国交省は、大手事業者が建てる新築分譲マンションに求める省エネ目標を、2026年度から厳しくする方針を決めたという。
一体どういうことなのか。この方針を決めた有識者会議の資料をひも解いてみよう。
新築マンション、省エネ基準強化 大手対象(朝日記事)
国交省は、大手事業者が建てる新築分譲マンションに求める省エネ目標を、2026年度から厳しくする方針を決めたという。
新築マンション、省エネ基準強化 大手対象、26年度から
国土交通省は、大手事業者が建てる新築分譲マンションに求める省エネ目標を、2026年度から厳しくする方針を決めた。建物の断熱性能や冷暖房の効率を高めることなどで、エネルギー消費を今の省エネ基準より平均2割減らすことを努力義務とする。
11日の有識者会議でおおむね了承を得た。(以下略)
(朝日新聞 7月13日)
建築物エネルギー消費性能基準等WG/小委員会での議論
朝日新聞が報じた有識者会議とは、7月11日に開催された「第17回 総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会 省エネルギー小委員会 建築物エネルギー消費性能基準等ワーキンググループ及び社会資本整備審議会建築分科会建築環境部会建築物エネルギー消費性能基準等小委員会 合同会議」のこと。
こんなに長い会議名称になっている理由は、経産省と国交省のそれぞれの検討体制による合同会議だから。
検討体制につき、経産省は「WG」、国交省は「小員会」。議論は経産省と国交省の2省合同で検討される事項と国交省単独で検討される事項に分かれている(次表)。
じつは7月11日に開催された第17回会議に先立ち、6月29日に第16回会議が開催されている。
第16回会議では、事務局作成案に対して有識者らから質問や要望など出された。第17回会議では、第16回に出された質問や要望などが「指摘事項」として整理され、それぞれに対して事務局の「考え方」が示されたのである。
当日の会議状況については、YouTube動画に公開されている(第16回、第17回)。
以下、共同住宅(≒マンション)に係る気になる「指摘事項」と事務局の「考え方」につき、経産省・国交省合同会議と国交省単独会議ごとに整理する。
経産省・国交省合同会議:目標年度2026年度、BEI=0.8 、強化外皮基準
事務局の基準案として、「目標年度2026年度、BEI=0.8 、強化外皮基準」が提示された。
※第16回会議 資料4(①分譲マンションの住宅トップランナー基準について)P5より
「あり方検討会」では、「目標年度2027年度、BEI=0.8程度、強化外皮基準」としていたところ、大手事業者の分譲マンションのZEH化に関する動向を踏まえ、より早期に省エネ性能の引上げを図るべく、「目標年度2026年度、BEI=0.8 、強化外皮基準」とする。
対象となるのは年間1,000戸以上を供給する大手事業者の分譲マンション。
対象とする事業者の年間供給戸数に係る要件は、分譲マンションの供給戸数の概ね半数がカバーされる程度の水準として、年間1,000戸以上とする(2020年:48.2%(13社)、2019年:52.5%(16社)、2018年:59.8%(21社)※不動産経済研究所資料より)。
分譲マンションに高い省エネ性能が求められる事務局案に対して、 有識者からは市場への影響を心配する声、不動産協会からは泣きが入っていることが分かる。
事務局案に対して、委員とオブザーバーからの意見・要望、事務局の「考え方」のうち、主なものを以下に示す。
※配布資料では「★ 委員指摘事項、● オブザーバー指摘事項」と発言者が匿名化されていたが、以下はYouTube動画と突合し、具体的な発言者名に置き換えた。
※第17回会議の資料2(前回の2省合同会議での指摘事項について)P1より
- 今後、水準を見直していく際には、大手事業者の動向はもちろん、市場全体の状況も踏まえつつ水準を検討いただきたい。
(委員:中村美紀子 住環境計画研究所 主席研究員)
⇒【考え方】ご指摘を踏まえて対応する。- 住宅の販売価格が高騰している中、更に販売価格が高くなることで、市場が付いてこられなくなることがないよう、補助金制度を設けるなど、各省が連携して、省エネ住宅の普及に向けた制度づくりを進めて行って欲しい。
(委員:望月悦子 千葉工業大学 創造工学部建築学科 教授)
今後、本制度を進めるにあたり、住宅ローン控除等、全方位的な取り組み促進策について政策措置をお願いしたい。
(オブザーバー:鈴木康史 不動産協会 環境委員会 委員長)
⇒【考え方】ZEH水準の省エネ性能を満たす住宅については、従来より、経済産業省・環境省と連携して支援を行うとともに、今年度より、住宅ローン減税における借入限度額の上乗せや住宅金融支援機構のフラット35における金利優遇等も措置したところであり、引き続き、こうした支援を行ってまいりたい。
国交省単独会議: ZEH水準を上回る断熱等級(等級6、等級7)を新設
事務局案として、戸建住宅と同様に、共同住宅等について、 ZEH水準を上回る断熱等級(等級6、等級7)を新設することが提示された。
※第16回会議 資料10(⑦共同住宅等の外皮性能に係るZEH水準を上回る等級について)P1より
共同住宅等の外皮性能に係るZEH水準を上回る等級について
住宅品確法に基づく住宅性能表示制度に関し、戸建住宅と同様に、共同住宅等について、 ZEH水準を上回る断熱等級(等級6、等級7)を新設する。
各等級の水準は、住戸間の熱損失の合理化と暖冷房にかかる一次エネルギー消費量の削減率(概ね30%削減、概ね40%削減)を踏まえ、戸建住宅の等級と同等の水準とする
ZEH水準を上回る断熱等級(等級6、等級7)が新設された事務局案に対して、業界関係者からは「非常に厳しい水準」「現実離れしている」といった厳しい意見が寄せられた。
※配布資料では「★ 委員指摘事項、● オブザーバー指摘事項」と発言者が匿名化されていたが、以下はYouTube動画と突合し、具体的な発言者名に置き換えた。
※第17回会議の資料4(前回の国交省会議での指摘事項について)P4より
- 共同断熱等級6、7は非常に厳しい水準。
(オブザーバー:鈴木康史 不動産協会 環境委員会 委員長)
(オブザーバー:髙井啓明 日本建設業連合会 サステナブル建築専門部会 主査)- 特に、等級7の仕様例として外壁の両面断熱が示されているが、RC分譲マンションとては現実離れしている。
(オブザーバー:鈴木康史 不動産協会 環境委員会 委員長)
⇒【考え方】「中長期的に達成可能な水準」という観点から設定している。上位等級を設けることで、民間事業者において新しい製品や技術が開発されることを期待している。
公布・施行予定時期
7項目の検討事項につき、パブリックコメントを実施したあと、今年の秋頃に公布される予定(次表、再掲)。
7項目のうち、「分譲マンションの住宅トップランナー基準」と「 共同住宅等の外皮性能に係るZEH水準を上回る等級」の施行時期は23年春頃の予定とされている。
まとめ
経産省と国交省の合同会議(一部は国交省単独会議)は7月11日、大手事業者が建てる新築分譲マンションに求める省エネ目標を、2026年度から厳しくする方針を決めた。
年間1,000戸以上を供給する大手事業者の分譲マンションを対象に、2026年度を目標に一次エネルギー消費量基準(BEI)0.8以下、省エネ基準の外皮基準を「強化外皮基準」(=誘導基準の水準)に引き上げる方針。有識者からは市場への影響を心配する声、不動産協会からは泣きが入っている。
また、国交省単独の検討会では、共同住宅等に対して、ZEH水準を上回る断熱等級(等級6、等級7)が新設される方針も示された。業界関係者からは「非常に厳しい水準」「現実離れしている」といった厳しい意見が寄せられた。
上記2つの方針については、今後パブコメを経て、今年の秋頃に公布、来年春頃に施行される予定。
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