マスコミが「好不調の分かれ目の70%」という表現を使って、新築マンションの売れ行き具合を報じているケースが散見される。
「好不調の分かれ目の70%」という表現は適切なのか?
- 新築マンション 契約率70%割れ(日経記事)
- 新築マンションの「契約率」とは
- 8万戸時代80%、4万戸時代は80%から65%に低下…
- 契約率から垣間見える首都圏マンション市場動向
- 「契約率70%」では分からない「負のスパイラル状態」
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新築マンション 契約率70%割れ(日経記事)
首都圏で売り出された17年度の新築マンションの月初契約率は平均68.8%。好不調の分かれ目の70%を下回ったという。
新築マンション 契約率70%割れ、17年度首都圏
不動産経済研究所(東京・新宿)が16日発表したマンション市場動向調査によると、首都圏で2017年度に売り出された新築マンションの初月契約率は平均68.8%と好不調の分かれ目の70%を下回った。発売戸数は16年度比1.1%増の3万6837戸と4年ぶりに前年度を上回ったが、価格の高止まりが重荷になった。(以下略)
(日経新聞 4月16日)
不動産経済研究所は毎月中旬、首都圏の新築マンション市場動向を発表している。同発表を受けてマスコミが「好不調の分かれ目の70%」という表現を使って、新築マンションの売れ行き具合を報じているケースが散見される。
「好不調の分かれ目の70%」という表現は適切なのか?
新築マンションの「契約率」とは
まずは、「契約率」の定義の確認。
たとえば、不動産経済研究所が5月21日に発表した「首都圏のマンション市場動向(2018年4月度)」には、「新規物件特性分析」として18年4月末現在の情報が次のように記されている。
1.対象物件…… 172物件
1.発売戸数…… 2,342戸
1.売却戸数…… 1,475戸(契約率63.0%)
(以下省略)
上記から、契約率63.0%は、4月に発売された172物件に対して、「売却戸数1,475戸÷発売戸数2,342戸×100」により算出されていることが確認できる。つまり、契約率とは当該月に発売された戸数のうち当該月末までに売却された戸数の割合であると解することができる。
契約率の意味が分かったところで、次に首都圏の新築マンションの発売戸数と契約率の推移を見てみよう。
8万戸時代80%、4万戸時代は80%から65%に低下…
住宅金融普及協会が毎年発刊している「ポケット住宅データ」には、「首都圏マンション市場」の発売戸数と契約率の年度ごとのデータが掲載されている(次表)。
同データを可視化したのが次のグラフ。
06年度を境に、年間の発売戸数が8万戸の時代と、4万戸の時代に2分されているように見える。
この二つの時代の契約率をザックリ比べると、8万戸時代には80%前後であるのに対して、4万戸時代は80%から65%に低下している。
(17年度データは不動産経済研究所が18年4月16日に発表した「首都圏マンション市場動向 2017年度」による)
契約率から垣間見える首都圏マンション市場動向
もう少し詳しく見るために、横軸を発売戸数、縦軸を契約率にして描いたのが次図。
- (1) リーマンショック前
00年(9.5万戸、79.5%)から08年(4万戸、64.1%)にかけて、発売戸数が半減し、契約率が最低を記録する。 - (2) 消費税増税前
08年(4万戸、64.1%)から13年(5.5万戸、79.8%)にかけて、リーマンショックの影響を脱して、発売戸数は5.5万戸まで回復し、契約率も00年の水準まで戻している。 - (3) アベノミクス
13年(5.5万戸、79.8%)から17年(3.7万戸、68.8%)にかけて、発売戸数は4万戸を割り込み、契約率も70%を割り込む。
「契約率70%」では分からない「負のスパイラル状態」
00年以降の発売戸数と契約率の推移をさらに模式的に描いたのが次図。
「契約率70%が好不調の分かれ目」というよりは、70%を割り込まないように発売戸数が減少することで市場が調整されているように見えないか。
契約率70%といっても、8万戸時代と4万戸時代とではその数字の持つ意味が違う。
契約率の分子(売却戸数)と分母(発売戸数)の間には、強い従属関係がある。売却戸数(分子)が減少してくる(売れ行きが悪くなる)と、供給量に下方修正圧力が働き、発売戸数(分母)も減少してくるのである。
契約率という数値だけでは、負のスパイラル状態は分からないのである。