不動産ブログ「マンション・チラシの定点観測」

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朝日の購読料改定の影響、部数減が1割を超えると売上高にマイナス効果

朝日新聞社は5月26日、2023年3月期の連結決算を発表。

今期の決算はどうだったのか。5月1日からの4900円への値上げの影響は今後どうなるのか。

朝日新聞社が6月26日に提出した「有価証券報告書-第170期(2022/04/01-2023/03/31)」をひも解いてみた。


もくじ

朝日新聞社の3月期決算、2年ぶり営業赤字(朝日記事)

朝日新聞は5月27日、23年3月期連結決算で2年ぶりの赤字だったことを自ら報じている。

朝日新聞社の3月期決算、2年ぶり営業赤字 純損益は黒字

朝日新聞社が26日発表した2023年3月期連結決算は、売上高が前年比2.0%減の2670億3100万円、営業損益が4億1900万円の赤字となった。営業赤字は2年ぶり。

新聞部数の減少に伴う減収に加え、新聞用紙などの原材料の高騰、水道光熱費の増加などで支出が増えた。純損益は、グループ企業への投資利益などで25億9200万円の黒字を確保した。(以下略)

(朝日新聞 23年5月27日)

朝日新聞は不動産事業に支えられている

大手4紙のなかで唯一、有価証券報告書を公開している朝日新聞社の経営状況を確認してみよう。

EDINETで入手可能な有価証券報告書をひも解き、朝日新聞社の収益構造を調べてみると、同社は新聞出版事業者というよりも不動産屋であることがよく分かる。

セグメント別の売上高の推移

セグメント別の売上高の推移をみると、メディア・コンテンツ事業(旧 新聞出版事業)が圧倒的に多いが、年々減少している。一方、不動産事業は、年々増加している。ただ、21年3月期は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け減少した(次図)。

セグメント別の売上高(朝日新聞 連結)

セグメント別の利益額・率の推移

メディア・コンテンツ事業は、利益額でみると、17年3月期以降50億円を超えることはなく、20年3月期、21年3月期と2年連続マイナスに沈み、22年3月期に2年ぶりに黒字になったのだが、23年3月期再びマイナスに沈む。また、利益率は2%を超えることはなく、23年3月期は▲3.1%まで落ち込んだ(次図)。

一方、不動産事業のほうは、利益額は20年3月期にピーク(74億円)を記録したあと、21年3月期52億円、22年3月期50億円と減少したが、23年3月期は66億円まで戻した。利益率は21年3月期18.1%、22年3月期16.5%と減少したが、23年3月期19.2%まで戻した。

23年3月期は、不動産事業がメディア・コンテンツ事業の赤字をカバーできなかった

セグメント別の利益額・利益率(朝日新聞 連結)

従業員数・給与の推移

朝日新聞の厳しい経営環境は従業員数と給与にも暗い影を落としている。

朝日新聞グループとしてはこれまで、メディア・コンテンツ事業に係る従業員数は7千人を超えていたのだが(臨時従業員を含む)、メディア・コンテンツ事業が20年3月期に大赤字になった翌年以降、毎年削減されている(次図)。

メディア・コンテンツ事業に係る従業員数の推移(朝日新聞社)

 

社員は徐々に高齢化しているものの、平均年間給与はこの11年間で約140万円(▲10.9%)下がっている(次図)。

年齢と給与の推移(朝日新聞社 単体)
※年齢・給与データは、3つのセグメント(メディア・コンテンツ事業、不動産事業、その他の事業)の平均値。

朝日新聞による自己分析:朝デジのダブルコース、購読者増に寄与

このようなメディア・コンテンツ事業(旧 新聞出版事業)の厳しい状況を朝日新聞社はどのようにとらえているのか。

有価証券報告書-第170期(2022/04/01-2023/03/31)に「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」が記されているので、一部抜粋しておこう。

朝日新聞デジタルのダブルコースにアップセルする割合は高く、購読者増に寄与しているとはいうものの、セグメント損失は7,047百万円と前年同期の利益4,466百万円から損失に転じたとしている。

メディア・コンテンツ事業

(前略)

朝日新聞デジタルは、課金・広告収入増を狙い、22年8月に会員限定記事が月5本まで無料で読める無料会員制度を廃止した。代わりに、23年2月に会員限定記事を知人らにメールやSNSで共有できる「プレゼント機能」、同年3月にスマホアプリから簡単に有料購読申し込みができる「アプリ内課金」を導入した。「LINE News AWARDS」のニュース報道部門では、昨年に続き5回目となる大賞を獲得した。また、「バーチャル高校野球」は、スポーツブル(㈱運動通信社)に加え、スポーツナビ(ヤフー㈱)にも配信を拡大し、大幅な増収増益を実現した。

朝日新聞の年間平均部数は399万1千部、夕刊123万7千部(前期比で朝刊56万6千部減、夕刊10万5千部減)と部数減がさらに進んだ。22年7月にASAとの取引制度の見直しを行い、ASAの意向を反映させた制度とした。また、エリア戦略における他紙との複合化、連携は順調に進んでいる。販売会社は4社を解散させ17社となった。地方紙に営業権を譲渡したほか、隣接の専売ASAの経営規模拡大を図った

21年10月に導入した本紙購読者が登録できる紙面ビューアーコースの会員は、23年3月末(18カ月)で17万8千人を超えた。新聞購読の維持だけでなく会員が朝日新聞デジタル(朝デジ)のダブルコースにアップセルする割合は高く、購読者増に寄与している。さらに23年3月からASAが新聞購読止め読者を「朝日新聞デジタル」に誘導する取り組みを本格化させている

メディアビジネス扱総収入は前年同期をやや下回ったが、コロナ禍で大幅減となった前々期並みで推移した。コロナ禍で不調だった旅行・レジャーなどが復調し、22年7月投開票の参院選の広告料収入はほぼ前回(2019年)並みを確保した

 (中略)

当セグメントの売上高は229,923百万円と前年同期と比べ9,314百万円(△3.9%)の減収、セグメント損失は7,047百万円と前年同期の利益4,466百万円から損失に転じた

購読料改定の影響、部数減が1割を超えると売上高にマイナス効果

朝日新聞は4月5日、原材料の高騰などを理由に5月1日から購読料を値上げすると発表。

本紙購読料改定のお知らせ

朝日新聞社は5月1日、本紙の月ぎめ購読料を、朝夕刊セット版で4400円から4900円に、統合版は3500円から4000円(いずれも消費税込み)に、それぞれ改定いたします。

新聞用紙など原材料が高騰し、読者のみなさまにお届けする経費も増加しています。コスト削減を続けていますが、報道の質を維持し、新聞を安定発行するため、ご負担をお願いせざるをえなくなりました。物価高が続く中で心苦しい限りですが、ご理解をお願いします。(以下略)

2年前に363円(4,037円⇒4,400円)値上げ。今回は500円の値上げとはいえ、朝夕刊セット版で月額4,900円の出費は庶民にとって小さくはない。

 

さて、この値上げは、メディア・コンテンツ事業の売上高の増加に貢献するのか。

簡単なシミュレーションをしてみた。

有価証券報告書の「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」によれば、朝日新聞の年間平均部数は22年度は339万1千部。値上げによって売上高が増加するのは改訂後の部数減が10%までに収まった場合だ。部数減が1割を超えるとマイナス効果になってしまう(次図)。

購読料値上げによる売上高への影響シミュレーション

 

今回の購読料の改定だけでは、メディア・コンテンツ事業の売上高を安定的に確保していくことは厳しそう。

なぜならば、朝日新聞の発行部数は減少し続けているからである(次図)。

発行部数の推移

 

(雑感)

筆者は長年の愛読者として、最近の朝日新聞は読みごたえがなくなったと感じている。専門的な内容であれば、その分野を熟知したブロガーの記事のほうがはるかに読みごたえがあるのだ。

朝日新聞の強みは、一個人では対応が困難な調査記事と、難しいことを分かりやすく伝えられる編集能力だと思う。これらの強みを活かしたうえで、もっと収益性を高められるようなビジネスモデルの構築がなければ、朝日新聞が生き残るのは厳しいのではないか……。

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2024年6月1日、このブログ開設から20周年を迎えました (^_^)/
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