「マンションは管理を買え」と言われて久しいが、ではその管理を担っている会社の実態を、果たしてどれほどの人が知っているだろうか。
実際、管理会社の名前すら聞いたことがないという区分所有者も少なくない。だが、管理は日々の暮らしに直結するインフラである。マンションの価値を左右する「見えない要素」だ。
毎年5月に発行される業界紙「マンション管理新聞」では、「総合管理受託戸数ランキング」が掲載されている。今回は、その最新版と過去データをもとに、マンション管理会社の実態を可視化してみたい。
マンション総合管理受託戸数ランキング
「マンション管理新聞」2025年5月25日号では、516社が受託しているマンションの「組合数」「棟数」「戸数」が掲載されている(次図)。
(マンション管理新聞 24年5月25日号)
1位は日本ハウズイング、2位は東急コミュニティー
総合管理受託戸数で見ると、日本ハウズイングと東急コミュニティーの2社が頭ひとつ抜けている。(次図)。
以下に、上位20社の管理戸数および棟数を示す。
- 1位:日本ハウズイング(508,812戸、10,690棟)
- 2位:東急コミュニティー(473,527戸、9,295棟)
- 3位:大京アステージ(424,628戸、7,897棟)
- 4位:長谷工コミュニティ(412,768戸、5,023棟)
- 5位:三菱地所コミュニティ(332,892戸、5,121棟)
- 6位:大和ライフネクスト(285,173戸、4,465棟)
- 7位:合人社計画研究所(257,917戸、5,421棟)
- 8位:三井不動産レジデンシャルサービス(218,010戸、2,824棟)
- 9位:野村不動産パートナーズ(182,306戸、2,648棟)
- 10位:あなぶきハウジングサービス(173,036戸、3,408棟)
- 11位:住友不動産建物サービス(171,828戸、2,163棟)
- 12位:日本総合住生活(159,615戸、7,646棟)
- 13位:穴吹コミュニティ(114,275戸、2,101棟)
- 14位:グローバルコミュニティ(大阪)(107,568戸、2,451棟)
- 15位:伊藤忠アーバンコミュニティ(107,167戸、1,658棟)
- 16位:東京建物アメニティサポート(83,144戸、1,310棟)
- 17位:近鉄宅管理(72,833戸、1,072棟)
- 18位:ライフポート西洋(70,642戸、1,702棟)
- 19位:レーベンコミュニティ(67,560戸、1,136棟)
- 20位:ナイスコミュニティー(61,544戸、1,299棟)
上位12社で市場の過半数を占有
では、マンション管理会社の市場占有率(シェア)はどうなっているのか。
国土交通省のデータによれば、2023年末時点で分譲マンションのストック総数は約704.3万戸。
そこで、横軸を管理会社のランキング、縦軸を管理戸数シェア(=各社が受託管理している合計戸数を「分譲マンションのストック数約約704.3万戸」で割った値)として描いたのが次のグラフ。
グラフの見方としては例えば、ランキング上位12社の合計受託管理戸数(3,600,512戸)は、分譲マンションのストック数約694.3万戸の5割(51.1%)を占めていることを表している。
具体的な数字で言うと、ランキング上位の12社が5割、67社が8割、142社が9割のシェアを握っているということになる。
※なお、上位10社のみのシェアでも46.4%に達する。
独立系管理会社は小規模マンションに強い
管理戸数が多ければ棟数も多いのか? その問いに対する答えは、次の散布図が示している。
横軸を受託管理戸数、縦軸を受託管理棟数として描いたこの図では、企業の特性が可視化される。
- 不動産大手が管理するのは、どちらかといえば大規模マンション(東急・大京以外は、青色破線より下に位置)。一方、独立系の日本ハウズイングや合人社計画研究所は、小規模マンションを数多く管理している傾向にある(図中の青色破線より上に位置)。
- 興味深いのは、東急コミュニティーが小規模マンション寄りの位置にある点だ。これは、同社が2021年10月に100%子会社であるコミュニティワン(当時:3,478棟、160,683戸)を吸収合併した影響と考えられる。
- また、日本総合住生活はUR都市機構の出資企業であり、1棟あたりの平均戸数は21戸(=159,615戸÷7,646棟)と際立って少ない。
管理戸数の推移から見える地殻変動
東急コミュニティーは3年連続で減少、日本ハウズイングは首位維持
過去16年間の上位11社の管理戸数の推移を「マンション管理新聞」バックナンバーから可視化した(次図)。
- 第1グループ(40万戸超):日本ハウズイング・東急コミュニティー・大京アステージ・長谷工コミュニティ
東急コミュニティーは3年連続で減少する一方、日本ハウズイングがコンスタントに増加し、2年連続で首位。長谷工コミュニティは40万戸超へ。 - 第2グループ(30万戸超):三菱地所コミュニティ
- 第3グループ(20万戸超):大和ライフネクスト・合人社計画研究所・三井不動産レジデンシャルサービス
- 第4グループ(10万戸超):野村不動産パートナーズ・あなぶきハウジングサービス
※長谷エコミュニティが20年3月に急増し3位に浮上したのは、長谷工スマイルコミュニティ(前回26位)と総合ハウジングサービス(同28位)を吸収合併したことによる。
日本ハウズイングは着実に戸数を増やし、2年連続で首位を獲得。対照的に、東急コミュニティーは3年連続で減少している。
管理戸数が多いのは、販売元のグループ会社が自社物件の管理を引き受けているためという構造的要因もある。三菱地所、長谷工、三井不動産などが典型例である。
独立系の管理会社である日本ハウズイングが管理受託戸数を伸ばしているのは、低コストを武器に他社の受託戸数を侵食しているからなのであろう。
特筆すべきは、住友不動産建物サービスが2020年に管理戸数を1割近く減らしている点。これは、人手不足と人件費の高騰を受け、同社が「品質維持困難」を理由に契約辞退を申し入れたことによる。東急コミュニティーも同様の動きが見られる。
いまや、「マンション管理組合が管理会社を選ぶ」時代から、「管理会社が管理組合を選ぶ」時代へと移行しつつあるのかもしれない。
グループ別ラキング:日本ハウズイングGが続伸
最後に、グループ別の受託管理戸数推移を確認しておこう。ここでは、上位15グループを比較した(次図)。
特筆すべきは、日本ハウズインググループの堅調な伸びである。一方、東急コミュニティーグループは3年連続の減少と苦戦が続く。
- 第1グループ(50万戸超):大京G・日本ハウズイングG
- 第2グループ(40万戸超):東急コミュニティーG・長谷工管理ホールディングス・大和ハウスG
- 第3グループ(30万戸超):三菱地所コミュニティ・合人社計画研究所G
- 第4グループ(20万戸超):三井不動産レジデンシャルサービスG・あなぶきハウジングSG
おわりに
マンションの管理会社は、暮らしの裏側で静かに存在感を発揮している。だが、その実態は意外なほど知られていない。数字に目を凝らせば、そこに見えてくるのは市場の変化、業界構造の変化、そして時代の変化である。
管理会社を「選ばれる側」から「選ぶ側」へ──その時代に、われわれは既に突入しているのかもしれない。
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