「オリンパス巨額粉飾事件」で逮捕された著者がモーレツ時代と「事件の真相」を実名で描いた『野村證券第2事業法人部』講談社( 2017/2/22)を読了。
モーレツ時代のエピソードはどれも読みごたえがあるのだが、「ウォーターフロント」と野村不動産のPROUDに触れている部分を紹介しよう。あと、検察の横暴と。
日本企業の窮地を救った「トリプルメリット」「ウォーターフロント」
1985年の「プラザ合意」の円高によって、日本のメーカーはかなりのダメージを被った。窮地から日本企業を救ったのは、野村證券が描いた「トリプルメリット」「ウォーターフロント」のシナリオ相場だったという。
この窮地から日本企業を救ったのが株価の急騰、誤解を恐れずに言えば野村證券が描いた「トリプルメリット」「ウォーターフロント」のシナリオ相場である。円高、金利安、原油安の3つを「トリプルメリット」と呼び、それを材料に、まず電力会社やガス会社の株価を暴騰させた。まずそこまでやっておいて、次に「ウォーターフロント」を仕掛けたのである。
あの2つのキーワードを思いついたのは株式担当だった橘田喜和取締役(当時)だが、ウォーターフロントは彼が自分で思いついたわけではなく、東京都の資料の中から見つけ出してきた言葉だった。「これは使える」と飛びついたところが、いかにも彼らしい。当時はそんな用地の再開発計画など存在しないにもかかわらず、「東京湾岸にある石川島播磨重工業(IHI)の工場跡地を開発したらどうなるか」といったシナリオを掲げて、投資資金を呼び込んだのだ。(P99-100)
いまから32年前に、まだ再開発計画が存在しない段階で東京湾岸のIHI跡地の再開発を謳っていたなんて、証券マンは不動産営業マンの上を行っている……。
「すべて億単位のマンションに切り替えろ」(PROUD)
野村不動産のブランドカ(PROUD)を一気に高めたのは、95年6月に野村不動産の社長に転じた中野淳一氏(野村證券の元常務)だという。
中野さんは人柄が穏やかで有能な営業マン。私は浜松支店次席の頃、営業部門のトップの中野さんに表彰状をもらった程度の関係に過ぎないが、その先見の明は素晴らしかった。特に95年6月に野村不動産の社長に転じてからは、ユニークな経営戦略で野村不動産のブランドカを一気に高めた。バブル崩壊によって不動産市況が低迷する中で、中野さんは「二流の土地ではなく、一等地を買い漁れ。2000万~3000万円のマンションは止めて、すべて億単位のマンションに切り替えろ」と指示し、都内の一等地を次々と押さえていった。これによって、それまではただ頑丈で良心的なマンションを作るだけの会社だった野村不動産のブランドカが上がった。今や野村不動産の「PROUD」といえば、一等地にあるおしゃれな高級マンションの代名詞。私は「センスがあるなあ」と感服した。不動産業界での野村不動産の今の地位は、間違いなく中野さんが築き上げたものだ。惜しくも2007年8月に68歳で亡くなったが、過去数十年間の野村グループの経営者の中で、将来を見据える眼は一番優れていた。(P189-190)
野村不動産は昔は「頑丈で良心的なマンション」を作っていたらしい。
「あんな腐ったガキども(特捜検事)に絶対負けるな」
接見禁止のまま966日間(2年8か月)勾留された著者が、本書を書こうとした一端が伺えるシーン。
ある刑務官には「横尾さんにはどうしても、この経験を本にしてもらいたい」と言われた。
「いま東拘にいる3000人の被告の中で、おそらく1割は冤罪でしょう。小さな事件の裁判で勝っても意味はない。オリンパス事件という日本中を騒がせた大事件の裁判で、あなたが勝てば、日本の司法制度も少しは変わるかもしれない。そのためにも絶対に本を出版して、自分の無罪を主張してください」
裁判所の地ド出入り口にバスで到着し、腰紐で繋がれたまま法廷に上かっていく時のこと。反対方向から歩いてきた刑務官に、何度か思いがけない言葉をかけられた。
「横尾、あんな腐ったガキども(特捜検事)に絶対負けるな。叩きのめせ」 私は東拘の幹部職員の方が語ってくれた経験を思い出していた。
「特捜部の検事がここで取り調べるでしよ。その時には刑務官も同行するが、容疑者に対する検事の殴る蹴るは、本当にひどかった。大阪地検特捜部主任検事の証拠改竄事件のあとは多少ましになったので、あなたはその分ラッキーだ。リクルート事件の江副浩正さんは気の毒だった。取り調べ中もずっと立たされ続けて、見ている方がつらかった。あんなの、人間のすることじゃない」(P394-395)
検察の横暴は、村木厚子 (著)「私は負けない 「郵便不正事件」はこうして作られた」にも詳述されていた。「誰もが事件に巻き込まれる可能性がある。巻き込まれれば、二人に一人は自白する。そして有罪率は99パーセントです」
籠池さんもそのうち本を出すのだろうか……。