東京都は2月6日、「東京都住宅マスタープラン(案)」を公表。
今後10年間(2016~2025年)の施策の展開の方向を示した「東京都住宅マスタープラン」を今年度中に策定するとして、パブコメを受け付中(締切2月19日)。
10年経っても「豊かな住生活」は実現していない
同マスタープランは5つの章(全115頁)から構成されている。
過去2回の章立てと比べてみると、ほどんと変わっていないことが分かる(次表)。
今回のサブタイトルに含まれている「豊かな住生活の実現」というキーワードは、10年前と同じ。
10年経っても、豊かな住生活は実現していないのだ(笑)
結構なボリュームなので、気になったところをコメントしよう。
民泊問題に言及している!?
文案には「民泊」という表現がどこにも見当たらない。
「8つの目標」のなかのひとつに、「良質な住宅を安心して選択できる市場環境の実現」を掲げているのにそれはないだろう、と思ってよく読んでいくと、それらしきことを示唆する文章を発見。
「第2章 住宅政策の展開に当たっての基本的方針」のなかで、「超高層マンションの管理」や「空き住戸の発生」などの問題とともに、「居住以外の目的でのマンションの所有・利用」が問題となることが指摘されているのだ。
目標5 安全で良質なマンションストックの形成
(前略)マンションは、多様な価値観を持った人々が区分して所有するため、区分所有者間の合意形成の難しさがある中、管理に無関心な居住者が増え、役員の成り手が不足するなど、管理上の問題が多くなる傾向が見られます。
さらに、管理組合の機能低下によって管理不全に陥り、スラム化を引き起こす可能性も指摘されています。
また、今後、超高層マンションの管理、居住以外の目的でのマンションの所有・利用や、空き住戸の発生などが問題となることが懸念されます。(以下略)(「第2章 住宅政策の展開に当たっての基本的方針」P45)
「居住以外の目的でのマンションの所有・利用」などと、持って回った言い方をせずに、「民泊等の目的でのマンションの所有・利用」とでも表現すればいいと思うのだが。
マスタープランを検討しているのは、都市整備局の住宅政策推進部。
「民泊」は福祉保健局 健康安全部の所掌。他の部局の問題には手を出さないという役所の縦割り意識のなせるワザなのか。
都が2016年3月に公表した「良質なマンションストックの形成促進計画」のほうには、「民泊問題」も「超高層マンション増加問題」もシッカリ掲載されていたのだが(都が認識している「超高層マンション増加問題」「民泊問題」)。
ちなみに、「住生活基本計画」は「住宅マスタープラン」の一部であるが、「良質なマンションストックの形成促進計画」は同プランの外枠であるという位置づけになっている(次図)。
「東京都住宅マスタープランの位置づけ」(P2)に筆者が着色
超高層マンション増加問題にはシッカリ言及
都市の景観や地域の生活環境にも大きな影響を与える超高層マンションの新規開発への規制・誘導の在り方を検討するという。
第3節 重点供給地域の指定と今後の取組
(前略)なお、家族構成やライフスタイルの変化を考慮した良好な居住環境を確保できる「質の充実」に転換し、多様で豊かなコミュニティを創出していくため、新たに大量の住宅を生み出し、都市の景観や地域の生活環境にも大きな影響を与える超高層マンションなどの新規開発については、都市づくりの観点も含め、規制や誘導の在り方等について検討を進めていきます。
(「第4章 住宅市街地の整備の方向」P113)
超高層マンション問題のほうは、民泊問題と違って、「良質なマンションストックの形成促進計画」に記載されている表現がシッカリと引き継がれている。
新たに大量の住宅を生み出し、都市の景観や地域の生活環境等にも大きな影響を与える超高層マンションの新規開発については、都市づくりの観点も含め、規制・誘導の在り方等について検討を進めていく必要がある。
(「良質なマンションストックの形成促進計画|超高層マンション増加」P68)
羽田の新飛行ルート問題への言及がない
「住宅政策の目指すべき方向」のひとつに「まちの活力・住環境の向上と持続」が掲げられている。
「住環境の向上と持続」は、国交省が進めている羽田の新飛行ルートによる騒音環境の悪化と相容れないところがある。
都はこの問題にどう折り合いをつけるのか?
文案には、羽田の件は全く触れられていない。
羽田の新飛行ルート問題(役所用語では「羽田空港の更なる機能強化」という)を扱っているのは、同じ都市整備局ではあるが、住宅政策推進部ではなく、都市基盤部。
縦割り行政だから記述しないのか、あるいは国交省マターなので都としては踏み込めないのか――。