ小屋のような狭い部屋に住んでいるくせに。

「でもアメリカ生活も大変だったでしょう。仕事がある旦那さんはともかく、言葉も違う国で1人っていうのは大変そう」
話題を変えようと、同情するふりをして少し意地悪な質問をぶつけてみる。

(P158/第3章 秋 高杉綾子の煩悶)

本書の構成

全4章、255頁。

  • プロローグ
  • 第1章 春 平田さやかの憂鬱
  • 第2章 夏 平田健太の焦燥
  • 第3章 秋 高杉綾子の煩悶
  • 第4章 冬 高杉徹の決断
  • エピローグ 平田充の発奮

息が詰まるようなこの場所で

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2023年6月1日、このブログ開設から19周年を迎えました (^_^)/
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