政府は「合意を得る」と言ってしまっては逃げ道はなくなるが、「理解を得る」ならば、曖昧にやり過ごすことができる。
「固定化回避」というマジックワードもまたしかり。
政府は「理解」と「合意」を巧みに使い分けている
先日ラジオを聞き流していたら、フリーの記者(元朝日新聞記者)がとても興味深い話をしていた。
政府は「理解」と「合意」を巧みに使い分けているというのである。
同記者の記事ではないが、東京新聞に2つの言葉の違いがよく分かる記事が出ていたので抜粋する。
「理解醸成」「理解確保」…政府原発方針で頻出する曖昧ワードの真意は「時間稼ぎの方便」 「合意を得る」とは言わず
最近の原発論議で政府が好んで使う言葉がある。「理解醸成」だ。東京電力福島第一原発事故に伴う処理水の海洋放出に関しても、除染土の再利用についても「理解を醸成する」と強調し、原発再稼働の話題では「理解確保」を頻発させる。「広く合意を得る」と打ち出せばいいのに、そうはしない。曖昧さを感じさせる「理解」を使う理由は何なのか。政府の真意を探った。
(中略)
理解という言葉は政府と東電が2015年に福島県漁業協同組合連合会が交わした約束にも登場する。「関係者の理解なしには、いかなる処分(海洋放出)も行わない」という形だ。(以下略)
政府は「合意を得る」と言ってしまっては逃げ道はなくなるが、「理解を得る」ならば、曖昧にやり過ごすことができる。
今にして思えば、羽田新ルートではまさにこの手法が使われていた。石井国交大臣(当時)が19年8月8日、「地元の理解」が得られたと宣言し、その後の国会や区議会での反対をやり過ごし、翌年3月29日に羽田新ルートの運用が開始されたのである。
石井啓一 元国交大臣(公明党)
羽田新ルートに反対した議員らは、役人が繰り出した「理解」という言葉の意図への理解が足りず、曖昧な議論の場で戦っていたのである。
「理解を得る」の次は「固定化回避」というマジックワード
なぜ、いまさらこんな話を持ち出したのかといえば、羽田新ルートでまた、役人が繰り出した曖昧な言葉に振り回されていると思うからだ。
その言葉とは「固定化回避」である。
固定化回避とは、羽田新ルートによって現在騒音などの悪影響を受けている住民にとって、将来緩和されるかような幻想を抱かせるマジックワードだ、というのが筆者の認識である。
固定化回避は、羽田新ルート専用に生み出された言葉ではない。米軍普天間飛行場の辺野古移転議論でも使われている。
政府、辺野古移設方針を堅持
政府は、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の固定化を回避するための「唯一の解決策」(松野博一官房長官)として、名護市辺野古への移設方針を堅持する。埋め立て予定海域で見つかった軟弱地盤の影響で移設作業のさらなる長期化は不可避となっており、地盤改良工事の着手に向けて手続きを急ぐ方針だ。(以下略)
羽田新ルートの騒音・落下物など、周辺市民の反対運動に対して、国交省は固定化回避という曖昧表現を繰り出すことで、時間稼ぎをしつつ、航路下住民が環境に馴化する、あるいは諦めるのを待っているのであろうか。
国交省の固定化作戦が功を奏しているのか、国会はもちろん、都議会や区議会でも羽田新ルート問題が取り上げられることが少なくなりつつある(次表)。
「羽田新ルート|23年第3回定例会(都・区議会まとめ)」より
羽田新ルートによる航空機騒音は、インバウンドの回復で、むしろ悪化する方向にある(次図)。議員は馴化することなく、議会で問い続けてほしいものだ。
「南風時の都心低空飛行ルート運用実績を可視化(23年9月)」より
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