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国・都の縦割り!? 災害に強い首都「東京」形成ビジョン

東京都は9月15日、『災害に強い首都「東京」形成ビジョン 中間まとめ』を公表し、意見募集を開始した。国交省も同日、『災害に強い首都「東京」形成ビジョン 中間まとめ』について意見募集を開始した。

実はこの中間まとめは、国交省がその1週間前(9月7日)に発表した「災害に強い首都「東京」の形成に向けた連絡会議(第3回)」(9月9日開催)の配布資料2として公開されていたもの。

国交省が発表したり、国と都がパブコメ募集したり、一体どうなっているのか。解説しよう。


もくじ

国と東京都の縦割り!?

資料2 災害に強い首都「東京」形成ビジョン(仮称) 中間まとめ(案)

中間まとめ(案)は、「水害対策編」と「地震対策編」の二本立てになっている。水害対策は国交省が、地震対策は都が中心に取りまとめているようにみえる。
このことは問い合わせ先からも読み取れる。国交省の問合せ先は水管理・国土保全局 治水課で、東京都のそれは都市整備局 市街地整備部だからだ(次図)。

お問い合わせ先
『災害に強い首都「東京」の形成に向けた連絡会議(第3回)』を開催 - 国土交通省


ちなみに、連絡会議メンバー12名のうち、座長は国交省技監で、副座長は東京都都市整備局長。

地震対策は密集市街地の不燃化に特化

中間取りまとめ案では、「水害対策編」のほうは、洪水調節施設やスーパー堤防の整備の必要性が謳われている。長期にわたって莫大な費用を要する土木工事の予算化の理屈付けをしているともいえる。

中間まとめ(案)~基本的な考え方~ (水害対策編)
資料3「災害に強い首都「東京」形成ビジョン(仮称) 中間まとめ(参考資料)」P1(PDF:2.2MB

一方、「地震対策編」のほうは、地震対策とはいうものの、密集市街地の不燃化に特化した内容となっている

中間まとめ(案)~基本的な考え方~ (地震対策編)
同上 P8

 

地震対策なのに、密集市街地の不燃化に的を絞っていいのかという思いがよぎる。

同じように思った区関係者もいたのであろう。資料1(「災害に強い首都「東京」の形成に向けた取り組み方策(案)」についての意見照会と結果について)(PDF:357KB)として、23区のうち意見があった14区の意見が公開されている。

下記7つの意見に対して、連絡会議はいずれも「地震対策については、密集市街地の不燃化に特化した対策を検討することとしています」と回答しているのである。

  • (47)住宅の耐震化・防火耐震化、緊急輸送道路沿道建築物の耐震化等にも言及すべき。
  • (48)密集市街地の不燃化だけなのか。都市計画道路の整備や大規模な空地の確保などは記載しないのか。また、避難や物資等で取り組めることはないのか。
  • (54)地域により、危険ながけ・擁壁の安全確保対策についても、財政的及び技術的支援が必要だ。
  • (57)高層マンションのエレベーター停止対策の充実について検討しているのか。
  • (58)擁壁及びがけの安全化対策についても取組を加えていただきたい。
  • (59)地震について、総合的な取組方策ではなく、密集市街地対策というピンポイントでの取組方策が示されている理由は?
  • (60)住宅・建築物の耐震化促進に向け、下記のとおり具申する。
    (1)耐震性のない旧耐震住宅・建築物の耐震化の記述を追加願いたい。
    (2)耐震助成制度の更なる拡充をお願いしたい。
    (3)空き家対策以外の耐震対策においても、区が固定資産税情報を得られる仕組みづくりの検討をお願いしたい。

なぜ、密集市街地の不燃化に的を絞っているのか?

参考資料1(設立趣意書)には、次のように「壊滅的な被害の発生を回避」がキーワードになっている。

(略)首都「東京」において大規模洪水や首都直下地震等による壊滅的な被害の発生を回避できるよう、国と東京都がハード・ソフト両面から連携し、防災まちづくりを強力に推進していくため、「災害に強い首都「東京」の形成に向けた連絡会議」を設置するものである。

たしかに「壊滅的な被害の発生を回避」となると、がけ・擁壁の安全確保や高層マンションのエレベーター停止対策などは検討の範疇外となるのかもしれない。

また、中間まとめ(案)の「おわりに」には、「徳川家康の江戸入府以来 400 年」や「100 年先、1,000 年先をも意識して取り組む必要」といった仰々しい文言が並んでいる。

  • 徳川家康の江戸入府以来 400 年、脈々とまちづくりが行われてきた東京において、今後、地球温暖化に伴う水害リスクの高まりなどの新たな課題への対応が必要であることを踏まえ、まちづくりに「防災」の観点を明確に取り込むこととしたものであり、これは一朝一夕に完結するものではなく、100 年先、1,000 年先をも意識して取り組む必要がある。

P29/中間まとめ(案)

なんとも気宇壮大な計画であろう。

ならば東京一極集中の弊害とその対応についても検討の範囲に含めてもよさそうなものだが、東京一極集中問題には触れられていない。その点は国交省水管理・国土保全局と東京都都市整備局の利害が一致しているのかもしれない

そもそも連絡会議のタイトルが、「災害に強い首都「東京」の形成に向けた連絡会議」であった。主題はあくまでも「東京」なのである。

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