最近、都内のホテルは予約が取りにくくなっているという。
2020年の東京オリンピックに向けて、Airbnbは宿泊施設不足を救えるか?
- 訪日外国人の宿泊施設は足りているか?
- Airbnbは日本の参入障壁を越えられるか?
- 大阪府の「民泊条例」は機能するか?
- パンドラの箱を開けてしまった大阪府
- 2020年東京オリンピック開催期間中の宿泊施不足解決の奥の手
- 官の果たすべき役割
- まとめ
訪日外国人の宿泊施設は足りているか?
訪日外国人は2013年に初めて1千万人を突破し(1036.4万人)、2014年は1,341万人、2015年は7月までに1,105万人に達している。
政府は、さらに2,000万人の高みを目指すとともに、2030年には3,000万人を超えることを目指すこととしている (平成25年6月閣議決定)。
(日本政府観光局(JNTO)訪日外客数の動向データをもとに作成)
ただ、現状でも都内のホテルは予約が取りにくくなっているというのに、東京オリンピックが開催される2020年の目標訪日外国人2,000万人、そして2030年の目標訪日外国人3,000万人に対して、宿泊施設の建設は追いついているのか。
都心ではホテルの建設計画のはあるものの、人件費・物件費の高騰もあり、2,000万人、3,000万人もの訪日外国人を受け入れられる数のホテルの建設はかなり厳しい状況にありそうだ。
Airbnbは、このような宿泊施設不足問題の解決策の一つとして期待されているところがある。
宿泊施設の需要が増えれば、市場原理によって、Airbnbの登録物件数も増えることが期待できる。また、ホテルや旅館よりも、宿泊スペースの広さやグレード、料金体系などニーズに合わせた多様なレンタルが可能となろう。
Airbnbは日本の参入障壁を越えられるか?
建築基準法や消防法、旅館業法など、ホテルや旅館などに課せられている各種の規制がAirbnbにどこまで、どの程度の厳格さをもって課せられるかが、今後日本でAirbnbが普及するか否かのポイントとなろう。
日本の参入障壁を越えられず、足踏みをしているUber(ウーバー)の例がある。
もうひとつのシェアエコノミーであるUberは、2009年に始まり、現在、世界58カ国・地域の300都市でITを活用した配車サービスを展開している。
一般的なタクシーの配車に加え、一般人が自分の空き時間と自家用車を使って他人を運ぶ仕組みを提供しているのが大きな特徴であるが、日本では国土交通省が「自家用車による運送サービスは白タク行為に当たる」として、現時点において、Uberはタクシーの配車サービスにとどまっている。
大阪府の「民泊条例」は機能するか?
大阪府は全国自治体に先駆け、「民泊条例」を制定すべく、現在パブコメを募集中である(2015年9月8日〆切)。
条例案の概要については、「大阪府の民泊条例でマンションの資産価値は守れるか」参照。
この条例案が今後どの程度修正されるのか、現段階では不明だが、施行された暁には、大阪府のAirbnbホストは全員、この条例の規制を受けることになる。
そうなると、居室の床面積は25m2以上でなければならないとか、台所、浴室、便所、洗面設備がなければならないといったようなハード面での制約や、近隣住民からの苦情等の窓口を設置し、近隣住民に周知しなければならないといったソフト面での制約が課せられる。
特に、滞在日数6日以下の部屋貸しができなくなることは影響が大きい。
大阪府でAirbnbに登録されている物件数は、アパートが2,382件、一軒家が519件で、どちらも都道府県ランキング3位(2015年7月31日現在)。
詳しくは、「なぜ佐賀県が9位?! AirBnB登録件数ランキング 」参照。
アパートと一軒家を合わせて2,901件(現在はさらに増えているであろう)。この3千件近いAirbnb登録物件が大阪府の「民泊条例」をチキンと守れるとはとても思えないのだがーー。
そもそも「民泊条例」がキチンと守られているか否か確認することができるのか?
たとえば、金沢市はAinbnbに登録されていた39件の民泊を調査し、そのうちの無許可物件(34件)を「指導」している間に、新たに7件の登録物件が生まれたというモグラたたきを演じている(Airbnbへのモグラたたきが始まっている )。
たった39件の物件を調査・指導するだけでも大変なのに、大阪府は3千件近い物件をまともに調査・指導できるのだろうか?
そもそも大阪府は調査・指導するつもりはあるのだろうか?
ホテル・旅館業界からの圧力があれば、大阪府は調査・指導に動くのか?
Ainbnb登録物件で事件・事故が発生しないと行政は動かないのではないのか?
パンドラの箱を開けてしまった大阪府
仮に、大阪府がAinbnb登録物件を適切に管理できて、不正な物件がなくなったとしよう。
隣県である京都府や兵庫県は、国家戦略特区に指定されているので民泊条例を制定することができるのだが、現在制定していない。
大阪府のAinbnb登録物件は厳しい条例のもとに管理されるのに、条例が制定されていない京都府や兵庫県のAinbnb登録物件は従来通り、「行政は見て見ぬふり」という黙認状況は果たして健全といえるのだろうか。
さらに言えば、東京都で国家戦略特区に指定されているのは、23区の一部だ(次図)。
※平成27年8月28日に東京都全域が国家戦略特区に指定されました(9月30日追記)
たとえば、江東区は国家戦略特区なので「民泊条例」を制定できるが、江戸川区は国家戦略特区ではないので「民泊条例」を制定できない。
そうなると、同じ都内でありながら、特区と非特区でAinbnb登録物件への対応が異なることになる。
大阪府や京都府、兵庫県は全域が国家戦略特区に指定されているのでこのような問題は生じないのだが、東京都の場合には特区と非特区の区が混在しているために、このような不公平問題が生じる。
この問題があるために、大阪府が全国初の「民泊条例」を制定したからといって、すぐに東京都が追随することはできないであろう(23区全域を国家戦略特区に指定してしまうという手はあるが)。
実際に遵守されているかどうか調査・指導することが困難な「民泊条例」を制定する。「民泊条例」を制定している自治体とそうでない自治体との間で不公平な取り扱いが生じる。
大阪府はパンドラの箱を開けてしまったのではないのかーー。
2020年東京オリンピック開催期間中の宿泊施不足解決の奥の手
宿泊施設不足問題は、大阪府以上に東京都は深刻だ。
少なくとも2020年の東京オリンピック開催期間中の宿泊施設は何としてでも確保したいはずだ。
となると、「イベント開催時で、宿泊施設の不足が見込まれ、公共性の高い場合には、自宅を提供することは、旅館業法の適用外である(2015年6月30日に閣議決定)」という特例を使って、オリンピック開催期間の宿泊施設不足問題を切り抜ける手もある(次表)。
ただし、この奥の手を使うには、マンション住人の了解が必要だ。
東京都は、訪日外国人に対して都民が一丸となってオモテナシを行うというムードを盛り上げていくことが不可欠であろう。
官の果たすべき役割
外国人が投資目的で購入したマンションを海外からの旅行者に貸し出す。日本人が一切関与せず、室内で何が行われているのか、まったく分からないという状態は「悪い民泊」。
自宅の一部を開放し、海外からのお客様に和食を振る舞う。食事を共にしながら、異文化コミュニケーションを図る。アットホームなオモテナシの場を提供するのは「良い民泊」だと思う。
ただ、「良い民泊」にしても、周辺住民(住戸)への説明と了解は必要だ。
戸建はともかく、マンションの一室を貸し出す場合には、マンション管理組合の承諾は不可欠であろう。
金沢市の事例に見られるように、役所がAirbnb登録物件のすべてを監視・指導することは不可能だ。
ならば、役所は防犯や安全・安心を確保するためのハードとソフトを課すことなど、ホテルと民泊との不公平によって生じる外部不経済への対応に注力し、あとのこまごまとしたことは民に任せるのがいい。
その際に、民泊に対して、ホテルや旅館並みの規制が本当に必要なのか民意を踏まえること。
高々数人の来客を泊めるだけの民泊と、不特定多数を対象としているホテル・旅館には、必ずしも同じレベルの規制が必要とは限らないのである。
まとめ
- 東京オリンピックが開催される2020年の目標訪日外国人2,000万人、2030年の目標訪日外国人3,000万人もの訪日外国人を受け入れるための宿泊施設の建設はかなり厳しい状況にある。
- Airbnbは、このような宿泊施設不足問題の解決策の一つとして期待されているところがある。
- 建築基準法や消防法、旅館業法など、ホテルや旅館などに課せられいる規制がAirbnbにどこまで、どの程度の厳格さをもって課せられるかが、今後日本で普及するか否かのポイントとなろう。
- 3千件近いAirbnb登録物件が大阪府の「民泊条例」をチキンと守れるとはとても思えない。そもそも「民泊条例」がキチンと守られているか否か確認できるものなのか?
- 大阪府のAinbnb登録物件は厳しい条例のもとに管理されるのに、条例が制定されていない京都府や兵庫県のAinbnb登録物件は従来通り、「行政は見て見ぬふり」という黙認状況は果たして健全といえるのだろうか。
- 東京都の場合には特区と非特区の区が混在しているために、さらに問題は複雑化する。大阪府はパンドラの箱を開けてしまったのではないのか。
- イベント特例を適用し、オリンピック期間の宿泊施設不足問題を切り抜ける手はあるが、マンション住人の了解が得られるように都民一丸となっての訪日外国人をオモテナシしようというムードを盛り上げていくことが不可欠である。
- 役所は防犯や安全・安心を確保するためのハードとソフトを課すことなど、ホテルと民泊との不公平によって生じる外部不経済への対応に注力し、あとのこまごまとしたことは民に任せるのがいい。
※平成27年8月28日に東京都全域が国家戦略特区に指定されました(9月30日追記)
Airbnbのなんたるかをよく知りたい方は、このブログで書き溜めてきたAirbnb関連記事をご覧ください。
(本日、マンション広告なし)