不動産ブログ「マンション・チラシの定点観測」

首都圏を中心に、マンション選びのためのお役立ち情報を提供しています


不動産を取得した外国法人に対して実質的支配者の報告を義務化できるか(政府回答)

第210回国会(22年10月3日~12月10日)の衆議院の質問主意書22件のなかに、18番目として不動産に係る次の質問主意書が埋もれている(11月3日現在)。

松原仁 衆議院議員が10月19日に提出した質問主意書に対する政府答弁書(10月28日)が公開されたのでひも解いてみた。

読みやすいように、一問一答形式に再構成しておいた。
※時間のない方は、「質疑応答のポイント」と文末の「まとめ」をお読みいただければと。


質疑応答のポイント

松原仁衆議院議員
松原仁 衆議院議員(8期、立憲民主党、早大商卒、66歳)

不動産を取得した外国法人の実質的支配者情報の収集

英国は本年8月1日、2022年経済犯罪(透明性及び執行)法の規定に基づく新たな外国法人登記制度を施行させた。

イングランド及びウェールズでは、平成11年以降に不動産を取得して保有する外国法人は、基本的に英国の法人登記所での登記を義務付けられ、実質的支配者情報の申請を求められることとなった。

登記懈怠や虚偽申請に罰則が定められている他、未登記の外国法人は令和5年2月以降に不動産の移転登記を行えなくなったことで、実効性が担保されている。英国の専門家によれば、対ロシア制裁を効果的に実施する必要が生じ、同制度の施行が早まったとのことである。


一方、本邦で不動産を取得した外国法人の実質的支配者情報の収集体制は、大きな問題があると言わざるを得ない。

本職が、本年3月30日に開かれた衆議院外務委員会で指摘したように、不動産を取得した外国法人は、公的機関に実質的支配者を報告する義務を課されていない


本年の外交青書が述べたように、我が国の周辺には、強大な軍事力を有する国家が集中し、軍事力の更なる強化や軍事活動の活発化が顕著となっており、我が国を取り巻く安全保障環境は格段に速いスピードで厳しさと不確実性を増している。

そこで、外国為替及び外国貿易法(昭和24年法律第228号)の規定に基づく経済制裁措置を、抑止力として積極的に活用すべきと考える。

我が国に対して武力による威嚇又は武力の行使を行おうとする国の政府高官等が、我が国に保有するいわゆる隠し財産を把握しておけば、不法な行動を思いとどまらせる抑止力になり得る。

また、重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律(令和3年法律第84号)の規定に基づく調査を実施するためには、土地等を所有する法人の実質的支配者情報が必要となる。

さらに、中華人民共和国が近年、海外の港湾施設を支配下に収める目的で組織的な投融資活動を行っていると度々指摘されていることからも、対内直接投資の実態を把握できるようにする必要がある。

外国法人の実質的支配者情報の収集は、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策の観点ばかりでなく、我が国の平和及び安全の維持のためにも、極めて重要といえる。

それらを踏まえ、以下、質問する。

問1:ロシアの団体・個人所有等、凍結した不動産の市価の合計?

我が国は現在、ウラジーミル・プーチン大統領やセルゲイ・ラブロフ外務大臣を含む多数のロシア連邦の団体及び個人を、資産凍結等の措置の対象として指定している。

本年2月24日以降、資産凍結対象のロシア連邦の団体又は個人が所有等しているとして、資本取引を行うことについて許可を受ける義務を課した不動産は、土地・建物それぞれ何個あるか

また、凍結した不動産の市価の合計は、凡そ幾らくらいか。政府の把握しているところを述べられたい。

答1:お答えすることは困難

お尋ねの「資本取引を行うことについて許可を受ける義務を課した不動産」及び「凍結した不動産」の意味するところが明らかではないため、お答えすることは困難である。

問2:「FATF勧告」、法人の実質的支配者情報について?

金融活動作業部会「FATF勧告」は、マネー・ローンダリング又はテロ資金供与のための法人の悪用を防止するため、各国は法人の実質的支配者情報について、どのようにせよと勧告しているか。政府の把握しているところを述べられたい。

答2:「十分で、正確なかつ時宜を得た情報を入手すること・・・」と勧告

37の国及び地域並びに2つの国際的な機関が参加するマネー・ローンダリング等に関する金融活動作業部会(以下「FATF」という。)のマネー・ローンダリングに関する勧告においては、お尋ねの「法人の実質的支配者情報」について、「各国は、権限ある当局が、適時に、法人の受益所有及び支配について、十分で、正確なかつ時宜を得た情報を入手することができ、又はそのような情報にアクセスできることを確保すべきである。」(仮訳)とされている。

問3:金融活動作業部会、課題を指摘?

金融活動作業部会の第4次対日相互審査報告書(令和3年8月30日公表)は、法人の透明性と実質的支配者情報に関して、課題を指摘したか。指摘したとするなら、どのような指摘であったか。

答3:法人制度が悪用されることの防止等について優先的に取り組む必要がある旨の指摘

FATFが令和3年8月に公表した対日相互審査の評価において、我が国のマネー・ローンダリング対策等は、全体として成果を上げていると評価された一方で、法人制度が悪用されることの防止等について優先的に取り組む必要がある旨の指摘を受けた

具体的には、例えば、「法人について、正確かつ最新の実質的支配者情報はまだ一様に得られていない。」(仮訳)とされたところである。

問4:十分な法人の実質的支配者把握がなされている?

現行、株式会社(特例有限会社を含む)、一般社団法人及び一般財団法人を設立する際、公証人による定款認証がなされる際、「実質的支配者となるべき者の申告書(又はその写し)」の提出が求められているが、「FATF勧告」や第4次対日相互審査報告書の趣旨から十分な法人の実質的支配者把握がなされていると、政府として認識しているか

また、十分でないと認識している場合、今後、どのように法人の実質的支配者把握を進めていく予定であるか。政府の見解如何。

答4:法人の実質的支配者情報の一元的、継続的かつ正確な把握を可能とする枠組みに関する制度整備に向けた検討を進める

お尋ねの「「FATF勧告」や第4次対日相互審査報告書の趣旨」の具体的に意味するところが明らかではないため、お答えすることは困難であるが、政府としては、「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策の推進に関する基本方針」(令和4年5月19日マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策政策会議決定)に基づき、令和4年1月に運用が開始された実質的支配者リスト制度の利用促進を図るとともに、法人の実質的支配者情報の一元的、継続的かつ正確な把握を可能とする枠組みに関する制度整備に向けた検討を進めることとしている。

問5:外国法人の実質的支配者の変更による不動産の実質的な所有権移転、把握困難

英国の2022年経済犯罪(透明性及び執行)法は、英国で不動産を取得した外国法人に対して、基本的に毎年、実質的支配者を含む法人登記を更新することを求めている。

一方、我が国の宅地建物取引業者は、犯罪による収益の移転防止に関する法律(平成19年法律第22号)の規定に基づき、取引を行う顧客等が法人である場合において、実質的支配者等の確認を行うことを義務付けられているが、取引が終了した後は、当然のことながら、実質的支配者の変更を確認することを求められていない

そのため、外国法人の実質的支配者の変更による不動産の実質的な所有権移転があった場合に、これを把握することは極めて困難である。

不動産の登記名義人となっているいわゆるペーパーカンパニーを売買することで、実質的支配者情報を開示することなく、かつ所有権移転登記を伴わず、巨額の資産を移転できることが、マネー・ローンダリング又はテロ資金供与のため悪用される危険性があると考えるが、政府の見解如何。

答5(&6):答4に同じ

(後述)

問6:実質的支配者及びその変更の報告を義務付け

不動産を取得した外国法人に対して、実質的支配者及びその変更の報告を義務付け、報告懈怠や虚偽報告に厳しい罰則を定めるべきと考えるが、政府の見解如何。

答(5&)6:答4に同じ

御指摘の「外国法人の実質的支配者の変更による不動産の実質的な所有権移転があった場合」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、国際的な議論においては、各国に対して、法人の透明性を向上させ、法人制度が悪用されることを防止する観点から、法人の実質的支配者情報を把握する制度の構築が求められているものと認識しており、政府としては、4について(答4)で述べたとおり、「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策の推進に関する基本方針」に基づき、令和4年1月に運用が開始された実質的支配者リスト制度の利用促進を図るとともに、法人の実質的支配者情報の一元的、継続的かつ正確な把握を可能とする枠組みに関する制度整備に向けた検討を進めることとしている

まとめ

日本では不動産を取得した外国法人は、公的機関に実質的支配者を報告する義務を課されていない。「外国法人の実質的支配者情報の収集は、マネー・ローンダリングとテロ資金供与対策の観点ばかりでなく、我が国の平和及び安全の維持のためにも、極めて重要」だという松原仁 衆議院議員の指摘。

これに対して、政府は、①今年の1月に運用が開始された「実質的支配者リスト制度」の利用促進を図ること②法人の実質的支配者情報の一元的、継続的かつ正確な把握を可能とする枠組みに関する制度整備に向けた検討を進めること、と答弁している。

※制度整備に向けた検討を進めることって、後手後手な印象(個人の意見)。

あわせて読みたい

2023年6月1日、このブログ開設から19周年を迎えました (^_^)/
Copyright(C)マンション・チラシの定点観測. All rights reserved.