国交省は1月6日、「新飛行経路 定期運用報告」のうち、2か月に1回公表するとしていた項目のほか、各ダイヤごと(概ね半年に1回)に公表することとしていた夏ダイヤ(20年3月29日~10月31日分)も公表した。
そこで今回公表された3区分のうち、「騒音対策」(次表、赤着色部分)の中身を読み解いてみよう。
騒音実測値、住民説明会との齟齬はあったのか?
国交省がこれまで住民説明会などで説明してきた騒音値と比べて、齟齬はあったのか?
国交省の説明:9月は「約12%は推計平均値以上」
国交省は、住民説明会などで説明してきた騒音値と比べて、9月は「約18%は推計平均値以上」、10月は「約10%は推計平均値以上」だったとしている。
全体総括
- 騒音測定の地点ごとに計算した機体サイズ別の実測値の平均と、住民説明会等でお示しした推計平均値を比較したところ、9月においては、約63%は推計平均値と同等、約12%は推計平均値以上、約25%は推計平均値以下、10月においては、約65%は推計平均値と同等、約10%は推計平均値以上、約25%は推計平均値以下であることが確認できた。
- 結果については、新型コロナウイルスの影響により、通常より便数が少なく、かつ、小型化・軽量化の状況下での結果であることに留意する必要。
- 9月下旬以降、新飛行経路の南風運用が少なく、南風運用時の航空機騒音を主な測定対象としている測定局での騒音発生回数が少なくなっている。一方で北風離陸経路下の測定局における騒音発生回数は増加している。
9月の「約12%は推計平均値以上」については、騒音測定局(19か所)ごとに「大型機」「中型機」「小型機」の騒音レベルを比較した結果、51か所のうち6か所がピンク色であったこと(6÷51⇒11.8%)をその根拠としている(次表)。
「羽田空港新飛行経路に係る航空機騒音の測定結果」P2
筆者のコメント:「推計平均値」というごまかし
国交省が騒音測定結果を説明するために「推計平均値」という指標を持ち出したのは今回が初めてではない。「実機飛行確認における騒音測定結果」のときからである。測定値がこれまで住民説明会で説明してきた最大騒音レベルをたびたび上回ることを取り繕うために持ち出した指標である、と筆者は考えている。
以下、「実機飛行確認における騒音測定結果」を解説したときの繰り返しで恐縮。
国交省の説明を額面通りに受け取るとするならば、これまで住民説明会で説明してきた最大騒音レベルは、全国の空港周辺で測定した複数の最大騒音レベルを平均した推計値ということになる(次図)。
だから、比較の対象とすべき今回の実測値も最大値の最大値ではなく最大値の平均値にしたという理屈なのであろう。
「実機飛行確認の騒音測定結果(精査版)を読み解く」より
国交省のこの理屈は、誠実さを欠いている。
国交省がこれまで説明してきた資料には、「平均値を採用している」などとはどこにも記されていなかった(というか、曖昧にしてきた)。
たとえば、FAQ冊子v.5.1.2の次の記述がそうだ。
- 上表の騒音値は、過去の航空機騒音調査によって取得したデータベースから、飛行経路下における地上観測地点での最大騒音値※を推計した値。
- ※航空機1機が観測地点の真上を通過する際に騒音値がピークを迎えるという前提にたって、計算上求められる騒音のピーク値。
(「FAQ冊子v.5.1.2」P51)
「FAQ冊子v.5.1.2」P51に筆者ピンク追記
国交省は「推計平均値」を持ち出すことによって、論点をずらしている。羽田新ルート周辺の住民に影響を与えるのは、平均値ではなく最大値だ。
降下角3.45度の騒音低減効果はあったのか?
国交省の説明:騒音が軽減されていることが確認できた
ILS運用時(降下角3.0度)とRNAV運用時(3度より大きい降下角)の騒音実測結果を比較して、「騒音が軽減されていることが確認できた」が確認できたとしている(次図)。
ILS運用時(3度の降下角)の実測値の平均を基準にRNAV運用時(3度より大きい降下角)の実測値の平均を比較したところ、RNAV運用時の方が騒音が小さく、実際に騒音が軽減されていることが確認できた。
今後も引き続きモニタリングを実施していく。
「羽田空港新飛行経路に係る航空機騒音の測定結果」P3
また、「RNAV運用時(3.45度の降下角)」と「RNAV運用(2段階降下)」を比較すると、前者の方が騒音軽減効果がより大きい傾向にあることが確認できたとしている(次図)。
RNAV運用時(3.45度の降下角)に角度をできるだけ維持して降下している着陸機(図示A)と2段階降下(1,500ft付近で3度に会合)をしている着陸機(図示B)の実測値の平均を比較したところ、全体としてみると角度をできるだけ維持している着陸機の方が騒音軽減効果がより大きい傾向にあることが確認できた。
今後も引き続きモニタリングを実施していく。
「羽田空港新飛行経路に係る航空機騒音の測定結果」P4
筆者のコメント:誤差範囲である
ILS運用時(降下角3.0度)とRNAV運用時(3度より大きい降下角)の騒音低減効果は胸を張れるような数字ではなく、誤差の範囲だ。
国交省が不誠実なのは、グラフの見せ方がいかにも騒音低減効果があったような印象を与える描き方になっていることだ。
各地点での差ではなく、騒音レベルそのもので比較すれば、国交省がいう騒音低減効果など誤差範囲であることが一目瞭然であろう(次図)。
航空機騒音の短期測定結果(21地点)
国交省の説明:推計平均値以上:4地点(8%)
羽田新ルートに係る航空機騒音の発生状況のよりきめ細かな把握のためとして、それまでの固定騒音測定局での測定に加えて、21地点(東京13か所、神奈川2か所、埼玉6か所)を追加して2週間(20年9月23日~10月6日)にわたって実施されたのが「航空機騒音の短期測定」である。
※北風時の出発ルート(江戸川、江東)については、さらに1週間(12月5日~11日)追加された。また、自治体の要望によってさらに3地点(墨田、足立、葛飾)が追加され、2週間(12月17日~23日)実施。
前段の21地点の2週間(20年9月23日~10月6日)の騒音測定の結果、「推計平均値以上:4地点(8%)」だったとしている。
実測値の平均と推計平均値を比較すると、同等:40地点(75%)、推計平均値以上:4地点(8%)、推計平均値以下:9地点(17%)
筆者のコメント:「推計平均値」というごまかし
羽田新ルート周辺の住民に影響を与えるのは、平均値ではなく最大値であることについては、上述したとおり。
コロナで大型機の割合小さく、小型機の割合大きく
今回、夏ダイヤ(20年3月29日~10月31日)の就航機種割合の実績も公表された(下図)。
- 2020年3月29日から10月31日までにおいては、新型コロナウイルスの影響に伴い、国際線を中心に減便や、その他、大型機から中型機・小型機への機材変更が生じていた。
- その結果、上記期間において、羽田空港を離着陸した航空機の機種毎の割合は、小型機が全体の約63%、中型機が約24%、大型機が約12%であった。
上図データをもとに、機種割合の変化が分かりやすいように描き直したのが次図。
大型機の割合が小さくなり、そのぶん小型機の割合が大きくなっていることが分かる。コロナがなければ、本来の飛行騒音はもっとヒドイことになっていたという話。
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