羽田新ルートの南風時の到着ルートは、悪天時には低空で飛行する(騒音が大きく)だけでなく、一部の区間で西側寄りに設定されている。
では、「悪天時」はどのくらい発生するのか? 残念ながら国交省の公表資料では分からない。
「(悪天時は)頻繁にある条件ではない」というツイート
悪天時にA滑走路到着ルートは、さいたま市の一部(浦和区、南区、桜区)、朝霞市の東側、和光市の上空を通過する(次図)。
そのときの飛行高度は900mなので、大型機(777-300)の場合、ルート直下では、1時間当たり14回(4分17秒ごと)に70dBの騒音が降り注ぐ。
「多くの埼玉県人は、悪天候時には高度900m(70dB)で飛行することに気が付いてない…」とツイートしたところ、次のリツイートを頂戴した。
悪天時とは滑走路端から6km未満の地点まで接近しないと羽田空港滑走路の灯火を視認できていないケースで、まずこのような天候では家の窓が開けられない、雨音に紛れる、自動車の走行音が水跳ね音を伴うという環境である。
しかも年間を通じて頻繁にある条件ではないことに注意。
ホントに悪天時は頻繁に生じないのだろうか?
ちなみに、悪天時の騒音環境悪化の影響は、上述の埼玉県民だけでなく、練馬区民と中野区民も受けるということはご存じだろうか。好天時であれば、A滑走路到着ルートの飛行高度は、練馬区1350m⇒中野区1200mとなるが、悪天時には両区とも900mで通過するのである。
「悪天時」とはどのような場合なのか?
そもそも、「悪天時」とは、どのような場合なのか?
FAQ冊子v6.2によれば、悪天時の運用は、空港における気象条件を満足している場合であっても、他の場所で局所的な積乱雲が発生しゲリラ豪雨が生じている場合や、短時間での気象状況の急激な変化が生じている場合などとされている。
Q18 悪天時と好天時の運用は、どのように使い分けされるのですか。
- 悪天時の経路は、好天時の経路で着陸するための空港における気象条件を満たさないため、地上からの電波による誘導により直線的に到着させる必要がある時に使用されます。
- ただし、空港における気象条件を満足している場合や経路の一部で晴天であっても、他の場所で局所的な積乱雲が発生しゲリラ豪雨が生じている場合や、短時間での気象状況の急激な変化が生じている場合なども、悪天時の経路を安全のため使用する必要があります。
- (省略)
「FAQ冊子v6.2」P38
「悪天時」が適用される条件は、上記ツイートが言及している「羽田空港滑走路の灯火を視認できていないケース」だけではないのである。
「悪天時」はどのくらい発生するのか?
では、実際に「悪天時」はどのくらい発生するのだろうか?
じつは、江戸川区では以前から、南風で悪天候等により視界が悪く、通常のルートが使用できない時に限り、安全を確保するため、誘導の電波に沿って江戸川区上空を通過して着陸するルートが運用されている(次図)。
江戸川区は2004年4月1日以降、毎年騒音を常時測定し、「着陸機騒音調査結果」として、年度ごとに公開している。現在、3か年(16年、17年、18年)の調査結果が区HPに公開されているので(次表)、同結果をもとに、「悪天時」の実態を調べてみた。
悪天時に江戸川区上空を飛行する日数データを可視化したのが次図。
悪天候は夏場に多いことが確認できる。
また、悪天時に江戸川区上空を飛行する機数データを可視化したのが下図。3か年平均で最も多い7月には900機を超えている。
この3か年平均データをもとに、羽田新ルートで悪天時にA滑走路到着ルートを通過する機数を次のように試算すると、下図の★1(水色線)が描ける。
- 悪天時に江戸川区上空の通過を許されている時間帯は、午前6時から午後11時までの17時間。
- 一方、羽田新ルートで悪天時にA滑走路到着ルートは、午後3時から午後7時のうちの3時間。
- 悪天時にA滑走路到着ルートを通過する機数=3か年平均÷17時間×3時間
最も多い7月で163機となった。
さらに、悪天時に江戸川区上空を飛行する時間数を可視化したのが次図。
上記と同様、3か年平均データをもとに試算すると、羽田新ルートで悪天時にA滑走路到着ルートを通過する時間数は(図の★1水色線)、最も多い7月で約7時間という試算結果となった。
以上から、ざっくり言うと、悪天時にA滑走路到着ルートを通過する飛行機は、最も多い7月で、1か月間に163機、時間数にして約7時間という試算結果となった。
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