羽田空港の機能強化「新飛行ルート問題」に係る一連のブログ記事に対して、読者の方から「騒音問題よりも墜落事故のほうが問題が大きいのではないのか」といった趣旨のコメントを頂戴した。
「墜落事故」と「騒音問題」について、情報を整理してみた。
ざっくり言うと
御巣鷹⼭事故(1985年)以降、日本の定期航空会社による乗客死亡事故は発⽣していない
国交省が運用している「羽田空港のこれから」というサイトの右上の「よくあるご質問」をクリックすると、「羽田空港の国際線の増便のための⽅策と取組みについて」(PDF:27MB)と題して、92枚におよぶ写真・イラスト付きのQA(以下、「QA集」)が表示される(次図)。
QA集の墜落事故に関する記述は下図のとおりだ。
日本ではJAL機の御巣鷹⼭事故(昭和60年)以降、定期航空会社による乗客死亡事故は発⽣していないという。
「QA集」P58より
航空事故(航空機内の⼈が⼀定以上の⾻折や⽕傷を負ったケースや、着陸時の強い衝撃により航空機に⼀定以上の修理が必要となったケースも含む)の発⽣件数は年変動はあるものの、全体では減少傾向にあるという(次図)。
「QA集」P58より
航空機からの落下物(部品や氷塊)については、過去10年間の発⽣件数が、成⽥空港周辺で18件(部品13件、氷塊5件)、⽻⽥空港周辺で0件とされている(QA集P70)。
御巣鷹⼭事故(1985年)のような大事故が起きたことは極めてショッキングではあるけれど、その後、日本の定期航空会社による墜落事故は発生していない(1994年4月26日に中華航空140便の墜落事故(死者264人)は発生している)。
だから新飛行ルートによる落下物事故や墜落事故に巻き込まれる可能性は極めて低いと考えてよい。
墜落事故よりも首都直下地震で死亡する可能性のほうがはるかに高い
約30年に2回(中華航空機の事故を含む)ということであれば、今後30年以内に70%程度の確率で発生すると予想されている首都直下地震のことを心配したほうがいいだろう。
首都直下地震対策検討ワーキンググループが2013年12月19日に公表した「首都直下地震の被害想定と対策について(最終報告)」の「【別添資料1】人的・物的被害(定量的な被害)」(PDF5.8MB)によれば、想定される最大の死者数約2万3千人のうち、23区では約1万1千人が想定されている(次表)。
23区の人口は約920万人(2016年1月現在 住民基本台帳)だから、首都直下地震が発生すると、23区では最大で千人あたり1.2人(=1.1万人÷920万人×1000)が死亡すると想定されていることになる。
飛行機の墜落事故は約30年間で2件(中華航空機の事故を含む)。
約30年以内の発生確率70%の首都直下地震で死亡するのは千人あたり1.2人。
あなたが新飛行ルートによる墜落事故に巻き込まれるよりも、首都直下地震で死亡する可能性のほうがはるかに高いのである。
だから、ここは新飛行ルートによる落下物事故や墜落事故よりも、頻繁かつ広範囲に影響を及ぼす騒音問題に着目したい。
新宿・中野・埼玉県南部でも約63~70dB
QA集には、新⾶⾏経路による騒音の影響がイラストで示されている(次図)。
離陸時は、川崎市川崎区千鳥町、水江町付近で約71~80dB。
着陸時は、大井町付近で約76~80dB、麻生・恵比寿・渋谷付近で約68~74dB、新宿・中野・埼玉県南部でも約63~70dBと結構うるさいのである。
「QA集」P44より
あまりにウルサイので、国交省は「義務教育の時間や夜間にお休みになる時間帯を踏まえ、新⾶⾏経路案の午後の運⽤時間を、15時〜19時として提案」しているのである。
「QA集」P33より
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