吉田繁治著『臨界点を超える世界経済』ビジネス社(2019/6/19)を読了。
通貨を発行する政府・中央銀行の立場からではなく、通貨を使う国民の立場から書かれた稀有な書。強くお勧めしたい1冊。
ただし、本書を読みこなせるか否かはあなたの金融リテラシの高さ次第……。
特に不動産に言及されている部分をピックアップしておいた。
都心部高層マンションの中華圏の買い、18年11月以降ゼロ
3大都市の都心部高層マンションのおよそ3分の1の中華圏からの買いは、18年11月からほぼゼロに減っているという分析。
リーマン危機のあとの世界バブル株価
(前略)08年以降、日・米・欧・中の四大中央銀行が増発したマネーの約2000兆円は、世界中でこうした投資になって、世界の株価を10年で約3倍のバブル水準に上げています。
世界の不動産価格もリーマン危機前の高い水準に戻っています。
ただし日本では、年0.4%(42万人平均)という人口減があるため、空き家が820万戸(総務省2013年)と多く、不動産全体は上がっていません。しかしこの中でも3大都市の商業地の基準地価はインバウンド消費が3000万人に増えたという理由から、2018年には6%から9%上がっています。この上昇は一時的なものです。古民家を再利用した旅館や民泊が増えているのは、買い手のない空き家が多いからです。3大都市の都心部高層マンションのおよそ3分の1は中華圏からの買いでしたが、18年11月から、これがほぼゼロに減っています。(P53/第1章 中世の偽金づくりに似たペーパーマネーの変遷)
東京都も2025年から人口減、不動産価格は下落トレンドに
地価が上がっている東京都が2025年から人口減にはいったとき、不動産価格と賃貸料は下落トレンドに入ると分析している。
今後の日本の長期の土地価格
現在の日本は人口減が確定しているので、将来への期待で買われる地価は、需要と供給の基礎条件からは上がりません。2050年までの人口減は今年より大きくなることも確定しているからです(1億2600万人→1億人:2050年)。
(中略)
人口動態が横ばいになるのは、平成生まれのひとが70歳を超えるころです。
人口の増加がない都市では、土地への需要は増えません。ただし人口密度が高まる、ごくすくない都市の都心部(束京や福岡)は別です。狭い土地の高層マンションは土地の利用価値を上げる仕組みです。ケインズがいった「流動性の罠におちいった、過剰な現金志向の金融」から、すこしは上がっても(数%)、2年あとから平均の不動産価格は下げるでしょう。
もっとも地価が上がっている東京都が2025年から人口減にはいったとき、不動産価格と賃貸料は下落トレンドにはいります。(以下略)(P272-273/第6章 FRBが反ゴールドキャンペーンを行った26年)
※金融政策では、住宅需要を前倒しすることはできても、底上げすることはできないことを、日本銀行金融研究所所長などを歴任した翁邦雄氏も指摘している。
⇒「金融政策では、住宅需要を底上げできない」
東京都の人口、2060年までは年率0.56%減
東京都は、2025年に1398万人でピークアウト。2060年までは年率で0.56%減(7万人:3.5万世帯分)。
日本の株価上昇と不動産
2015年には、11年と比較して50%の円安(1ドル120円)になります。この円安によって為替差益が増えた海外生産と輸出企業が多い東証1部の株価指数が、米国並みに3倍に上がっても、不動産の価格は横ばいだった国が日本です。
原因は、人口が1年に0.4%(50万人)減っているからです。人口が減ると住むのに必要な住宅の戸数と総面積がすくなくなるので、東京圏以外では空き家が増えています。(中略)まだ人口が増えている東京都は、2025年に1398万人でピークアウトし、おだやかに減り始めます。2060年までは年率で0.56%減(7万人:3.5万世帯分)と、19年の日本全体の減りかたとおなじレベルに上がります(東京都による予測:2015年)。
(P330-331/第7章 中央銀行のマネー増発と金融資産の高騰)
本書の構成
全8章。全395頁。
- 第1章 中世の偽金づくりに似たペーパーマネーの変遷
- 第2章 中央銀行の負債であるペーパーマネー
- 第3章 財政破産を先送りし、円安と貧困を招いた異次元緩和
- 第4章 中央銀行設立から見る米ドル基軸通貨への展開
- 第5章 独立戦争、FRB創設、ブレトンウッズ協定までの米ドル
- 第6章 FRBが反ゴールドキャンペーンを行った26年
- 第7章 中央銀行のマネー増発と金融資産の高騰
- 第8章 中国は問題解決のため新人民元創設に向かう
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