新型コロナの影響で収入が減少し、住宅ローンが払えなくなくなる人が増えてきているのではないのか。実際にローン破たんした人の状況はテレビなどでたまに見かけるが、公的な統計データは見当たらない。
数少ない公的データとして、日本弁護士連合会が92年からほぼ3年おきに実施している全国の「破産事件及び個人再生事件記録調査」には住宅購入に起因する破産件数が掲載されている。17年の調査結果は公表されているが、20年の調査結果はまだ公表されていない(21年9月7日現在)。
※20年の調査結果が21年12月28日に公開された。
金融庁や日銀、全国銀行協会(全銀協)のホームページには住宅ローン破たん件数は開示されていない。お金を管理する側としては、住宅ローンの破たん状況をあまり知られたくないということなのだろうか。
なぜ、金融庁は住宅ローン破たんデータを公開していないのか。
金融庁の情報公開閲覧窓口に対して、住宅ローン破たんに係る文書の開示請求をしてみたら意外なことが分かったので、以下時系列に沿ってまとめておいた。
- 開示請求(その1)
- 金融庁担当者との電話応答(7月15日~8月6日)
- 上司からの丁寧な説明(8月10日)
- 開示請求(その2)
- まとめ(リスク管理債権は補償会社に譲渡されるので、金融機関には残らない)
- 雑感(国交省とは違う、金融庁の丁寧な対応)
開示請求(その1)
収入印紙300円を貼って、金融庁の情報公開閲覧窓口宛に7月9日、次の内容で行政文書の開示請求書を郵送した。
請求する行政文書の名称等
- 2001年以降の住宅ローン件数及び住宅ローン破綻・破綻予備軍の件数(年単位、月単位)が分かる文書
破綻予備軍の内訳は以下を要望するが、必ずしもこの区分に拘らない。
①延滞:実質破綻及び破綻懸念先
②3か月以上延滞:弁済期限を3か月以上経過。破綻及び①を含まない
③貸し付け条件緩和:金利の減免、利息の支払猶予、元金の返済猶予など債務者に有利となる取決めを行った件数で、破綻及び①②を含まない
金融庁担当者との電話応答(7月15日~8月6日)
7月15日:(担当)住宅ローン破綻に係る件数データは集めていない
6日後(7月15日(木))、金融庁の担当者から電話確認がきた。住宅ローン破綻に係る件数データは集めていないという。
以下、主なやり取り。
- 相手:住宅ローン破綻に係る件数データは集めていません。統計データとして国交省の「民間住宅ローン調査」H15からR1なら公開されています。
- 当方:件数データがないのなら、金額ベースのデータはありますか?
- 相手:不良債権の残高データがあるか、確認してみる。
- 当方:コロナ禍で住宅ローン破綻がどのような状況にあるのかを分析するのがデータ請求趣旨。よろしくお願いいたします。
- 相手:また電話確認することがあるかもしれないので、よろしくお願いします。
7月19日:(担当)「不存在」という回答になります
4日後(7月19日(月))、金融庁の担当者から再び電話がきた。
- 相手:関係者に確認したところ、不良債権の額のデータはあるが、住宅ローンの額は集めていないとのことでした。「不存在」という回答になります。不良債権額はHPで公開しています。手数料(300円)の返却手続きについては(略)。
- 当方:不存在という回答を文書でいただけるのですね?
- 相手:はい。
- 当方:手数料300円の返還手続きは、手間のほうが大変だから、返還無用です。
8月4日:(担当)HPに公開されている内容でよろしければ「取下げ」を
8月4日(水)、金融庁の担当者から再び電話がきた。
- 相手:金融庁のHPに情報が公開されています。
- 相手:請求情報がHPに公開されている内容でよろしければ、「取下げ」の文書を郵送してほしい。
- 当方:承知しました。
8月4日:(当方)「取下げ文書」を投函
書式は自由でよいとのことだったので、下記文章にて金融庁長官宛に「取下げ文書」を投函した。
2021年7月9日付の行政文書開示請求書に係る行政文書につき、同年8月4日御庁ご担当者からの電話連絡により御庁ホームページに概ね公開されていたことを確認しましたので取下げさせていただきます。
※8月6日、筆者の開示請求書が返送されてきた。
8月6日:(当方)当初どおり「不存在」という処理でお願いしたい
前回(7月19日)の電話連絡から2週間あまり経っていたこともあり、記憶が定かでないなか相手の言うままに「取下げ」を承知してしまったが、翌日改めてよく調べてみたら「取下げ」たことは筆者の判断ミスであったことに気が付いた。
金融庁から紹介されたHPで公開されているデータは、貸付条件の変更等の申し入れ件数等であって、破綻件数ではない。よって、「不存在」文書をもらうべきであった。
8月6日、当方から金融庁の担当者に電話。
- 当方:(相手に対して、以下2点リクエスト)
- 取下げ文書を郵送したが、廃棄してほしい。
- 住宅ローン破綻件数は紹介していただいたURLには掲載されていないので、当初どおり「不存在」という処理でお願いしたい。
- 相手:取下げ文書の有無に係らず、請求文書から特定される個所があるので、「不存在」とはならない。再請求する際に、「住宅ローン破綻・破綻予備軍・・・」を除けば、「不存在」という回答になる。
- 当方:同じことを繰り返したくないので、具体的な文章表現を助言してほしい
- 相手:関係者に確認し、折り返し電話する。
(電話待ち)
- 相手:次の文章でどうか。
預金取り扱い金融機関における住宅ローン新規貸出件数の合計の推移を示した行政文書(2001年以降の年単位・月単位の件数)。
- 当方:破綻件数が入っていない。
- 相手: 確認し、折り返し電話する。
(電話待ち)
- 相手:上司が帰ってしまったので、来週連絡させてください。
- 当方:下記文案でどうか?
預金取り扱い金融機関における住宅ローン貸出件数及び住宅ローン破綻件数それぞれの合計の推移を示した行政文書(2001年以降の年単位・月単位の件数)。
- 相手:内容を確認のうえ、来週回答する。
上司からの丁寧な説明(8月10日)
祝日明けの8月10日(火)、これまで電話のやり取りをしていた担当者の上司から直接電話が掛かってきた。上司からの説明内容は概ね次のようなものであった。
- 金融庁としては、できるだけ請求文書を特定して開示することに努めることとしている。
- 住宅ローン件数データ(分母)は国交省が開示している。分子となる住宅ローン破綻件数は定義によるが、リスク債権(法律で定義されている。4種類:破綻先債権、延滞債権、3か月以上延滞債権、貸出条件緩和債権)がある。
- リスク管理債権は補償会社に譲渡されるので、金融機関には残らないし、金融庁としても要求しない実態がある。
- リスク管理債権は、決算と連動しているので、月単位のデータはない。銀行だと3月期・9月期、信金だと年単位となる。
- 下記の文章で請求してもらえれば「不存在」との回答になる。( )内の書きぶりは、あなたの希望する時期を書けばいい。
預金取り扱い金融機関における住宅ローンに係るリスク管理債権の件数の合計の推移を示した行政文書(2001年以降の年単位・月単位の件数)。
開示請求(その2)
8月11日(水)、文章を下記のように改め、収入印紙300円を貼って、開示請求書を投函。
請求する行政文書の名称等
- 預金取り扱い金融機関における住宅ローンに係るリスク管理債権の件数の合計の推移を示した行政文書(2001年1月1日から2021年8月11日の間に存在する年単位または3月期・9月期の件数)。
9月7日に特定記録郵便で送られてきた「行政文書不開示決定通知書」には次のように記されていた。
2 不開示とした理由
- 開示請求に係る行政文書については、作成・取得しておらず、保有していないため、不開示とした。
まとめ(リスク管理債権は補償会社に譲渡されるので、金融機関には残らない)
金融庁や日銀、全国銀行協会(全銀協)のホームページには住宅ローン破たん件数は開示されていない。なぜ、金融庁は住宅ローン破たんデータを公表していないのか。金融庁に行政文書の開示請求を行い、電話でやり取りする過程でその理由を知ることができた。
まず、「住宅ローン破綻件数」という表現は曖昧なので、法律で定められている「リスク債権」(4種類:破綻先債権、延滞債権、3か月以上延滞債権、貸出条件緩和債権)という表現を使うことを助言された。
また、リスク管理債権に係る月次データはない。なぜならば、リスク管理債権は金融機関の決算と連動していて、銀行だと3月期・9月期、信金だと年単位となるからである。
そして、最も重要なことは、リスク管理債権は補償会社に譲渡されるので、金融機関には残らないし、金融庁としても要求しない実態があるということ。
雑感(国交省とは違う、金融庁の丁寧な対応)
金融の素人である筆者に対して、金融庁の担当者はとても親切に対応してくれた。ただ、説明内容が表層的すぎて筆者が充分に理解するに至らなかった。
その後、担当者の対応を引き取った上司の説明はとても丁寧で、腑に落ちる内容であった。
これまでの国交省航空局への開示請求の経験から、役所は情報を出したがらないものだという筆者の印象は、今回の金融庁の上司の一言「金融庁としては、できるだけ請求文書を特定して開示することに努めることとしている」で変わった。少なくとも金融庁は国交省とは違う、と。
ただ、リスク管理債権は補償会社に譲渡されるので金融機関には残らないにしても、住宅ローンの破たん実態を把握し効果的な対策を講じるために、金融庁はその権限を活かして住宅ローンの破たんデータ(リスク管理債データ)を集約し、公開する必要があるのではないだろうか。
あわせて読みたい