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羽田新ルート|国交省の高度引き上げ策、元日本航空機長の指摘

国交省は7月30日、都と地元自治体に羽田新ルート来年3月開始の考えを伝えた。今回新たに示されたのが騒音対策としての都心上空での「飛行高度」の引き上げ。
滑走路への進入角度を3.5度に変更することがどのくらい大変なことなのか? 元日本航空機長の指摘を整理しておいた。


もくじ

国交省が騒音対策として「飛行高度」引き上げ提示(NHK)

国交省は7月30日、都と地元自治体に羽田新ルート来年3月開始の考えを伝えた。今回新たに示されたのが騒音対策としての都心上空での「飛行高度」の引き上げ。「飛行高度」の引き上げについては、パイロットの負担が大きくなると指摘をする現役パイロットがいるという。

羽田新ルート来年3月開始の考え

羽田空港の国際便を増やすため、都心上空を通過する新たな飛行ルートについて、国土交通省は、30日、運航を来年3月から開始したいという考えを東京都と地元自治体に伝えました
(中略)
今回、示された騒音対策のひとつが、都心上空での「飛行高度」の引き上げです。
通常、旅客機が滑走路に進入する角度は「3度」に設定されていますが、今回示された案では気象条件が南風で好天時であればそれを「3.5度」に変更するとしています。
これによって、空港に近い地域を中心に飛行高度を今の計画より引き上げることができるとしています。

国の試算では、品川区の大井町駅付近では高度およそ300メートルから最大でおよそ330メートルに恵比寿駅と広尾駅付近は高度およそ600メートルが最大で690メートル、新宿駅と中野新橋駅付近ではそれぞれ高度およそ900メートルから最大でおよそ1020メートル、中野駅付近では高度およそ1020メートルから最大でおよそ1140メートルなどに引き上げられる見通しです。
これによって国土交通省は騒音をさらに軽減できると説明しています。
(中略)
さらに、滑走路への進入角度を3.5度に変更することについては、パイロットの負担が大きくなると指摘をする現役パイロットもいます。(以下略)

(首都圏 NEWS WEB 7月30日)

元日本航空機長の指摘

滑走路への進入角度を3.5度に変更することがどのくらい大変なことなのか?

7月19日(金)夕刻、大井町きゅりあんで開催された『都心低空飛行問題シンポジウム』の基調講演での杉江弘氏(元日本航空機長)の話を振り返ってみよう。

杉江弘氏(元JAL機長)基調講演
都心低空飛行問題シンポジウム - YouTubeより

降下角度が0.5度上がると、パイロットから見たら急降下

次に騒音の問題いきます。
これは、当面の1番の焦点です。この問題は。ようするにいま、国土交通省は真剣にこの問題をどうクリアするかを考えています。いま考えている、(国交省は)具体的にまだ何も出さないんで、これは私のネットワーク(人脈)とその経験からくる話なんで、まだ明らかに国交省は言ってませんが、こういう可能性があるということで聞いてください。

騒音をできるだけ防ぐために、(国交省は)何をいま考えているかというと、飛行機の、8月に設置するんですけど、ILS(計器着陸装置)という電波による誘導施設があるんですが、その時の降下角を通常は3度、3度の角度で飛行機は降りてくる。

3度というのは角度でいうとすごい緩やかに見えますが、ところが20対1なんです。20に対して1。実際、パイロットから見ると緩やかじゃなくて、かなりの急角度で降りてきます。パイロットから見ると、3度というのは、こういう状態でもって(降りて)くるんです。この角度を規定上は2.5度から3.5度まで認められてるんですけど、それを「3.5にしようじゃないか」という話が(国交省の)なかで検討されている

じゃぁ世界の空港は、ほとんどは3度です。たまにフランクフルトのように3.2度というのがありますけど、ほとんど3度。そこでもって0.2度、たとえば3度から0.2、0.3。皆さんは0.3、0.4なんて大したことないって思われますよね。

ところが全然違うんです。これはもう0.5なんか上がっちゃうと、もうパイロットから見たら急降下です。ものすごい変化です。そういうことすると実際問題、飛行機は急降下していかないといけない。

パイロットの意見も聞かないで、役人は作図

それから(国交省が検討している)もう一つは、スピードをできるだけ空港近くまで速い速度で引っ張って、まぁいま羽田の場合は5マイル、約9キロ空港から。そこまで引っ張って160ノットという早い速度で、そこから速度を落としてくださいということを羽田ではやっています。

おそらくそれを羽田(新ルート)ではやるんでしょう。ひょっとしたら4マイル短くするかもしれない。

もう一つは、成田空港でやってるのは、空港から4マイル、7キロまで接近したとこで初めて最終的なフラップを下ろしましょう。フラップというのは減速装置です。それを最終的に下ろすと、こういうことをやっています。

ですから急角度の電波による誘導と、スピードはできるだけ最後まで持ってくることと、それからフラップをギリギリまで下ろさない。こういうことによって何が起こるかというと、エンジンの出力をできるだけ抑えることができるんです。そのことによって騒音対策になる

3.5の降下角で持つと大井町のこの辺でも、もう少し地面から高いところを飛行機が飛ぶことになる。こういうことを事務方の役人の人たちは作図をしているんです。実際パイロットの意見も聞かないでですね。まぁそういう状況なんです。

じゃぁ実際このことをやるとどういう問題が起こるかというと、航空機というのは、プロペラ機の場合はこうやってもってきて(降りてきて)、エンジンをアイドルにもってきて、最後にヒューってやれば(機首をあげればうまく)いくんですが、ジェット旅客機というのは飛行機が機種を上げてこういうふうに下りてくるんです。

これ飛行機の翼型とかいろんな目的とか、いろんなことが問題なってるんですが、機首を上げながらエンジンをパワーを、エンジンを吹かしながらこうやって下りてくるんです。これがジェット機の特徴です。

だからエンジンのスラストを引いてやってくると、とんでもない着陸になるんです。これを覚えておいてください。

現状と国交省検討案(イメージ)

安全ポリシーと矛盾する国交省案

それでいま、日本ではどういうことをやっているかというと、「スタビライズド・アプローチ」。これは日本語に訳すと、安定的な進入着陸方式ということをやっています。これ日本と米国だけ。ほかの国はやってません。

これはいま言いました通り、飛行機が地上から300m、ちょうど大井町上空、この最終地点に来たときに、規定の降下率、あまり急降下だとまともな着陸ができない。それで、速度が規定の範囲に入っている。もう一つはエンジンのパワーが、エンジンの出力が規定通り入っていることが条件なんです。それが安定するんです。分かりますよね。

だからここで音を下げようと思ってエンジンを引いてるとこの(スタビライズド・アプローチの)ポリシーに反する

それで急角度に持ってくると、どうなるかというと、パイロットは最後にこう持ってきて、ここでヒューっていう、フレアという飛行機を降下率を下げる操作をするんですけど、これが非常に難しい
こうやってくるよりも、こうやってきた方が、高いところからこう持ってきて着陸しなきゃいけない。非常に技術的に難しいんです

こういうことをやると、うまくいけばあたりですけど、ほとんどの場合は、速度が速くて、急角度で持ってくると飛行機はバウンドします。バウンドしてそのままやり直せばいいんですけど、また着陸をやろうとします。

そうすると、この間のロシア航空の炎上事故みたいになります。だから、ロシアの飛行機が炎上したのは急角度で速度が早かったためにバウンドして、それでまた次に着地しようとして炎上し、お尻から。41人も亡くなりました。

ロシアは、日本やアメリカのようにスタビライズド・アプローチという基本的な原則があれば、ああいう事故は起こらない。残念ながら、(スタビライズド・アプローチを)やっているのは日本とアメリカだけなんです。

このスタビライズド・アプローチという基本的な概念。これはいまの日本の航空会社すべての航空会社はこれでやってます。ちょっと自慢話ですけど、このポリシーを考案して導入したのは私です。(会場拍手)。

結果的に日本航空も御巣鷹山事故から、着陸事故は1回もやってません。これまでどういうことかというと、地上から300m行って、それでいま言ったように4つくらいの条件に1つでも入ってなかったらもう着陸はやめてゴーアラウンドする。もう一回頭を冷やして考え直して、もう一回着陸するか、ほかの空港に行くかというポリシーなんです

だから条件が4つ揃った時に初めて、滑走路まで行っていいよという考え方なんです。ですから皆さん、飛行機に最近乗ると、飛行機というのはしょっちゅうゴーアラウンドしてやり直します。これは慎重になっているためです。

昔は横風が強い、視程が悪い、管制官が(進入角度を)非常に高く間違って誘導する。それでもこうやって降りたら「あのパイロットはすごい優秀だ」という時代があったんです。
私は、それをずっと見てて、かなりやばい、危険なことがいっぱいあったんです。それで、私が安全推進部に入った時に、これなんとしても止めさせようとしてこのスタビライズド・アプローチを私は考案して導入したんです。

当時は機長の人もみんな、「杉江さん、あまり細かいこと言わないでよ」「お山の大将で、我々に任しといてよ」。地上の職員の人は「航空局と国土交通省とでマニアルの改訂作業大変だから、もう余計なことはしないでくれ」とみんなから反対を受けました。そこを私は1年かけて毎月、各部長、副長に参加してもらって、1年かけて議論してこのポリシーを決めました。

それが全日空にいって、JALにいって、国土交通省も「それは良い」と言って、いま日本のLCCも全部それでやっています。ちょっとアレですけど、国土交通省というのは、こういうポリシーを、自分が外国の国際会議に行って、「これはいいな。日本の航空会社もこれをやりなさい」と1回も言ったことがない。全部JALから言っているんです。JAL、私たちがやって、それを国土交通省の役人の人が「ああこれは良い」と言って。そんなこと分かる人がいないんです、国土交通省に。これが実態なんです
ですからこのスタビライズド・アプローチというものを非常に大事なことです。

話を戻しますけども、さっき言いました通り、国土交通省は今いろんなことを考えてます。

そうすると300mのところでスタビライズド・アプローチというのは、フラップをフルに下げて、エンジンをいっぱい吹かせて、もう安定した状況に持ってこなきゃいけない。それと急角度と速度を早めて、フラップを最後までやるということが矛盾するんです。矛盾しちゃうんです。私がこのスタビライズド・アプローチというものを導入してなかったら、どうということないんですよ。滑走路に着くまでになんとかすりゃあいいんですから。そこがいま、役人の人が頭悩ませているんです。

雑感(騒音低減策が航空機事故リスクを高める…)

飛行経験が豊富な杉江弘氏(元日本航空機長)の話を聞くと、国交省が今回提示した騒音低減策が航空機事故のリスクを高める可能性があることに懸念を抱かざるを得なくなる。

パイロットの意見も聞かないで、事務方の役人が作図している姿は、イージスアショア導入ありきでいい加減な作図をしていた防衛省の役人との姿が重なる。

そこまでリスクを冒して飛行高度を高めても、大井町駅付近で+30m、恵比寿駅・広尾駅付近で+90m、中野駅付近で+120mでは、たいした騒音低減効果は期待できないのではないか。

 

大変不幸なことではあるが、将来、このブログ記事にアクセスが集中することがあるとすれば、羽田新ルートで航空機事故が起きた時なのかもしれない。あのとき杉江弘氏(元日本航空機長)が指摘していたのはこういうことだったのかと。

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2020年6月1日、このブログ開設から16周年を迎えました (^_^)/
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