渋谷区議会の「21年第2回定例会」本会議の代表・一般質問(6月2~4日)で、羽田新ルートに関して3名の議員から質疑応答があった。
議会中継(録画)をもとに、全文テキスト化(約5千800文字)しておいた。
※以下長文。時間のない方は「質疑応答のポイント」と「雑感」をお読みいただければと。
中田喬士議員 (立憲民主党)
中田喬士 議員(立憲民主党、区議1期、明大院卒、31歳)
中田:ご意見のカード、全戸配布などをすることはできないでしょうか?
次に、羽田空港について質問をいたします。
羽田新飛行ルートの低空飛行問題は、我が会派でも常々質問をしてきました。また、議会としても全会一致で意見書を提出しました。この低空飛行問題に関して、区長も区議会も思いは一緒であると考えております。
現在、国土交通省では、「羽田空港のこれから」という「ご意見カード」を作成し、地域の声を聞く作業を行っています。現物は、このようなカードになっておりますが(図)、このご意見カードは国土交通省から渋谷区にも配られており、所管課に確認したところ、各出張所に15部ずつ渡したとのことでした。
(「羽田空港のこれから」ご意見カード)
しかしながら、私が確認した出張所には置いておらず、改めて所管課に確認したところ、どの配布物を置くかは出張所の判断になっているとのことでしたが、この点に関しては事実でしょうか。重要であるから、出張所に置くべきと考え、本庁舎から配布しているものを出張所の判断で置かないという判断は正しいのでしょうか。それとも渋谷区として、このご意見カードは置かなくてもいいという判断を取っているのでしょうか。
区長は区民から寄せられた、この問題に関してのご意見は都度都度、国土交通省に伝えているとおっしゃっておりましたが、今回のご意見カードに関しては直接、国土交通省に区民の声が届くものになっています。区民の方々の声を国へ伝える手段として置くデメリットは何もないと考えておりますが、区長の見解を伺います。
そして、本庁舎では、環境政策部の窓口にて配布しているとのことでしたが、本庁舎1階の総合受付に置くことができないでしょうか。
区民の声をさらに国へ伝えるため、区広報でのご意見カードの周知、さらには全戸配布などをすることはできないでしょうか。区長の見解をお伺いします。
長谷部健 渋谷区長(無所属、2期、元渋谷区議会議員3期、専修大学商卒、49歳)
区長:国の責任において情報提供すべき
次に、羽田空港の新飛行ルートについてのお尋ねです。
「『羽田空港のこれから』ご意見カード」は新たな飛行経路の運用開始後、航路下の住民の皆様の意見・ご要望を頂くため、国において作成したのです。出張所におけるチラシ等の配布物については各所管の依頼によりすべて配布することを原則としております。
議員ご質問の「羽田空港のこれから」という「意見カード」についても全ての出張所で配布していることを確認しております。限られたスペースであるため、チラシを配布する時間や時期などは各出張所で適宜判断してるとこでありますが、今後も、区民の皆様に必要な情報はしっかりと提供してまいります。
次に、本庁舎での配布場所ですが、これまでも羽田空港新飛行経路に関するご意見、ご要望は環境政策部で伺ってきました、国のチラシ等については、今般のご意見カードも含め、環境政策部の窓口に置くことが適当と考えます。また、羽田空港のご意見カードに係る周知や全戸配布等については、本事業は国の事業であり、国の責任において情報提供すべきです。
なお、国土交通省が羽田空港新飛行経路に関する情報提供やご意見を伺う取り組みの一環として、この4月に区内全戸にチラシを配布したと聞いております。今後も国において区民の皆様の声をしっかり聞くようを求めてまいります。
牛尾真己 議員(共産)
牛尾真己 議員(共産、区議5期、中央大学 II部理工学部卒、63歳)
牛尾:米軍ヘリの低空飛行の実態を把握しているのか?
渋谷の空の安全確保についてです。羽田空港に着陸する航空機が毎日のように渋谷の上空を飛び、住民から騒音の苦情が増えています。区民は「アメリカのコロラド州の事故で落下物がますます心配になった」「減便で必要ないのに、なぜ都心上空を飛ぶのか」などと批判しています。
そもそも「五輪のための羽田増便」「外国人観光客呼び込み」という口実はコロナで完全に破綻しています。渋谷、品川区などの住民は飛行中止を求める裁判を起こしています。区民の安全と住環境を守る責任を果たすためには、羽田空港の運用は「海から入って海に出て行く」という住民との約束に立ち戻る以外にはありません。
区民の命を危険にさらす都心低空飛行ルートの中止を国に求めるべきです。区長の見解を伺います。
毎日新聞の調査で、都心上空での米軍による無法な低空飛行が常態化していることが明らかになりました。半年間の間に新宿駅周辺で12回確認し、東京都庁の展望台から撮影した動画には約200mの低空で飛行する米軍ヘリが記録されています。また、12月14日には神奈川方面から来た米海軍ヘリが明治神宮の上空を通り原宿竹下通りの神宮前タワービルディングのすぐ横を通過など、渋谷・浜松町周辺のオフィス街での危険な低空飛行を5回目撃したと報じています。
日本の航空法では住宅密集地では300m以上飛行ることが義務付けられていますが、日米地位協定で、米軍は航空法の適用除外とされています。国会審議で米軍が赤坂プレスセンターから横田・厚木・横須賀基地など、都心から神奈川県東部の広い範囲を勝手に訓練空域に設定していることが明らかになりました。区はこうした米軍ヘリの低空飛行の実態を把握しているのか。また、危険極まりない訓練の中止と日米地位協定の見直しの交渉を国に求めるべきです。区長の見解を伺います。
長谷部健 渋谷区長
区長:区では把握できません
次に、渋谷の空の安全確保について、2点のお尋ねです。
初めに羽田空港新飛行ルートの中止を国に求めることについてのお尋ねです。羽田空港新飛行ルートについては、これまでも貴会派のご質問にお答えしている通り、国の責任において、引き続き丁寧な説明と十分な情報提供を行うよう、また騒音対策や安全対策等に対して、さらなる取り組みの強化を図るよう、必要に応じて国に対して求めていきます。
こうしたことから、現段階では、国に中止を求める考えはありません。
次に、米軍ヘリの低空飛行の実態把握および訓練中止等の要請についてのお尋ねです。
米軍の動きは、区では把握できません。お尋ねの件ですが、国との窓口である東京都に対して特別区長会から特別区の状況を伝え、国への働きかけを要請しております。本区単独での国への働きかけは周辺区の動向確認のうえ判断してまいります。
金子快之議員(れいわ渋谷)
金子快之 議員(れいわ渋谷(N国)、1期、元北海道テレビ社員、東大経済卒、48歳)
金子:緊急着陸時の新ルートの飛行は止めるように国に具申すべき
緊急事態宣言下のユナイテッド航空機飛行について伺います。5月21日、私は昼過ぎに自宅の屋上でぼーっとしていたところ、突然上空を大型機が轟音をあげて飛行をいたしました。新ルートを時間外で飛行していたことに私は大変驚いたわけであります。
このような地図上を、アメリカから飛んできた飛行機、ユナイテッド航空881便が都心上空を通りまして、このように、練馬区上空から渋谷区の上を通って羽田空港に着陸したということであります(下図)。
報道によりますと、シカゴ発のユナイテッド航空機881便は機体のスラットにトラブルが発生したということで、千葉県沖で緊急事態を宣言し、都心ルートを通って羽田空港C滑走路に着陸したとのことであります。トラブルを起こした主翼のスラットというのは飛行機の翼は前の方に取り付けられた大きな部品であります。幸いにも事故にもならず、無事定刻に羽田空港に着陸したということでありますけれども、機体に不具合を抱えて緊急事態を出しながら住宅密集地を飛行したわけですから、一歩間違えれば、大きな事故になった可能性もあると思います。
羽田空港新ルートは世界最高水準の安全対策を講ずると、こう国は説明してまいりまし、た。まさか緊急飛行に使われるとは全く聞いておりません。まして午後1時となりますと、羽田新ルートの運用時間外であります。
ここで区長にお尋ねしますけども、機体トラブルを抱えてユナイテッド航空機が時間外に緊急飛行したことについて、区民から問い合わせがあったか。また、それを受けて国に問い合わせをしたか、あるいは、国から説明を受けたでしょうか。もし受けたならば、その内容をご説明お願いいたします。
また、報道によりますと、羽田空港の最も長い滑走路がC滑走路ということでありますから、今後も同じような機体トラブルがあれば、今後も新ルート、つまり渋谷区の上空を飛行することであります。
緊急着陸をするのにわざわざ人口が多いこのルートを選んで飛ぶ必要はないだろう、と私は思うんでありますけれども。機体トラブルを抱えた危ない航空機が今後も頭上を通過することがあるのか、このことについて、地元自治体として、区長はどう考えておられるか。
こういった緊急着陸時の新ルートの飛行は止めるように国に具申すべきじゃないかと思いますが、いかがでしょうか。
長谷部健 渋谷区長
区長:運用時間外に新飛行ルートを利用したことはやむを得ない措置
次に、機体が故障したユナイテッド航空機が上空を飛行した件についてのお尋ねです。
はじめに、本件に関する区民からのお問い合わせについてですが、現時点ではありません。
次に、国からの連絡についてですが、飛行機が本区上空を通過する直前に電話でありました。内容はユナイテッド航空881便が装置のトラブルのため羽田空港B滑走路への着陸予定を距離の長いC滑走路に変更すること、運用時間外であるが新飛行ルートを利用するというものでした。着陸については、その日の夕方、東京都を通じてメールで無事であったとの報告を受けています。
次に、今回の飛行を地元自治体としてどう考えているのか。また、緊急事態宣言を発した航空機の新ルート飛行を止めるように国に意見、具申すべきではないかとのお尋ねですが、緊急時における対応としては、運用時間外に新飛行ルートを利用したことはやむを得ない措置だったと思います。
本区としては国に対して安全対策を徹底するとともに、本件のような事案が発生した場合には、可能な限り早く情報提供するよう要望していきたいと考えます。
金子:緊急事態の危ない飛行機を飛ばすこと、容認する?
それからユナイテッド機の話です。区長の答弁で、国交省から電話がまずあったと。それから、無事着陸できたというメール連絡を頂いたってこと。情報提供があったのはいいと思います。
けど、私が申し上げてるのは、情報提供されているのは当然必要なんですけども、そうじゃなくて、機体にトラブルを抱えて、いつどうなるかわからない飛行機をわざわざこの大勢の都民が住んでいる、区民が住んでるこの上空をわざわざ飛びますかって話なんです。
先ほど画面で見ていただきましたが、アメリカから来た航空機っていうのは、千葉県の銚子沖を通って成田空港の上を通って羽田に入ってきます。そんなに緊急事態だったら成田に着陸すればいいんじゃないかと思うんです。
羽田の滑走路、C滑走路3100mですけど、成田は4000mあります。もしそんなに危ないんだったら、成田に着陸してもらえばいいと思うんです。そういうふうに、電話かかってきたら、渋谷の上空は危ないから飛ばないでもらいたいと申し入れをするのが本来区民を守る区長の立場の言うべきことではないかと私は思うんですけれども。
この緊急事態の危ない飛行機を飛ばすことについて、これは容認するという考えなのかどうなのか。キチンと答弁いただけなかったので、これについてお答えください。
区長:飛行機自体も緊急事態、それを考慮した上で国交省も判断
羽田空港についてですけども、これについては、緊急時においてももちろん区民の安全安心、生活環境を守る立場には変わりありませんが、飛行機自体も緊急事態でした。それを考慮した上で国交省も判断していることですから、人の命を守るということを考えているというふうにご理解いただければと思います。
金子:機体にトラブルを抱えた飛行機は羽田の新ルートを飛ぶべきじゃない
先ほど再質問のことを私の意図がキチンと伝わってなかったと思いますんで、改めてもう1回同じことをお聞きします。
まず、飛行機について緊急事態、機体にトラブルを抱えた飛行機は羽田の新ルートを飛ぶべきじゃないと私は思ってるんですけど、区長はそう思いになっていない、考えてないってことですね。
飛んでもいいっていうお考えなのか。私はそうじゃないと。機体にトラブルあるなら、違う方向から飛ぶように言うべきだと私は思ってるんですけど、それについて区長はそれでいいと思ってるのかどうか、お聞きしたいと思います。
区長:致し方ないというふうに思っている
飛行機についてですけども、喜んで「飛んでください」なんていうことは思ってません。ただ、緊急事態で飛行機も危ないということであれば、それで着陸までの安全が確保されての判断、安全だというふうに国交省も含めて判断してこの都心の上を飛ぶということでしたから、まあ致し方ないというふうに思っているというところです。
金子:万が一何か起きてからでは大変なことになります
なかなか噛み合わない質問と答弁ということで、私を理解力なかったからなのかもしれませんけれどもなく、区長のお考えがだいたいよく分かったところであります。
飛行機の、先ほどの区長の姿勢がよく分かったということですね。「致し方ないと思う」ということがありましたけども、これだけ飛行機の、大きな飛行機が何かあったらどうするんだと。万が一のことに備えて考えるとするのがやっぱり自治体の長としての役割ではないかと私は思うんです。
国がこう決めたから、それに従っとけば安全でしょうと。それは結果論であって、万が一何か起きてからでは大変なことになります。
是非、いつもこうやって耳の痛いことを申し上げているかもしれませんけども、厳しいことを言ってる区民は私だけではありませんので、そういった声もあるってことをぜひ真摯に受け止めていただいて、今後、益々ご活躍いただければと思います。ありがとうございます。今後も応援しております。(会場から笑い声)
雑感
羽田新ルートの本格運用が20年3月に始まって、20年6月の第2回定例会以降、羽田新ルート問題を取り上げる議員数に大きな変化はないものの文字数(≒質疑応答時間)に減少傾向が見られる(次図)。
この現象は、取りあえず羽田問題を取り上げておく姿勢だけは支援者らに見せておこうという、議員の後ろ向きな姿勢を意味しているようなことはないのか。
19年以降の各党派の登壇状況を可視化したのが次表。
- 共産党は今回もまた、お決まりの「都心低空飛行ルートの中止を国に求めるべき」を投げるが、長谷部区長からお決まりの「現段階では、国に中止を求める考えはありません」と打ち返される。もはやこれは、多くの区で観測される区長vs共産議員のお決まりごとのようなものなのではないか。
- れいわ渋谷の2人(堀切・金子議員)は、長谷部区長の答弁に押し切られているものの、毎回、質問内容に創意工夫を凝らしている点は評価できる。
- 立憲民主党は、治田学議員が登壇したときはそれなりにキレのある質問が見られるが、今回のように中田喬士議員(1期、31歳) がヘラヘラしながら、羽田新ルート問題の本質とは遠い「ご意見カード」の質問を投げるのは党としてどうなのか。これでは、立憲民主党が羽田新ルート曖昧戦略を取っているのがバレバレではないのか。
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