正確性に欠ける情報を掲載したDeNAの「Welq」問題を発端としたキュレーションサイトの相次ぐ閉鎖。
「正確性に欠ける情報」どころか、半数近くが実在しない「おとり物件」を掲載している不動産情報サイトの閉鎖が話題にならないのは、なぜか?
- 半分が「おとり物件」の衝撃(日経ジビネス)
- マスメディアは「おとり広告」問題に切り込んでいるか?
- 不動産情報サイトは、おとり広告と決別できるか?
- 不動産公正取引協議会に「おとり広告」絶滅のインセンティブは働くか?
- 不動産公正取引協議会の新施策「広告掲載を1か月以上停止」は甘い?
- 国交省の形だけの注意喚起文書
- 課徴金制度で一罰百戒の効果が得られるか?
半分が「おとり物件」の衝撃(日経ジビネス)
延べ4万1057件の物件を確認した結果、全体の50.08%が「成約済み」物件で、借りることができない状態だったことが分かったという。
成約済みや架空の賃貸物件を掲載し、顧客を店舗に呼び込む「おとり物件」商法。不動産テック会社イタンジの調査で、割安な人気物件の半分におとりの疑いがあることが分かった。
イメージ悪化を危惧する不動産情報サイトが対策の強化に踏み切ったが、実効性には疑問が残る。
(中略)
リクルートが運営する「SUUMO(スーモ)」で43.69%と、主要な不動産情報サイトでも軒並み4割を超える物件が成約済みだった。(以下略)(日経ビジネス 2016年12月12日号)
マスメディアは「おとり広告」問題に切り込んでいるか?
正確性に欠ける情報を掲載したDeNAの「Welq」問題を発端としたキュレーションサイトの相次ぐ閉鎖。
KDDI子会社のSupershipが運営しているnanapiも「健康・医療カテゴリー」を非公開。
リクルートホールディングスは12月9日、「著作権の侵害の可能性がある」として、同社が運営するアニメ情報サイト「アニプラ」など4メディアの記事をすべて非公開にした。
「正確性に欠ける情報」どころか、半数近くが実在しない「おとり物件」を掲載している不動産情報サイトの閉鎖が話題にならないのは、なぜか?
閉鎖した場合の影響が大き過ぎるからなのか・・・too big to close。
あるいは、スポンサーを慮ったマスメディアが報じないので、世間が広く知るところとなっていないからなのか。
不動産情報サイトは、おとり広告と決別できるか?
4割超も「おとり広告」を掲載している不動産情報サイトにとって、おとり広告を排除することは経営の屋台骨を失うことにならないのか?
大手不動産情報サイトのなかで、 東証1部に上場しているネクスト社(HOME'Sの運営会社)の2016年3月期の決算書をひも解いてみよう。
同社の売上収益257億円の7割近くを「国内不動産情報サービス事業」が占めている。その「国内不動産情報サービス事業」のうち、セグメント別の売上収益(セグメント間取引相殺前)は、「賃貸・不動産売買」が121億円(65.8%)と最も多い(次図)。
日経ジビネスの記事によれば、ホームズの成約済み物件の掲載比率は45.52%。
仮に、4割の物件がおとり物件だとして、サイトから排除することになると、48億円(=120億円×4割)の売上収益を失うことになる。
これでは、おとり広告絶滅のインセンティブが働かないのでは。
では、不動産情報サイトを監視している首都圏不動産公正取引協議会であれば、おとり広告の絶滅を期待できるのか?
不動産公正取引協議会に「おとり広告」絶滅のインセンティブは働くか?
首都圏不動産公正取引協議会のホームページに公開されている事業報告をひも解くと、違約金課徴収益が年々増加していることが分かる(次図)。
※すべてが「おとり広告」に対する違約金課徴収益というわけではない。
15年度の「収支報告(決算)」を見ると、同協議会の経常収益約1.6億円の約1割を違約金課徴収益が占めているのである(次図)。
もはや予算案に計上されるまでに至った「違約金課徴収益」。
これでは、首都圏不動産公正取引協議会も、「おとり広告」絶滅のインセンティブが働きにくいように思えるのだが。
不動産公正取引協議会の新施策「広告掲載を1か月以上停止」は甘い?
同協議会は11月16日、「規約違反事業者への対応について」として、「おとり広告」の撲滅を強力に推進するため、違反者に対しては、不動産情報サイトへの広告掲載を1か月以上停止するとしている。
公益社団法人首都圏不動産公正取引協議会は、昨今、新聞報道やテレビニュース等において、不動産のおとり広告が社会問題として非難を浴びている状況に鑑み、特にインターネット広告における「おとり広告」等の撲滅を強力に推進するため、不動産の表示に関する公正競争規約に違反し、厳重警告及び違約金課徴の措置を講じた不動産事業者に対して、当協議会に設置した「ポータルサイト広告適正化部会」の構成会社がそれぞれ運営する不動産情報サイトへの広告掲載を、原則として、1か月間以上停止する施策を平成29年1月度の措置から開始します。
ドーピングに違反した選手が無期限の出場停止や永久追放処の処分を受けることを考えると、「広告掲載を1か月以上停止」とは、ずいぶんと甘い処置ではないか。
では、首都圏不動産公正取引協議会を指導する立場の国交省であれば、おとり広告の絶滅を期待できるのか?
国交省の形だけの注意喚起文書
国交省は不動産業課長名で11月28日、全国宅地建物取引栗協会連合会宛に、「おとり広告の禁止に関する注意喚起等について」という文書を発信している(次図)。
こんな紙切れ一枚(と関連条文を抜粋した1枚)で、おとり広告がなくなるならば、とっくの昔になくなっているであろう。
では、今年の4月1日に施行された、不当な表示を防止するための課徴金制度に、おとり広告の絶滅を期待できるのか?
課徴金制度で一罰百戒の効果が得られるか?
不当表示による「やり得」を認めず、事業者が不当表示を行おうとする動機づけを奪うことを目的として、景品表示法への課徴金制度が導入された。
消費者庁の表示対策課長補佐は、10月28日に開催された不動産公正取引協議会連合会の第14回通常総会において、課徴金が課せられる業者が「年度内には1件ぐらい出てくるのではないか」と発言している。
優良誤認や有利誤認といった不当表示行為に対する抑止力の強化のために、新たに不当表示を行った事業者に対して経済的な不利益を賦課するというかたちの課徴金制度を設けたもので、課徴金制度は本年4月1日から施行されています。
まだ課徴金が課されたという事例は出ていませんけれども、年度内には1件ぐらい出てくるのではないかと考えております。
本庁の課長補佐の発言は重い。一罰百戒の生贄になる業者はあなたかもしれない。
ただ、課徴金額は、対象商品・役務の売上額に3%を乗じた額。不動産仲介業の場合、 役務の売上額は、「仲介役務の対価である仲介手数料」が対象。たいした額ではないので、効果のほどは分からない。
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