第218回臨時国会(25年8月1日~8月5日)の衆議院の質問主意書のなかに、21番目として不動産市場におけマネロンに係る次の質問主意書が埋もれている。
松原仁 衆議院議員(無所属)が8月1日に提出した質問主意書に対する政府答弁書が公開されたのでひも解いてみた。
読みやすいように、一問一答形式に再構成。
※時間のない方は、「質疑応答のポイント」と文末の「雑感」をお読みいただければと。
- 松原仁 衆議院議員(無所属)
- 問1:疑わしい取引の届出件数は何件か?
- 答1:849,861件である
- 問2:疑わしい取引の届出義務、適切に行われている?
- 答2:疑わしい取引の届出を適切に行っているものと認識
- 問3:第4次対日相互審査報告書、どのように指摘したか?
- 答3:マネロン・テロ資金供与リスク、低いレベルの理解
- 問4:疑わしい取引の届出義務の履行徹底、我が国の責務である
- 答4:(疑わしい取引の届出義務の履行徹底)重要である
- 問5:政府は、疎明資料を求めるよう指導すべき
- 答5:引き続き、宅地建物取引業者に対する周知徹底
- 問6:犯罪収益移転防止法上の義務の履行、繰り返し強力に指導していくことが必要
- 答6:引き続き、宅地建物取引業者に対する周知徹底
- 雑感(松原の危機感 vs 政府の通り一遍)
松原仁 衆議院議員(無所属)

(衆議院 予算委員会 24年2月28日 動画より)
松原仁 衆議院議員(9期、立憲民主党⇒無所属、早大商卒、69歳)
産経新聞は、本年7月、日本人を主なターゲットにした交流サイト(SNS)型投資詐欺の詐取金約500億円がマネー・ローンダリングされていた事件で、警視庁等の合同捜査本部が逮捕した男が、不正に得た犯罪収益で購入した日本の不動産を中国人らに売却して2億円以上の利益を得ていたことが捜査関係者への取材により判明した旨を報じた。
我が国の不動産市場に、犯罪収益、犯罪収益に由来する財産又はこれらの財産とこれらの財産以外の財産とが混和した財産(以下「犯罪収益等」という。)が流入していることは、極めて憂慮すべき事態であり、早急に適切な措置が講じられるべきであると考える。
とりわけ、犯罪収益等の不動産市場への流入が不動産価格の高騰を招き、我が国の住宅事情を悪化させている可能性も鑑みる必要があると考える。政府には断固たる措置を求めたい。
現行の不動産取引に係るマネー・ローンダリング対策は、依然として不十分な点が多いと考える。本職が、令和4年3月30日の衆議院外務委員会において指摘したとおり、東京都渋谷区に、米国及び英国から制裁対象に指定されているロシアの財界人が実質的に所有するとされるビルが存在し、ロシアのラブロフ外務大臣も訪問したと報じられている。
しかしながら、当該物件の登記記録からは、所有者として英国領バージン諸島の郵便私書箱を所在地とする法人が登記されていることが確認できるに過ぎない。日本国外において当該英国領バージン諸島籍法人の持分又は株式の全部が移転し、これにより当該ビルの所有権が実質的に移転した場合、我が国当局がその事実を把握する手段は限定されており、我が国の不動産市場を舞台に、巨額のマネー・ローンダリングが行われかねないと考える。
本職は、これまで、「不動産を取得した外国法人の実質的支配者情報の収集に関する質問主意書」(第210回国会質問第18号)を提出し、また、衆議院外務委員会において本問題を取り上げることを通して、本邦で不動産を取得した外国法人の実質的支配者情報の収集体制の構築を政府に求めてきた。
今般、これに加え、犯罪による収益の移転防止に関する法律(平成19年法律第22号)第8条第1項に規定する疑わしい取引の届出義務の履行徹底を図るよう提言する。これは我が国不動産市場におけるマネー・ローンダリングの防止を強力に推進するよう求めるものである。
そこでお尋ねする。
問1:疑わしい取引の届出件数は何件か?
令和6年度に、国家公安委員会及び警察庁が、特定事業者の所管行政庁から通知された疑わしい取引の届出件数は何件か。そのうち、届出事業者が宅地建物取引業者である年間の通知件数は何件か。
また、宅地建物取引業者を届出事業者とする通知件数は全体の何パーセントを占めるか、それぞれ明らかにされたい。
答1:849,861件である
お尋ねの件数については暦年で把握しており、令和6年1月1日から同年12月31日までの間に、犯罪による収益の移転防止に関する法律(平成19年法律第22号。以下「法」という。)第8条第5項及び第6項の規定に基づき国家公安委員会に通知された疑わしい取引の届出又は同条第5項の通知に係る事項の件数は、849,861件である。
このうち、宅地建物取引業者(法第2条第2項第42号に掲げる宅地建物取引業者をいう。以下同じ。)からの届出に係るものは25件であり、当該件数の全体に占める割合は約0.0029%である。
問2:疑わしい取引の届出義務、適切に行われている?
政府は、宅地建物取引業者による疑わしい取引の届出義務の履行が全体として適切に行われていると認識しているか、見解如何。
答2:疑わしい取引の届出を適切に行っているものと認識
お尋ねの「全体として」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、国土交通省としては、「宅地建物取引業におけるマネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」(令和4年10月31日国土交通省策定。以下「ガイドライン」という。)において、「疑わしい取引の届出は、犯収法第8条第1項に定める法律上の義務であり、同法の「特定事業者」に該当する宅地建物取引業者が、同法に則って、届出等の義務を果たすことは当然である。」と示しているところであり、宅地建物取引業者は、ガイドラインを踏まえて、法第8条第1項に規定する疑わしい取引の届出を適切に行っているものと認識している。
問3:第4次対日相互審査報告書、どのように指摘したか?
令和3年に公表された、FATF(金融活動作業部会)による第4次対日相互審査報告書は、宅地建物取引業者を含む特定非金融業者及び職業専門家のマネー・ローンダリングのリスクへの理解について、どのように指摘したか、明らかにされたい。
答3:マネロン・テロ資金供与リスク、低いレベルの理解
38の国及び地域並びに2つの国際的な機関が参加するマネー・ローンダリング等に関する金融活動作業部会が令和3年8月に公表したご指摘の「第4次対日相互審査報告書」においては、ご指摘の「特定非金融業者及び職業専門家」について、「彼らが晒されているマネロン・テロ資金供与リスクについて低いレベルの理解しか有していない。」(仮訳)とされている。
問4:疑わしい取引の届出義務の履行徹底、我が国の責務である
宅地建物取引業者による疑わしい取引の届出義務の履行徹底を図ることは、FATF勧告等に基づく我が国の責務であると考えるが、政府の見解如何。
答4:(疑わしい取引の届出義務の履行徹底)重要である
お尋ねの「我が国の責務」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、ご指摘の「宅地建物取引業者による疑わしい取引の届出義務の履行徹底を図ること」は重要であると考えている。
問5:政府は、疎明資料を求めるよう指導すべき
近年、富裕層向け資産管理サービス(ウェルスマネジメント又はプライベートバンキング)を手がける欧米の金融機関は、顧客からの資金受入れに際し、資金の源泉について詳細に質問し、必要に応じて疎明資料を求めるようになったと承知している。
※筆者注:疎明資料とは、本人以外が証明書(住民票や戸籍謄本など)を請求する際に、請求理由や請求者と対象者の関係性を証明するための資料のこと
宅地建物取引業者が外国人又は外国法人と取引をする場合、いわゆる反社チェックが機能せずリスク評価が困難な場合が多いことから、政府は、資金の源泉について詳細に質問し、疎明資料を求めるよう指導すべきであると考えるが、見解如何。
答5:引き続き、宅地建物取引業者に対する周知徹底
お尋ねの「いわゆる反社チェックが機能せず」及び「疎明資料」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、宅地建物取引業者によるマネー・ローンダリング対策の実効性の確保を図るためには、宅地建物取引業者が、取引において収受した財産について、犯罪による収益である疑いがあるかどうか等を自ら適切に評価等することが重要であるところ、国土交通省としては、ガイドラインにおいて、顧客等との取引に当たっては、「顧客及びその実質的支配者の職業・事業内容のほか、例えば、経歴、資産・収入の状況や資金源、居住国等、顧客が取引する不動産等、顧客に関する様々な情報を勘案」するよう示す等して、宅地建物取引業者が顧客等の資金源の情報も踏まえて適切に当該評価等を行うよう求めているところであり、引き続き、宅地建物取引業者に対する周知徹底を図ってまいりたい。
問6:犯罪収益移転防止法上の義務の履行、繰り返し強力に指導していくことが必要
公益財団法人不動産流通推進センターが公表した令和5年度の統計によれば、宅地建物取引業者の約7割は資本金1,000万円未満の法人であり、銀行等の金融機関と比較して小規模事業者が多数を占める状況にある。
このような業界構造の特性を踏まえると、宅地建物取引業者によるマネー・ローンダリング対策の実効性を確保するためには、資金の源泉に関する質問事項を含む具体的な対応マニュアルを政府が作成するとともに、犯罪収益移転防止法上の義務の履行を繰り返し強力に指導していくことが必要と考えるが、見解如何。
答6:引き続き、宅地建物取引業者に対する周知徹底
お尋ねの「繰り返し強力に指導」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、答5で述べたとおり、国土交通省としては、ガイドラインを策定する等して、宅地建物取引業者に対して、取引において収受した財産について、犯罪による収益である疑いがあるかどうか等を自ら適切に評価等するよう求めているところであり、現時点においては、ガイドライン以外のお尋ねの「対応マニュアル」の作成については考えていないが、引き続き、宅地建物取引業者に対する周知徹底を図ってまいりたい。
雑感(松原の危機感 vs 政府の通り一遍)
松原仁議員の主張は一貫している。不動産市場に流入する犯罪収益が住宅価格を押し上げ、国民生活を直撃しかねない――その危機感である。
登記簿に浮かぶのはバージン諸島の郵便私書箱。実質的支配者は闇に隠れ、マネー・ローンダリングの温床となる。こうした問題を国会で粘り強く問いただし、届出義務の徹底や資金源の疎明を求める姿勢は評価に値する。
一方で、政府答弁はどうか。「疑わしい取引の届出は適切に行われているものと認識」「ガイドラインに示している」「周知徹底を図ってまいりたい」――言葉は繰り返されるが、踏み込んだ対応は見えてこない。届出件数のうち宅建業者の割合はわずか0.0029%。数字が示す深刻さに比して、答弁はあまりに平板である。
結局のところ、問題の核心は「外国法人の実質的支配者をどう把握するか」という一点に尽きる。ここを曖昧にしたままでは、東京の一等地がいつまでも資金洗浄の舞台であり続けるだろう。松原議員の問いは鋭い。だが政府の答えは、残念ながら書類仕事の域を出ていない。
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