日本原子力研究所研究員を経てカリフォルニア大学に留学という異色のキャリアを持つ高嶋哲夫氏の新著『チェーン・ディザスターズ』集英社(2024/11/5) を読了。
『「首都感染」後の日本』や『首都感染』、『首都崩壊』など、大規模災害に係る多数のヒット小説を生み出した、高嶋哲夫氏による複合災害シミュレーション小説。
既に引退した元民自党の大物議員の娘、早乙女美来(33歳、 高知県1区、衆議院議員)が物語の主人公。長身で無精ひげの、ネクスト・アースのCEO・利根崎の助けを借りて、絶望的な状況に立ち向かう。
※朱書きは、私のメモ。
第一の危機、南海トラフ巨大地震
美来が父親の代から秘書を務める津村と高知の沿岸部を歩くシーン。
美来と津村はそのまま海岸通りを歩いた。前方に人だかりが見える。
近づくと巨大な津波避難タワーが中ほどで90度近く折れ曲がっている。辺りは瓦礫で埋もれ、近づくのも困難だ。
「何か起こったんです」
美来は横に立っていた男に聞いた。
「津波避難タワーに船がぶつかったんだ。津波じゃ壊れなかったが、あんな船が突っ込んできたんだ」
船尾がタワーに引っかかって横倒しになっている船は、50メートル近くある貨物船だ。その船にも家の屋根や流木や家電製品が絡まっていた。
「タワーに避難していた人はどうなったんですか」
「あんたバカか。分かるだろ。みんな沖に持って行かれた。3百人はいたよ。この辺りは30メートルを超える津波が襲ってるんだ。それも、3回。また来るって話もある」
男は津波避難タワーから沖合に視線を移した。眼の奥には怯えと憤りが張りついている。(P57/第1章 第一の危機)
※貨物船のような巨大な物体が津波で流されてきて津波避難タワーに衝突するようなリスクは一応想定されているようではあるが……。
- 「6.5 津波避難ビルの構造設計法に関する検討」>「6.5.7漂流物への対処方法」 - 建築研究所
一般には、衝突によって複数の柱が同時に破壊される状況は考慮しなくて良いが、船舶のような大型の漂流物が考えられる場合には、建築物の外周の柱が破壊しても建築物か倒壊しないことを確認する方法や、漂流物が建築物に衝突しないよう防護設備や施設を設けるといった計画面からの対策も考えられる。
第二の危機、首都直下地震
南海トラフ地震で関東の地盤が緩んでいたところに、首都直下地震が発生。政府の被害想定の倍の死者が出ているという利根崎の電話に言葉を失う美来。
美来はマナーモードにしてポケットにしまうと、県の職員たちに向かって声を上げた。
「東京で直下型地震が発生しました。これで、政府は頼れません。東京は東京。まず、ここであなたたちができることに全力投球して。他のことはそれが終わってから」
再度、スマホが震え始める。利根崎だ。
〈東京は震度7、マグニチュード9に近いそうだ〉
「マグニチュードは不明と聞いてる」
〈義理の兄が地震学者だ。政府の被害想定よりかなり人きい。まず南海トラフ地震で関東の地盤が緩み、長周期地震動で建物の耐震強度も落ちてたと言ってた。そこに今度の震度7の揺れで倒壊した高層ビルもある。すでに5万人の死者が出てる〉
美来は言葉を失っていた。政府の被害想定は死者2万3千人だ。すでに倍以上の死者が出ている。おそらくもっと増える。(P83-84/第2章 第二の危機)
※首都直下地震によるタワマンの被害想定。結果次第では、タワマンへの売れ行きに影響しかねない。政府にとって、被害想定は困難なのではなく、被害想定はしたくないということなのではないのか。
最大の危機、富士山の大噴火
利根崎の義理の兄でもある地震学者の服部雄太 東都大学地震研究所准教授が富士山噴火の最悪のシナリオを美来に伝える。
服部は考え込んでいる。数分がすぎてやっと口を開いた。
「宝永大噴火よりもひどいと思います。宝永地震より今回の二つの地震は激しかった。富士山は前の噴火から2百年間、噴火をしていない。かなりのマグマが溜まっているはずです。今川はプレートにかなりのゆるみが出来ています。噴煙は上空10キロまで立ち上り、噴石は山頂から半径3キロから5キロの範囲にまで到達します。火砕流が麓の町を襲います。静岡側かもっとも危ない。火砕流の速度は時速100キロにも達します。人の足では逃げ切れません。早めの避難が必要です。さらなる問題は火山灰です。偏西風に乗って、千葉県にまで広がります。東京に降り積もりながら」
服部は火山灰の怖さについて説明した。細かいガラスの粒で、人体に影響を与えること。目に入ってこすると、眼球を傷付けることになる。パソコンなど精密機器に入り込み、動作不良を起こす原因にもなることなどを話した。
「交通も大きな影響を受けます。5ミリ積もると普通の車は運転できません。道路は動けなくなった車で大渋滞を起こします。電車も送電線と線路に大きなトラブルが起こります。さらに高圧電線や変電器につくとショートを起こし、停電や火災を引き起こします」
服部の声が不気味に響いた。淡々と話してはいるか、どれも美来の心を凍らせ暗くさせるものばかりだ。(P287/第4章 最大の危機)
※富士山の噴火に対して個人でできることは、火山灰から目や呼吸器を守るためのゴーグルとマスクを準備しておくことくらい。我が家では3年前にAmazonで「TRUSCOセーフティゴーグ」を購入(税込み800円)。

本書の構成
5章構成。全395頁。
- 第1章 第一の危機
- 第2章 第二の危機
- 第3章 新しい風
- 第4章 最大の危機
- 第5章 未来へ
Amazon⇒『チェーン・ディザスターズ』
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