品川区長選挙(投開票日9月30日)の結果や新宿区長選挙(投開票日11月11日)から得られた教訓から、対立候補は大物著名人でない限り、野党統一候補であることは最低限の条件。そのうえで確実に無党派層を取り込める公約を掲げることが必須であることが分かった。
来年4月の統一地方選挙では、羽田新ルートが通過する区のうち、次の7つの区長が改選となる。
- 江東/大田/渋谷/豊島/北/板橋/江戸川
羽田新ルートを公約に掲げることは、どの程度有効なのか。
板橋区の坂本健区長(58)は9月25日、4選を目指して出馬表明している。自公の固い組織票に支えられた現職に挑む対立候補に勝算はあるのか、シミュレーションしてみた。
※対立候補は未定(11月13日現在)。
現状では現職(羽田新ルート容認派)有利
まず、過去3回の区長選挙の結果を可視化(次図)。
1期目は3者(自公、民・社・国、共産)の争いで、坂本氏の得票率は57%。2・3期目は対立候補が共産1名となったため、坂本氏の得票率は72%、76%と伸ばしている。
来年4月の統一地方選挙の投票率が従前並みであれば、自公の推薦を受ける現職が再選される可能性は高い。なぜならば、過去3回の板橋区議会議員選挙の自公の得票率は毎回5割を超えているからだ(次図)。
逆に言えば、対立候補が現区長に勝つためには、野党統一候補を立てたうえで、無党派層を取り込むことが必須となる。
「羽田新ルート撤回」区長誕生の可能性
現区長の坂本健氏は羽田新ルート容認派。
羽田空港の機能強化につきましては、2020年開催の東京オリンピック・パラリンピック競技大会や、その後の航空需要を見据えた場合、羽田空港の機能強化は必要であると考えます。機能強化に伴う新ルートにつきましては、今後も国に対して、区民への丁寧な情報提供を、機会を捉えて要望してまいりたいと考えております。
野党統一候補は羽田新ルート撤回を公約に掲げ、羽田新ルート周辺の有権者の票を取り込むことができれば勝つことが可能だ。
筆者の独自調査(詳細は後述)によれば、板橋区内の羽田新ルート500m範囲の現在の有権者数は14.4万人。このうちの5割の票が得られれば7.2万人。これに野党7万票(従前並み)を加えると14.2万票となるので、坂本氏2期目得票数136,795票、3期目の得票数139,944票を上回ることができる(次図)。
羽田新ルート周辺の有権者数14万人(推定)
羽田新ルート周辺の有権者数を推定する。
結論を先にいえば、羽田新ルート500m範囲の現在の有権者数は14.4万人という推定結果となった。
以下、14.4万人を推定した手順を記しているので、時間がない方は次の見出し「羽田新ルート周辺の有権者数14万人にアピールできるか…」まで読み飛ばしていただいても構わない。
板橋区民3割(17万人)が騒音の影響を受けることについては、先日このブログで紹介した。
「羽田新ルート|板橋区民3割が騒音の影響 」より
※ピンク色のエリアは、羽田新ルート直下から水平距離で500mの範囲を示している。
「板橋区民3割(17万人)」という数字は、15年10月1日時点の国勢調査のメッシュ・データ(250mメッシュ)がもとになっている。
では、来年4月の統一地方選挙時点での、有権者数のうち何人くらいが羽田新ルートの影響を受けるのか?
15年国勢調査のメッシュデータには、総人口のほか、「20歳以上人口総数」と「外国人人口総数」も公開されている。ただ、残念ながら18歳以上の人口総数までは分からない。
そこでまず、「総人口」に占める「外国人人口総数」の割合を計算し、「20歳以上人口総数」から「外国人人口総数」の割合を差し引いたデータを「有権者数」として、羽田新ルート500m範囲のメッシュデータを集計した(次表)。
羽田新ルート500m範囲には、15年の国勢調査時点で板橋区全有権者数の3割(13.7万人)が住んでいることが確認できた。では、現時点では、羽田新ルート500m範囲には何人くらい住んでいるのか?
15年の国勢調査時点13.7万人をベースに、その後の人口増と選挙権が18歳まで拡大されたぶんを補正してみよう。補正に用いたのは、板橋区HPで公開されている住民基本台帳人口のデータ。
最新データ(18年10月1日現在)で補正した結果、羽田新ルート500m範囲の現在の有権者数は14.4万人となった(次表)。
上表の推定根拠は次のとおり。
【羽田新ルート500m範囲の有権者14.4万人の推定根拠】
現在の羽田新ルート500m範囲の有権者数=2015年の羽田新ルート500m範囲の有権者数×人口割増(18年10月1日/15年10月1日)×18歳割増(選挙権拡大ぶん)
13.7万人×1.029×1.021=14.4万人
- 人口割増:1.029=565,782人÷549,571人
- 18歳割増:1.021=1+9,929人(18年10月1日18~19歳)÷491,653人(同18歳以上)
羽田新ルート周辺の有権者数14万人にアピールできるか…
「羽田新ルート撤回」を掲げて野党統一候補が当選するためには、羽田新ルート周辺に住んでいる有権者14万人の投票率を上げ、できるだけ多くの反対票を投じてもらうことが鍵となる。
羽田新ルート周辺の有権者が住んでいる地区は具体的にどこなのか?
板橋区の町丁目レベルの行政境界マップに羽田新ルートを重ねたのが次図。
※図中の小さな文字は町丁目名を示している。
クリックすると拡大版(PDF399KB)が開く
上図をもとに、羽田新ルートが通過する地区(合計27地区)を以下に示す。
- 【A滑走路到着ルート】
成増1丁目、成増2丁目、成増3丁目、成増4丁目、成増5丁目 - 【C滑走路到着ルート】
(好天時)
向原1丁目、向原2丁目、向原3丁目、常盤台1丁目、常盤台2丁目、南常盤台1丁目、大原町、志村1丁目、小豆沢1丁目、小豆沢2丁目、蓮根1丁目、蓮根2丁目、前野町1丁目、前野町3丁目、東山町
(悪天時)
赤塚3丁目、赤塚新町2丁目、赤塚新町3丁目、成増2丁目、成増3丁目、成増4丁目、成増5丁目
羽田新ルート周辺の有権者14万人に投票所まで足を運んでもらうためには、やみくもに「羽田新ルート撤回」を叫ぶのではなく――
羽田新ルートの影響を受ける地区(27か所)を重点的に攻めるとか、「みなとの空を守る会」が港区の新ルート周辺の住民を対象に配布している「アンケート」(下図)にならうとか、的を絞った戦略が求められる。
※本試算には慎重を期しているが、データの精度について保証するものではない。これらの情報をあなたが利用することによって生ずるいかなる損害に対しても一切責任を負うものではない。念のため。