日本原子力研究所研究員を経てカリフォルニア大学に留学という異色のキャリアを持つ高嶋哲夫著『首都崩壊』幻冬舎(2015/10/8)を読了。
この小説がほかと違うのは、建物被害や人的被害よりも、世界経済への影響を中心に描かれていること。
本書は、東日本大震災が起きた1年後、2012年3月から8月にかけてダイヤモンドオンラインに連載された内容が加筆・修正されて出版された。小説の中でも、民主党政権時代を連想させるように、首相の名前は能田。
現在とは時代背景が違うとはいえ、首都直下地震の発生確率30年で70%は変わっていないし、日本の財政赤字はさらに悪化し続けている。本書に描かれている首都直下地震発生後(まだ本震は発生していない)の世界を知っておいて損はない。
いずれ米国債の売却を始めるだろう
アメリカ大統領は、とあるレポートを見てつぶやく。
「110兆円、1兆ドル以上の損失か。さらに長期にわたる政治と経済の低迷。アジア経済は直接その影響を受け、ドルの急騰につながる。いや、世界の通貨の急変だ。株価の急落は避けられない。いずれ米国債の売却を始めるだろう。今回ばかりはそれを阻止することはできない。どうなるのか予測さえつかない」
(P6/プロローグ)
中国の投資家が大量にメガバンク株を買っている
主人公は、ハーバードの大学院の留学から戻ったばかりの国交省の若手キャリア官僚の森崎真。
森崎真のハーバード時代の親友ロバート(大統領側近)との会話。
「彼らはすでに日本のメガバンクに手を伸ばしている」
「東友銀行にか」
「東曰本大震災後、中国の投資家が大量に株を買っている」
何度か話題にのぼったことがあるが、話題の域を出なかった。大量といっても、割合としては大したことはないはずだ。
「そこを足掛かりにして、曰本経済を牛耳ろうとしている」
「主要要株主規制という法律がある。金融、防衛関連企業など曰本の安全に関係ある特定企業においては、外国人や外国企業が持つ株式の割合を制限している。外国企業が5%以上の株式を保有すれば、5日以内に銀行議決権保有届出書を提出しなければならない」
「分散して取得すればいい。5社が4.8%の株式を保有すれば、トータル24%だ。
後でその5社を子会社化するか傘下に入れれば、実質的には筆頭株主に躍り出ることもできる」
「中国企業がそれをやっていると言うのか」
「違う。やっているのは中国政府だ」(P231-232/第4章 破綻シミュレーション)
中国政府機関による大規模な情報操作
人民解放軍のサイバー部隊か、あるいは彼らの息のかかったハッカー集団による情報操作が日本を窮地に陥れようとしている。
森崎は翌朝のテレビ放送を見て声を上げそうになった。
地震と富士山噴火の予知情報は完全に独り歩きを始めている。すでに世界中で様々な言語で増殖を続けているのだ。驚いたことにその情報量はすでに数百倍、いやそれ以上に膨れ上がっていた。改めてソーシャル・ネットワークの力と恐ろしさを思った。一国の衰亡を決める力を持っている。
関連情報が加えられ、加工され、過去の地震や火山噴火の動画までもが載っている。そして反論と支持する書き込みが、やはり世界に流れているのだ。敵はすでにタネはまいた。後は勝手に育っていく。ロバートの言葉が脳裏をかすめた。
株価も為替も大きく下がっている。市場は真実よりリスク回避を重んじる。危険を察したネズミの大群のように、リスクを回避するもっとも安易な方向に走り始めている。その先に何が待っていようが関係なしに。(P296/第5章 予知情報)
日本経済の崩壊を回避するために日本政府が取った手段は、・・・。
本書の構成
全381頁。
プロローグ
- 第1章 動き出す世界
- 第2章 崩壊への序曲
- 第3章 タイムリミット
- 第4章 破綻シミュレーション
- 第5章 予知情報
- 第6章 移転プログラム
- 第7章 出発の土地
- エピローグ
『首都崩壊』
あわせて読みたい(本の紹介)