不動産ブログ「マンション・チラシの定点観測」

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有料老人ホームの契約解除条項はどうなっているのか?

消費者庁は7月3日、全国で有料老人ホームを運営するHITOWAケアサービスが、入居者との契約を打ち切る場合があるのに明示せず、終身で重度介護を提供するとパンフレットに表示したのは景品表示法違反として、再発防止命令を出した。

景品表示法違反の問題よりも、終の棲家を追い出されることがあり得ることへの驚き。

有料老人ホームの契約解除条項はどうなっているのか調べてみた。


もくじ

老人ホーム、景品表示法違反(ロイター記事)

入居者との契約を打ち切る場合があるのに明示せず、終身で重度介護を提供するとパンフレットに表示したのは景品表示法違反だという。

老人ホーム、景品表示法違反

消費者庁は3日、全国で有料老人ホームを運営するHITOWAケアサービス(東京)が、入居者との契約を打ち切る場合があるのに明示せず、終身で重度介護を提供するとパンフレットに表示したのは景品表示法違反(有料老人ホームに関する不当表示)として、再発防止命令を出した。(中略)
パンフレットに、「終の棲家として暮らせる」「介護度が重い人も過ごせる」と記載した。一方で「従業員に危害を加え、通常の介護方法で防止できないときに契約を解除する」との条件は記載しなかった

(ロイター 7月3日)

 

消費者庁が7月3日に公表した「HITOWAケアサービス株式会社に対する景品表示法に基づく措置命令について [PDF:392KB]」には、再発防止策を講じるよう命じている。

命令の概要

  • ア (略)入居者の状態によっては、当該入居者がイリーゼにおいて終身にわたって居住し、又は介護サービスの提供を受けられない場合があるにもかかわらず、そのことが明りょうに記載されていないものであり、景品表示法に違反するものである旨を一般消費者に周知徹底すること。
  • 再発防止策を講じて、これを役員及び従業員に周知徹底すること。
  • ウ 今後、同様の表示を行わないこと。 

「従業員に危害を加え、通常の介護方法で防止できないときに契約を解除する」との条件の記載がなかったことは、問題視するようなことなのか?

ずぶ濡れの猫を電子レンジで乾かそうとして、爆死。「猫を乾かすために使用してはいけないと取扱説明書に書かれていなかった」メーカーの落ち度が法定で争われた米国の話を思い出してしまった(都市伝説とも言われているが)。

有料老人ホームのチラシのルールは?

マンションチラシに「不動産の表示に関する公正競争規約」という規制ルールがあるように、有料老人ホームのチラシにもルールがある。

有料老人ホームに関する不当な表示」(平成18年公正取引委員会告示第35号)と「『有料老人ホームに関する不当な表示』の運用基準」(平成18年事務総長通達第13号)がこれに当たる。

ただ、「有料老人ホームに関する不当な表示」は、たったの3枚。次の7項目から構成されているが、契約解除への言及は特にない

  • 土地又は建物についての表示
  • 施設又は設備についての表示
  • 居室の利用についての表示
  • 医療機関との協力関係についての表示
  • 介護サービスについての表示
  • 介護職員等についての表示
  • 管理費等についての表示

では、厚労省の文書ではどうなっているのか?

厚労省「有料老人ホームの設置運営標準指導指針」の契約解除事由

厚労省の「有料老人ホームの設置運営標準指導指針」(PDF:257KB)では、契約解除事由は「入居者が一定の要介護状態になったこと」としている。契約解除事由に、従業員危害状態を想定しているようには読めない。

一定の要介護状態になった入居者が、一般居室から介護居室若しくは提携ホームに住み替える契約の場合、入居者が一定の要介護状態になったことを理由として契約を解除する契約の場合、又は、介護居室の入居者の心身の状況に著しい変化があり介護居室を変更する契約の場合にあっては、次の手続を含む一連の手続を入居契約書又は管理規程上明らかにしておくこと。(中略)

  • イ 医師の意見を聴くこと。
  • ロ 本人又は身元引受人等の同意を得ること。
  • ハ 一定の観察期間を設けること。

東京都「有料老人ホーム設置運営指導指針」の契約解除事由

東京都の「有料老人ホーム設置運営指導指針(本文)」(ワード形式)にも、厚労省の同指針と同じ文言が並んでいる。

ただ、厚労省の指針と一つだけ違うのは、なお書きがあること。

なお、サービス付き高齢者向け住宅の登録を受けている場合は、国土交通省・厚生労働省関係高齢者の居住の安定確保に関する法律施行規則第13条の規定により、入居者の病院への入院又は入居者の心身の状況の変化を理由として、居住部分を変更し、又はその契約を解約する規定を入居契約に設けることは認められていないため、本規定は適用除外とする。

サービス付き高齢者向け住宅の場合には、入居者の心身状況の変化を事由とした契約解除は認められていないのである。 

 

では、民間の資料ではどうなっているのか?

全国有料老人ホーム協会の契約解除事由

社団法人全国有料老人ホーム協会などが出している「消費者向けガイドブック-高齢者向け住まいを選ぶ前に-」(PDF:1.8MB)には、事業者からの申し出による契約終了事由として、「他の入居者への迷惑行為」が掲げられている(次図)。

消費者向けガイドブック-高齢者向け住まいを選ぶ前に-
(P8)


「他の入居者への迷惑行為」は契約終了事由にあるが、今回問題となった「従業員への危害」は掲げられていない

入居者への危害はNGだが、従業員への危害はOKなのか?(まさか、そんなことはあるまい)  

では、老人ホームの標準入居契約書では、どうなっているのか?

「有料老人ホーム標準入居契約書」の契約解除事由

たとえば、埼玉県がHPで公開している「住宅型有料老人ホーム標準入居契約書」(ワード形式)にはズバリ、今回の事案のような場合を想定した契約解除条項が明記されている。

第 29 条 事業者は、入居者が次の各号のいずれかに該当し、かつ、そのことが本契約を将来にわたって維持することが社会通念上著しく困難と認められる場合に、本契約を解除することがあります。

  • 1~3(割愛)
  • 4 入居者の行動が、他の入居者又は職員の生命に危害を及ぼし、又はその危害の切迫したおそれがあり、かつ施設における通常の接遇方法等ではこれを防止することができないとき

他の自治体の「老人ホーム標準入居契約書」にも同様の、入居者・職員危害事由による解除条項が見られる

なお、東京都の「老人ホーム標準入居契約書」なるものは、ネット上では見つからなかった(都は標準契約書を作成していないのか?)。

ちなみに、全国有料老人ホーム協会は「有料老人ホーム標準入居契約書及び標準管理規程(5訂版)」を作成しているのだが、無料で公開していない。有料(5千円で販売!)なので、今回確認しなかった。

雑感(解除条項を発動されて追い出される…)

今回金融庁から再発防止命令を受けたHITOWAケアサービスは、「終のすみか」を謳わず、契約書に入居者・職員危害事由による解除条項を明記しておけばよかった、という話なのか?

それでは、入居者・職員危害事由による解除条項を発動されて、老人ホームを放り出された老人はどこへ行けというのだ?

 サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)のような、解除条項のない老人ホームを選べというのか?

解除条項のない老人ホームでは、暴力の可能性のある老人には、薬を処方したり、紐で身体拘束したりして、行動を抑制することが状態化しているということはないのか?

なんだか、考えれば考えるほど、問題の解決が難しいような気がしてくるのだが(ひょっとして、解決策などないのかもしれない)。

これまでの人生でマンション選びに縁のなかった人でも、人生の終盤で、老人ホーム選びをせざるを得ない人は多いのではないのか?

マンション選びのための情報は世の中に溢れているが、老人ホーム選びのための情報は多くはない。

老親のための老人ホーム選びならばまだしも、自分が年老いてから自分のための老人ホームを適切に選ぶことは果たしてできるのだろうか……。

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