品川区長選挙(投開票日18年9月30日)の結果や新宿区長選挙(投開票日18年11月11日)の結果から得られた教訓として、対立候補は大物著名人でない限り、野党統一候補であることは最低限の条件。そのうえで確実に無党派層を取り込める公約を掲げることが必須であることが分かった。
19年4月の統一地方選挙では、羽田新ルートが通過する区のうち、次の7つの区長が改選となる。
- 江東/大田/渋谷/豊島/北/板橋/江戸川
羽田新ルート反対を公約に掲げることは、どの程度有効なのか。
渋谷区の長谷部健区長(46)は18年11月28日、再選を目指して出馬を表明。現職長谷部健氏(羽田新ルート賛成)に挑む対立候補に勝算はあるのか、シミュレーションしてみた。
※【追記3月26日】渋谷民主商工会の常任理事、大井一雄氏(65)が3月25日、無所属で出馬すると明らかにした。共産党の推薦を受ける。
過去3回の区長選勝者の得票数は2.5~2.8万票
何票取れば区長選を制することができるのか? まず、過去3回の区長選挙の結果を可視化してみよう(次図)。
現区長の長谷部氏は前回選挙(1期目)で、村上英子氏(自公推薦)と矢部一氏(民主・維新・社民・生活の推薦、共産党の支援)を抑えて初当選。前区長の桑原敏武氏(自公推薦)は、2期・3期とも矢部一氏に競り勝っている。
過去3回の区長選は投票率40~41%、当選者の得票数は2.5~2.8万票の水準。したがって、投票率が従前並みであれば、得票数3万票あれば当選することができる。
19年4月の統一地方選挙の投票率が従前並みであれば、自公の推薦を受けただけでは当選が確実になるわけではない。なぜならば、過去3回の渋谷区議会議員選挙の自公の得票率は毎回4割程度だからだ(次図)。
前回の区長選で自公推薦を受けた村上氏が負けたのは、長谷部氏が無党派層と自公層の一部の取り込みに成功したため。
羽田新ルートに「賛成」している(後述)現区長がどの党の推薦を受けるのかは不明だが(18年12月3日現在)、羽田新ルート「反対」を掲げる対立候補が現区長に勝つには、野党票と無党派層の票を取り込むことが必須となる。
「羽田新ルート反対」区長誕生の可能性
現区長の長谷部健氏は羽田新ルート賛成派。
羽田空港の機能強化についてですけれども、羽田の機能強化がされるということについては、従前から申し上げている通り、まぁ賛成という、まぁ賛成というかですね、まぁそういうことだというふうに考えております。
対立候補は羽田新ルート反対を公約に掲げ、羽田新ルート周辺の有権者の票を取り込むことができれば勝つことが可能だ。
筆者の独自調査(詳細は後述)によれば、渋谷区内の羽田新ルート500m範囲の現在の有権者数は10万人。過去3回の区長選勝者の得票数は2.5~2.8万票の水準だから、羽田新ルート下有権者の3割(3万人)の票が得られれば当選する可能性が高くなる(次図)。
羽田新ルート周辺の有権者数10万人(推定)
羽田新ルート周辺の有権者数を推定する。
結論を先にいえば、羽田新ルート500m範囲の現在の有権者数は10万人(推定)である。
以下、10万人を推定した手順を記しているので、時間がない方は次の見出し「羽田新ルート周辺の有権者数10万人にアピールできるか…」まで読み飛ばしていただいても構わない。
渋谷区民5割(12万人)が騒音の影響を受けることについては、先日このブログで紹介した。
※ピンク色のエリアは、羽田新ルート直下から水平距離で500mの範囲を示している。
「渋谷区民5割(12万人)」という数字は、15年10月1日時点の国勢調査のメッシュ・データ(250mメッシュ)がもとになっている。
では、19年4月の統一地方選挙時点での、有権者数のうち何人くらいが羽田新ルートの影響を受けるのか?
15年国勢調査のメッシュデータには、総人口のほか、「20歳以上人口総数」と「外国人人口総数」も公開されている。ただ、残念ながら18歳以上の人口総数までは分からない。
そこでまず、「総人口」に占める「外国人人口総数」の割合を計算し、「20歳以上人口総数」から「外国人人口総数」の割合を差し引いたデータを「有権者数」として、羽田新ルート500m範囲のメッシュデータを集計した(次表)。
羽田新ルート500m範囲には、15年の国勢調査時点で渋谷区全有権者数の55%(9.7万人)が住んでいることが確認できた。
では、現時点では、羽田新ルート500m範囲には何人くらい住んでいるのか? 15年の国勢調査時点9.7万人をベースに、その後の人口増と選挙権が18歳まで拡大されたぶんを補正してみよう。
補正に用いたのは、都HPで公開されている住民基本台帳人口のデータ。
最新データ(17年10月1日現在)で補正した結果、羽田新ルート500m範囲の現在の有権者数は10万人となった(次表)。
※四捨五入の関係で端数は合わない
上表の推定根拠は次のとおり。
【羽田新ルート500m範囲の有権者10万人の推定根拠】
現在の羽田新ルート500m範囲の有権者数=2015年の羽田新ルート500m範囲の有権者数×人口割増(18年10月1日/15年10月1日)×18歳割増(選挙権拡大ぶん)
9.7万人×1.033×1.013=10.2万人
- 人口割増:1.033=226,710人÷219,543人
- 18歳割増:1.013=1+2,375人(18年10月1日18~19歳)÷184,725人(同18歳以上)
羽田新ルート周辺の有権者数10万人にアピールできるか…
「羽田新ルート反対」を掲げて対立候補が当選するためには、羽田新ルート周辺に住んでいる有権者10万人の投票率を上げ、できるだけ多くの反対票を投じてもらうことが鍵となる。
羽田新ルート周辺の有権者が住んでいる地区は具体的にどこなのか?
渋谷区の町丁目レベルの行政境界マップに羽田新ルートを重ねたのが次図。
※図中の小さな文字は町丁目名を示している。
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上図をもとに、羽田新ルートが通過する地区(合計27地区)を以下に示す。
- 【A滑走路到着ルート】
恵比寿南2丁目、恵比寿西1丁目、恵比寿西2丁目、代官山町、猿楽町、鴬谷町、桜丘町、道玄坂1丁目、道玄坂2丁目、神山町、宇田川町、富ケ谷1丁目、元代々木町、初台1丁目、初台2丁目、本町1丁目、本町2丁目、本町4丁目、代々木5丁目 - 【C滑走路到着ルート】
千駄ケ谷1丁目、千駄ケ谷2丁目、千駄ケ谷3丁目、千駄ケ谷4丁目、千駄ケ谷5丁目、神宮前2丁目、神宮前3丁目
羽田新ルート周辺の有権者10万人に投票所まで足を運んでもらうためには、やみくもに「羽田新ルート反対」を叫ぶのではなく――
羽田新ルートの影響を受ける地区(26か所)を重点的に攻めるとか、「みなとの空を守る会」が港区の新ルート周辺の住民を対象に配布している「アンケート」(下図)にならうとか、的を絞った戦略が求められる。
※本試算には慎重を期しているが、データの精度について保証するものではない。これらの情報をあなたが利用することによって生ずるいかなる損害に対しても一切責任を負うものではない。念のため。
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