不動産経済研究所は2月20日、恒例の「2016年の全国マンション市場動向」を発表。
- 全国発売は1.4%減の7万6,993戸。3年連続減で2015年に続き7万戸台。
- 首都圏11.6%減、近畿圏1.3%減も東北、中・四国、九州などが大幅増。
- 平均価格は4,560万円。前年比58万円・1.3%ダウンと4年ぶりに下落。
不動産経済研究所が発表した資料には、過去10年間のマンションの「発売戸数」や「価格」などの推移データが表形式で掲載されている。
さらに、14年〜16年の事業主別発売戸数(上位20社)、いわゆるランキングも掲載されている。
最近の新築マンションの市場動向を知るための、貴重な情報が満載されているのだが、いかんせん数字の羅列なので直観的に理解しづらい。
マスコミ情報では物足りない人のために、過去に発表されたデータも含め、首都圏のデータを中心に見える化(グラフ化)したうえで、独自の考察を加えておいた。
1.発売戸数の動向
首都圏の発売戸数:遂に3.6万戸を下回る
全国の発売戸数は3年連続の減少ということなのだが、首都圏の落ち込みの影響が大きい(次図)。
首都圏の発売戸数は、消費税増税前の駆け込みで13年に需要を先食いして以降、減少中。
16年は、遂に3.6万戸を下回る。2000年代前半の半分にも満たない。
23区の発売戸数:遂に1万5千戸を下回る
23区に目をやると(次図)、2010年以来の2万戸水準から、13年には消費増税前の駆け込み需要で2万8千戸と急増したものの、14年に減少に転じ、16年は1万5千戸を下回った。
2.価格の動向
首都圏の平均単価:80万円に迫る
首都圏の「平均価格」は、01年に4,000万円だったのが、06年を境に大きく上昇し始め、07年から12年までは4,500万円前後の水準で推移。13年以降再び大きく上昇し、15年に5,500万円を突破したのち、16年は5,490万円まで若干下落(次図)。
また、首都圏の「平均単価」のほうは、06年を境に大きく上昇し始め、07年にm2当たり60万円の水準を上回り、08年以降は65万円前後と高止まりしていた。
ところが13年以降再び大きく上昇し、16年には80万円に迫った。
23区の平均価格:上昇傾向
23区の「平均価格」は、07年の6,120万円から漸減し始め、09年に5,190万円と底を打ったのち、10年は5,497万円と微増(次図)。
11年、12年と漸減傾向にあったが、13年以降上昇を続け15年に6,732万円に達したのち、16年に6,629万円まで若干下落。
23区の平均単価:遂に100万円を突破
23区の「平均単価」は、07年以降80万円~85万円の間に高止まり。13年以降上昇し、16年は遂に100万円を突破(次図)。
15年は異次元の高騰、16年はより狭く
23区の「平均価格」と「平均単価」から、「平均専有面積(=平均価格÷平均単価)」を逆算し、新築マンションの「平均価格」と「平均専有面積」の関係が分かるグラフを作ってみた(次図)。
23区では07年から09年にかけて、「平均専有面積」が小さくなる(狭くなる)ことで、「平均価格」が下がっていく様子がよく分る。10年以降は「平均専有面積」を抑え過ぎた反動なのか、面積、価格とも上昇。
15年は「平均専有面積」やや小さくなり、「平均価格」は6,732万円アップと異次元の高騰。16年は「平均価格」はあまり変わらずより狭くなった。
上のグラフから分かることはもう一つ。
データが二つの塊(「01年~05年のデータ」と「07年~14年」)に分かれていることだ。
06年から07年にかけて、「平均専有面積」はあまり変わらないのに、「平均価格」が1,000万円近くも上昇(5,149万円⇒6,120万円)しているのだ。
なぜ、たった1年の間に、23区の新築マンションの平均価格が1,000万円近くも上昇したのか?
筆者は、耐震強度偽造事件の影響だと考えている(次図)。
耐震強度偽装事件が発覚したのが05年11月17日。
再発防止の一環として、改正建築基準法が施行されたのが07年6月20日。
あまりにも拙速な法改正がその後のマンション不況の引き金となり、「改正建築基準法不況」とか「国交省不況」、あるいは当時の国交大臣の名前をとって「冬柴不況」と言われたほどだ。
改正建築基準法に対応するための、マンション事業の遅延コスト増や、設計・工事監理などのコスト増が、最終的にはマンション価格に反映しているのではないか――。
15年10月に世間に知れ渡ることになった傾斜マンション・杭工事データ偽装事件のマンション価格への影響は見られないようだ。
06年から07年にかけて新築マンションの平均価格が上昇した事象は、23区に限らない。
次図のように首都圏全体のデータを見ても、23区と同様の傾向が読み取れる。
3.全国発売戸数ランキングの動向
04年~16年の事業主別の全国の発売戸数(上位20社)データについても、以下に考察しておこう。
12年以降、大手4社が上位を独占
16年の事業主別供給戸数トップ5は、1位住友不動産(6,034戸)、2位三井不動産レシデンシャル(4,320戸)、3位野村不動産(4,056戸)、4位ブレサンスコーポレーション(3,225戸)、5位三菱地所レジデンス3,215戸)となっている。
今回、不動産経済研究所が発表した上位20社は、3か年分(14年~16年)。
ランキング(順位)だけだと、各事業主の勢いのほどが分かりにくい。そこで、過去に発表されたデータも含め、04年以降の大手の発売戸数の推移をグラフ化してみた(次図)。
長年にわたって首位をキープしていた大京の凋落ぶりとは対照的に、大手4社(住友不動産、野村不動産、三井不動産R、三菱地所R)は順位が入れ替わりながらも、12年以降上位を独占し続けている。
2016年の事業主別の発売戸数トップ20は次の通り。
順位:事業主(全国/首都圏/近畿圏/その他)
- 1位:住友不動産(6,034戸/5,043戸/570戸/421戸)
- 2位:三井不動産R(4,320戸/3,509戸/316戸/495戸)
- 3位:野村不動産(4,056戸/3,253戸/360戸/443戸)
- 4位:ブレサンスC(3,225戸/22戸/2435戸/768戸)
- 5位:三菱地所R(3,215戸/2,159戸/463戸/593戸)
- 6位:大和ハウスエ業(2,185戸/640戸/658戸/887戸)
- 7位:あなぶき興産(1,619戸/0戸/143戸/1,476戸)
- 8位:東急不動産(1,551戸/813戸/713戸/25戸)
- 9位:日本エスリード(1,476戸/0戸/1,476戸/0戸)
- 10位:タカラレーベン(1,204戸/464戸/0戸/740戸)
- 11位:大京(1,189戸/400戸/158戸/631戸)
- 12位:名鉄不動産(1,135戸/655戸/165戸/315戸)
- 13位:京阪電鉄不動産(1,127戸/581戸/532戸/14戸)
- 14位:阪急不動産(1,121戸/501戸/620戸/0戸)
- 15位:穴吹工務店(1,075戸/64戸/0戸/1,011戸)
- 16位:明和地所(1068戸/703戸/0戸/365戸)
- 17位:積水ハウス(1,045戸/474戸/240戸/331戸)
- 18位:近鉄不動産(1,005戸/226戸/730戸/49戸)
- 19位:新日本建設(936戸/871戸/0戸/65戸)
- 20位:フ-ジャースC(911戸/118戸/0戸/793戸)
10年以降、上位20社のシェアは50%を維持
ランキングに目を奪われず、発売戸数に着目することで、興味深い事象が見えてくる。
08年以降上昇し続けていた上位20社のシェア(全国主要都市の発売戸数に対する上位20社の合計発売戸数の占める割合)が、10年の56%をピークに頭打ちになっていることだ。
08年に起きたリーマンショックの影響で、中小デベロッパーがマンション事業からの撤退を余儀なくされ、ブランド力のある大手デベロッパーの寡占化が進んでいたのだが、10年以降中小デベロッパーがなんとか踏ん張っている様子が想像される。
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